ICUでは「急性心不全」や「急性呼吸不全」という言葉をよく聞くかと思いますが、単独の臓器不全ももちろんのこと、感染や炎症も重なり「多臓器不全」になることも多いです。
臓器障害では他臓器ときわめて複雑な関係性があります。
例えば急性腎障害(AKI)は腎臓だけ悪くなることはあまりなく、心不全や敗血症など別の病態が関わっていることが多いです。
※臓器障害のイメージ
ここでは、それぞれの臓器にフォーカスをあてて解説していこうと思います。
臨床工学技士なら知っておきたい機械の話も添えていきますね。
もくじ
・各臓器障害の解説「心臓」
・各臓器障害の解説「肺」
・各臓器障害の解説「腎臓」
・各臓器障害の解説「脳」
・各臓器障害の解説「肝臓・膵臓・消化器」
各臓器障害の解説「心臓」
心不全とは「なんらかの心機能障害によって運動耐容能が低下する臨床症候群」と定義されています。
ここではわかりやすく「心拍出量の低下」と考えていきましょう。※厳密には違いますが
心拍出量の低下によって血圧低下や循環不全が起こります。
心拍出量の低下は「心臓そのもの」が原因であれば、「心臓以外(血管など)」が原因の時もあります。
心拍出量が低下する「あらゆる原因」が心不全になります。
心不全は「症候群」なので、心不全の原因を理解するには次の3つの基礎知識が必要になります。
・心収縮力
・前負荷
・後負荷
心収縮力
心筋梗塞が原因で心臓の栄養血管である冠動脈の血流不足、いわゆる虚血性心疾患や、不整脈、弁膜症(大動脈弁逆流・狭窄の弁膜症)、心筋炎、などなど
「心臓そのもの」が原因で心拍出量は低下します。
・治療は「強心薬(心収縮力↑)」
強心薬は文字通り心収縮力を高める薬剤と血管収縮作用を高める薬剤があり血圧を上昇させます。昇圧剤とも呼ばれます。一時的な血行動態の改善に有効です。血圧低下、末梢循環不全、循環血液量の改善に用いられます。心不全で強心薬でも血行動態が破綻する場合は補助循環を行いることがあります。
前負荷・後負荷
さきほどの心収縮力は「心臓そのもの」が原因で心拍出量が低下しますが
心拍出量は「心臓前後の血管」でも変化します。
「前負荷は心臓の入る前の血液の抵抗」「後負荷は心臓を出た血液の抵抗」になります。
基本的に、
前負荷は血液量が多いほど心臓に血液が入りやすいため負荷は少ない →心拍出量↑
後負荷は血管が柔らかいほど心臓が血液を押し出しやすいため負荷は少ない →心拍出量↑
とイメージすればわかりやすいかと思います。
上は一回拍出量と前負荷・後負荷の関係性を示した図です。
前負荷は高いほど得られる一回拍出量は高いです。
(フランク・スターリングの法則)
後負荷は低いほど得られる一回拍出量は高いです。
しかし、前負荷が高すぎると(前負荷曲線の一番右)一回拍出量が低下します。いわゆる「溢水」の状態であり、血液量が多すぎるために心臓がパンパンに張ってしまい、うまく駆出できない状態です。
このように心不全は心臓そのものだけでなく、前後の血管の影響で心拍出量が左右されます。
・治療は「容量負荷(前負荷↑)」
現場ではボリューム負荷とも呼ばれます。輸液や輸血のことです。血液量が少ないと判断した場合は輸液をしますが貧血であれば輸血をします。
・治療は「利尿薬(前負荷↓)」
ループ利尿薬は体液貯留・心原性肺水腫に使用し、前負荷を軽減させ浮腫や肺うっ血が改善します。利尿効果が見られない場合は違う尿細管作用の利尿薬を使用、もしくは持続的血液浄化による限外濾過を行います。
・治療は「限外濾過(前負荷↓)」
血液浄化装置を用いフィルターによって除水を行います。4時間の血液透析(HD)でも除水はできますが、急性心不全では循環動態の変動が少ない緩徐な24時間の血液透析(CHDF)を行うことが多いです。透析治療をせず除水だけを行うECUMとよばれる方法もあります。病態に合わせて使い分けます。
・治療は「血管拡張薬(前負荷↓後負荷↓)」
心原性肺水腫に有効ですが体液貯留が目立てば利尿薬中心で治療します。血圧の低い心原性ショック患者は血圧低下するため血管拡張薬の使用を控えます。
・治療は「血管収縮薬(後負荷↑)」
強心薬は文字通り心収縮力を高める薬剤と血管収縮作用を高める薬剤があり血圧を上昇させます。昇圧剤とも呼ばれます。一時的な血行動態の改善に有効です。血圧低下、末梢循環不全、循環血液量の改善に用いられます。心不全で強心薬でも血行動態が破綻する場合は補助循環を行います。
急性心不全の初期対応
急性心不全の診断イメージ
心停止した場合は心肺蘇生(CPR)を行います。
右心不全(肺血管異常)と急性冠症候群(ACS)(冠血管異常)は特殊な病態なので、できるだけ早めに診断して除外します。
急性心不全は「収縮期血圧(CS分類)」と「うっ血・低灌流の有無(Nohria-Stevenson分類、Forrester分類)」で病態を把握します。
クリニカルシナリオ(CS)分類
CS分類は収縮期血圧だけをみて病態を予測するものです。参考にします。
ノリア・スティーブンソン(Nohria-Stevenson)分類
Nohria-Stevenson分類は「うっ血や脱水の程度(dry-wet)から体液量」「四肢の冷感(warm-cold)から末梢循環」をみて心不全を分類します。
心不全は病態が広いので、このように分類することで治療の方向性を決めます。
Nohria-Stevenson分類で不十分な時はスワンガンツカテーテルを用いたForrester分類によって分類します。
フォレスター(Forrester)分類
分類の見かたはNohria-Stevenson分類と似たようなもので、
末梢循環 →心係数(CI)
体液量 →肺動脈楔入圧(PAWP)
として数値化できます。
ここまでで完全に診断をしないのです。病態をなんとなく「予測」するのです。
確定診断も大事ですが、緊急時は早めの治療が優先されるので、おおまかに病態が分かったら治療をします。
診断の確定には専門医が
・病歴・症状(胸痛、家族歴、慢性心不全)
・身体所見(うっ血・末梢循環・脈・呼吸・トリアージ)
・バイタル(血圧、心拍数、呼吸数、SpO2、体温)
・血液検査(BNP、NT-proBNP、腎機能、電解質、血糖、血算、肝機能、甲状腺機能)
・エコー検査
・胸部X線
・胸部CT
・12誘導心電図(不整脈)
これらを行い、検査します。
診断も大事ですが、急性心不全は緊急時が多いです。
上述したように早めに病態を把握し、治療を行うことが大事です。
治療を行いながら診断を同時進行で進めるのが鉄則です。
患者がショック状態のときは蘇生を行います。
循環管理
血液ガス測定で乳酸値(Lac)>2 mmol/L
収縮期血圧(SBP)90 mmHg以下
あるいは平均血圧(MBP)65 mmHg以下
容量負荷(輸液)や強心薬を投与します。
それでも循環が立ち上がらない場合は補助循環などを行います。
・補助循環
容量負荷や強心薬が効かない場合は機械による循環補助を行います。大動脈バルーンパンピング(IABP)やECMO(PCPS)、インペラー、補助人工心臓(VAD)などの種類があり、別項で詳しく解説します。
呼吸管理
SpO2 90%以下またはPaO2 60 mmHg以下では酸素投与
呼吸回数25回/分以上、SpO2 90%以下で呼吸困難の改善が認められない場合は陽圧呼吸(NPPV)
それでも改善を認めない場合は気管挿管により人工呼吸が推奨されています。
・NPPV
心不全では陽圧換気で肺血流が改善し有利になる場面があります。
その際に同時進行で心不全歴や治療歴、既往歴、安定期のバイタル、心機能などの患者情報の収集を行います。心エコーを行うことでより的確な診断および病態把握ができます。
参考資料(フローチャート)
急性冠症候群(ACS)
急性冠症候群(ACS:acute coronary syndrome)は心臓の栄養血管である冠動脈にプラークや血栓が石灰化によって冠血流が低下し、心筋虚血になることです。
ACSは「不安定狭心症」「急性心筋梗塞」「心臓突然死」の総称になります。
診断項目としては
・症状(胸痛など)
・12誘導心電図(ST上昇、ST低下) →冠動脈閉塞部位
・心エコー →合併症
・血液検査(CK、トロポニンなど) →心筋壊死
であり、主に行われる治療はカテーテルで冠動脈の病変部を再灌流させる経皮的冠動脈インターベンション(PCI)です。
PCIがうまくできなかったり、心室中隔穿孔や左室自由壁破裂などの合併症で冠動脈バイパス手術(CABG)が行われることもあります。
ACS症例では冠血流を増加させるIABPが代表的な補助循環です。
近年Impellaも保険承認され、使い分けがこれから変わってくると思います。
VA-ECMOも根強く使われており、循環動態が破綻した心原性ショックでPCI前に導入することもあります。
心腎連関症候群(CRS)
心臓と腎臓は相互関係があり、片方が悪くなればもう片方も悪くなる。という作用があります。
集中治療領域ではたびたびみられるこの「心腎連関症候群(CRS : cardio-renal syndrome)」は心不全・腎不全の危険因子として知られています。
5つのタイプが考えられています。
1 急性心不全 → 急性腎不全
2 慢性心不全 → 慢性腎不全
3 急性腎不全 → 急性心不全
4 慢性腎不全 → 慢性心不全
5 全身性疾患(敗血症など) → 急性・慢性心不全、急性・慢性腎不全
心外の術後
心臓血管外科の術後はバイタルが不安定で、突然心停止を起こすこともあります。
日頃から、突然の心停止でも対応できる体制を院内で構築しておく必要があります。
機械のサポートはもちろん、我ら臨床工学技士も胸骨圧迫する場面があります。
ペースメーカーやIABP、VA ECMOの循環管理だけでなく、術後の呼吸不全からVV ECMOを導入することもあります。
また、慢性腎不全患者の周術期管理や術後に立ち上がらない急性腎障害の補助でCHDFを急遽導入することもあります。
他にも、脳卒中や非閉塞性腸間膜虚血(NOMI)など重症なほど合併症も多く見られます。柔軟に対応できるようにしましょう。
心停止後症候群(PCAS)
心停止後症候群(PCAS : post cardiac arrest syndrome)は心肺蘇生(CPR)後の再灌流で起こる病態です。
心停止後症候群(PCAS)は
・脳損傷
・心筋障害
・全身性虚血再灌流障害
・残存する心停止の原病
これら4つに分類されます。
後遺症になる前に早めに病態を把握し、治療するのがカギです。
・脳損傷
脳は虚血に弱く心停止後は脳障害や脳死に至ることもあります。心停止後症候群(PCAS)の中で最も多いのが脳損傷です。心停止に心肺蘇生(CPR)を行った後は低体温療法を行うことが推奨されています。高体温下では代謝量も増えるため、脳で酸素が盛んに代謝され虚血状態になってしまいます。脳保護を目的に低体温療法では患者を低体温にして脳の代謝を抑えます。
・心筋障害
原因が心筋梗塞であれば経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を行います。心筋梗塞が原因でなくても心停止による虚血によって心筋障害が起こります。心電図変化や壁運動低下、心拍出量の低下などが起こります。一時的な虚血のようであれば時間の経過で回復することが多いです。
・全身性虚血再灌流障害
一度虚血になった臓器や血管が再灌流すると、サイトカイン産生や凝固系亢進が起こり臓器障害になることがあります。心拍再開(ROSK)後は各臓器の障害に注意しながら観察し、治療していきます。サイトカイン除去を目的としたCHDFを行うことがあります。
・残存する心停止の原病
心肺蘇生(CPR)で再灌流しても原病の治療が行われなければ再度、心停止する可能性が高いです。原因を早めに特定し、治療をします。
※これらは2020年に作成された記事です。ガイドラインや診断の方針は常に更新され変更されていくので、記事の内容と異なる可能性があります。
各臓器障害の解説「肺」
臨床工学技士が知っとくべき肺にまつわる病気のお話をご紹介します。
というのも、モニタリングであるSpO2やETCO2の数値の解釈が病態によって違うからです。血ガスもですね。
そこから人工呼吸器を適切に設定するうえでも、病態を理解する必要があります。
逆に理解して臨めば、有意義に治療ができるので、まさに臨床工学技士の腕の見せ場です!!
ICUでは急性呼吸不全や急性呼吸促迫症候群(ARDS)の患者が多いです。
呼吸不全は血液ガス分析で検査し
PaO2 60mmHg以下がI型呼吸不全
PaO2 60mmHg以下 + PaCO2 45mmHg以上がII型呼吸不全
I型はいわゆる酸素化障害で酸素が問題!
II型はいわゆる換気障害で酸素と二酸化炭素が問題!
急速に発症(一週間程度)したものが急性呼吸不全になります。
呼吸不全に検査には閉塞性と拘束性に分類する呼吸機能検査があり、有名ですが、急性期では検査が困難なためあまり使用しません。
※呼吸機能検査(参考資料)
急性呼吸不全では呼吸回数増加、努力呼吸、頻脈が最初に見られます。血液検査で動脈血の血液ガス分析を行います。
胸部X線、CT、エコー、12誘導心電図などで精査し、原因の鑑別を行います。
呼吸不全の病態
呼吸不全の病態は
・拡散障害(I型)
・換気血流比不均衡(I型)
・シャント(I型)
・肺胞低換気(II型)
このように分類できますが、実際は完全に分類できるわけではなく、これらの病態が組み合わさったケースが多いです。
呼吸不全の病態は「吸入気酸素分圧の低下」もありますが、山頂とかの特殊な環境下で起こるものなので、ICU(院内)では除外します。
※呼気終末陽圧(PEEP : positive end-expiratory pressure)
※吸入気酸素濃度(FIO2 : fraction of inspiratory oxygen)
・拡散障害
酸素が肺胞内から血液中に通過する(拡散)過程で障害が起きることを拡散障害と言います。拡散障害では酸素化が障害され、A-aDO2が上昇します。二酸化炭素は酸素に比べて20倍拡散しやすいと言われています。なのでPaCO2は上昇しません。間質性肺炎が代表的です。
・換気血流比不均衡
換気血流比不均衡では酸素化が障害され、A-aDO2が上昇します。代償(過換気)されればPaCO2は上昇しません。換気(V)と血流(Q)の正常比はV/Q=0.8で1が最も酸素化の効率が良いです。換気(V)の方が多くなるとV/Q=1以上で死腔様効果、さらに多くなりV/Q=∞で死腔となります。血流(Q)の方が多くなるとV/Q=1以下でシャント様効果、V/Q=0でシャントとなります。肺炎や急性呼吸促迫症候群(ARDS)、心不全などが多いです。人工呼吸器を装着すると換気血流比が変わってきます。詳しくはこちらで解説しています→「陽圧換気と陰圧換気の違い」
・シャント
シャントでは酸素化が障害され、A-aDO2が上昇します。代償(過換気)されればPaCO2は上昇しません。シャントは肺胞が虚脱すると血流だけがありV/Q=0になります。この部分はガス交換されません。肺毛細血管シャント(capillary shunt)とも呼ばれます。FIO2ではなくPEEPによる肺胞再拡張(リクルートメント)で酸素化が改善します。肺炎や急性呼吸促迫症候群(ARDS)、心不全などが多いです。
・右左シャント
右左シャントは解剖学的シャント(anatomical shunt)とも呼ばれます。心房中隔欠損や心室中隔欠損、肺動静脈瘻などがあげられます。
・肺胞低換気
換気量が少ない病態です。換気量不足から二酸化炭素が排出できずPaCO2が上昇します。低換気量やPaCO2上昇からPaO2も低下します。頭(呼吸中枢)の障害や神経・筋の障害、胸郭・肺容量の低下、気道狭窄などが原因で神経筋疾患・薬物中毒、COPDがあげられます。換気量が増加すれば改善します。PaO2が低い時は酸素投与しますがCO2ナルコーシスに注意します。
酸素化の指標
・動脈血酸素分圧(PaO2)
PaO2 = FIO2 (大気圧 - 飽和水蒸気圧) - PaCO2 / 呼吸商 - A-aDO2
動脈血酸素分圧(PaO2 : partial pressure of arterial oxygen)は動脈血の酸素分圧です。PaO2は下の式から成り立ちます。病態でA-aDO2が上昇するとPaO2が低下してしまいます。
・動脈血酸素飽和度(SaO2)
動脈血酸素飽和度(SaO2 : arterial oxygen saturation)は医療現場ではPaO2と同じような意義で「PaO2を予測するもの」です。SaO2はパルスオキシメータで測定したものをSpO2と言います。SpO2の値からPaO2を予測するのに酸素解離曲線を使います。
SpO2 90%の時はPaO2 60mmHgくらいになり呼吸不全との境目になります。
・肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)
A-aDO2 = PAO2 - PaO2
肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2 : alveolar-atrial oxygen difference)は肺胞と血中の酸素分圧の「差」のことです。
肺胞気酸素分圧(PAO2 : partial pressure of alveolar oxygen)
動脈血酸素分圧(PaO2 : partial pressure of arterial oxygen)
・P/F比
PaO2とFIO2の比になります、PaO2だけでなくFIO2を酸素化障害の程度はわかりません。同じPaO2 60mmHgでも
室内気(FIO2 = 0.21(21%))下でPaO2 60mmHgなのか
FIO2 = 1.0(100%)の人工呼吸器管理下でPaO2 60mmHgなのかでは
明らかに後者の方が酸素化は悪いです。P/F比は低いほど悪く、300以下で軽症、100以下で重症と言われています。
換気の指標
・動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)
PaCO2 = k × (CO2産生量) / (肺胞換気量)
(肺胞換気量) = (一回換気量) – (死腔量)
動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2 : partial pressure of arterial carbon dioxide)は動脈血の二酸化炭素分圧になります。換気量が下がるとPaCO2は上昇します。PaCO2を簡単に予測するためにETCO2が使用されます。換気血流比不均衡がなければ、PaCO2≒ETCO2になります。(ETCO2の方がちょっと低い)この時にpH、HCO3-、BEを見てアシドーシスなのか、慢性なのか、腎の代償はあるか、などの酸塩基平衡を確認しておきます。乳酸(Lac)値を見て嫌気性代謝の有無、全身の酸素需給も確認します。
他にも聴診、視診、打診、胸写(X線)や胸部CT、肺コンプライアンスなどを指標に酸素化・換気・呼吸仕事量を評価します。
呼吸不全の治療をまとめると
基本的に酸素化と換気は分けて考えます。
・酸素化
FIO2↑とPEEPでPaO2↑します(極端な低換気を除く)
・換気
換気補助によって換気量↑でPaCO2↓します
酸素療法によりFIO2を上げ、PaO2を増加させます。
II型の呼吸不全ではCO2ナルコーシスのリスクが高いので必要以上に酸素は投与しない方が良いです。
換気が不十分な場合はNPPVや人工呼吸器を使用し、換気補助と酸素化を行います。この段階でPEEPをかけることもできます。
緊急の時は用手的に人工呼吸(バッグバルブマスク)を使います。
人工呼吸器でも状態が悪化する場合はECMO(体外式膜型人工肺)を使用し、血液を直接酸素化・換気させます。
これらは単なる肺の補助であり、治療ではありません。酸素療法、人工呼吸器、ECMOで呼吸を補助(代行)している間に原疾患に対する治療を行います。
ICU-AW(ICU - acquired weakness)の予防や肺障害に対して体位交換(呼吸理学療法)することがあります。
急性呼吸促迫症候群(ARDS)
急性呼吸促迫症候群(ARDS : acute respiratory distress syndrome)は様々な基礎疾患に続発して急速に発症する呼吸不全と定義されています。
どんな疾患も重症になれば呼吸不全が現れることがあります。
ARDSの診断には「ベルリン定義」がよく使用されます。
心不全でも肺水腫が現れることがあります。
心原性肺水腫は静水圧の上昇で肺水腫になりますが、
ARDSは主にサイトカインが原因で血管透過性亢進による肺水腫が起こります。
大事なタンパクも血管外に逃げていきます。
さらにARDSではII型上皮細胞も障害されサーファクタント欠乏によって肺胞が虚脱しやすいです。
このような病態は浸出と呼ばれておりARDS発症から一週間は続くと言われています。
心原性の肺水腫とARDSの肺水腫は違うため、まず鑑別します。
ARDSの治療
ARDSには万能薬は存在しないため、原疾患に対する治療と「腹臥位療法」、人工呼吸器管理の設定による「肺保護戦略」や「APRV」「HFOV」が行われます。
・腹臥位療法
仰臥位から腹臥位にすることです。横隔膜の動きが改善され、換気・換気血流比が改善されます。腹臥位によって、口腔・気道内の分泌物が排出されやすくなる(ドレナージ効果)。よってVAP発生頻度の低下も期待されています。実際にP/F比150以下のARDS患者に死亡率が低下したというエビデンスもあります。しかし、患者に対する重力の向きが変わり循環動態の影響が大きく、褥瘡やカテーテル抜去などにも配慮がいるため、人員と技術が必要になります。
・肺保護戦略
肺保護戦略とは呼吸器設定のことで、次のように設定します。
・低一回換気量 6ml/kg
・吸気プラトー圧 30cmH2O以下
・PEEPは肺胞の虚脱を防ぐレベル
・PaCO2の高値を容認する
肺が広がったり縮まったり(ずり応力)することで起こる肺障害を避け、肺を保護する目的でおこなわれます。
・APRV
APRV(Airway Pressure Release Ventilation)とは呼吸器のモードです。自発呼吸中で高いPEEPをかけ、短時間で低いPEEP(解放)にします。この解放時に換気が生まれます。APRVによって高い平均気道内圧が得られ、肺胞再拡張(リクルートメント)が期待できます。
※平均気道内圧 = PEEP + 吸気圧 × (吸気時間) / (吸気時間+呼気時間)
しかし、高いPEEPによる心拍出量低下や高経肺圧によるVALIの発生リスクがあります。
・HFOV
高頻度振動換気(HFOV : high frequency oscillatory ventilation)は 2~3ml/kgの解剖学的死腔以下の換気量で10Hz(1秒に10回)換気する呼吸器設定です。小さい圧変化で肺障害を避け、虚脱を防止しながら高い平均気道内圧を保つので、肺保護換気と同じ意図で生まれた設定です。患者の呼吸がいまいち把握できないのと有効性があまりない点で使用されることは多くないです。
輸血関連急性肺障害(TRALI)
輸血後に発症するARDSです。
血液製剤によって好中球が活性化するのが原因と言われています。
輸血関連急性肺障害(TRALI)は新鮮凍結血漿(FFP)で最も頻度が多いです。
輸血関連急性肺障害(TRALI)がわかれば輸血を中止し、呼吸不全として対応します。
VIDD
人工呼吸器誘発性横隔膜障害(VIDD : ventilator induced diaphragmatic dysfunction)は長期間の人工呼吸器で横隔膜が機能不全を起こす障害です。
廃用性萎縮と言われることもあります。
筋力低下を招く薬剤(ステロイドや筋弛緩薬)、電解質異常、低栄養、肺の過膨張はできるだけ避けましょう。
人工呼吸器の「NAVAモード」はVIDDを予防する効果が期待されています。
人工呼吸器関連肺障害(VALI)
人工呼吸器関連肺障害(VALI : ventilator associated lung injury)は高い経肺圧や過大な一回換気量で肺胞が過膨張し、肺胞破裂や気胸などが起こる障害です。
低い経肺圧でも肺胞の虚脱と再開通を繰り返すとVALIになることがあります。
VALIを防ぐには適切な呼吸器管理が重要になってきます。
※これらは2020年に作成された記事です。ガイドラインや診断の方針は常に更新され変更されていくので、記事の内容と異なる可能性があります。
各臓器障害の解説「腎臓」
腎不全ではわれわれ臨床工学技士が関わることが多く、血液浄化療法を日々行ってますね。
馴染みのある腎不全ですが、腎不全の分類として「慢性腎不全」と「急性腎障害(AKI)」があります。
慢性腎不全で普段から透析をしている患者はICU入室後も普段の透析に近い条件で治療しまが、
急性腎障害(AKI)は敗血症や心不全、多臓器障害に伴って発症することが多く、原因毎に透析条件の戦略を立てられれば、臨床工学技士として有意義に治療が運べますね。
そのためにも病態の理解をする必要があります。
ここではICUでよく見られる急性腎障害(AKI)についてお話しようと思います。
急性腎障害(AKI)
ICUでは急激に腎機能が低下する急性腎障害(AKI : acute kidney injury)がしばしばみられます。
昔は急性腎不全(ARF : acute renal failure)と呼ばれていましたが、より早期発見できるよう診断基準を改定したものがAKIになります。今ではAKIと呼ぶことが多いです。
AKIの診断(KDIGO)
KDIGO診断基準
・48時間以内に血清クレアチニン(sCr)が0.3mg/dL上昇
・7日以内に血清クレアチニン(sCr)が基礎値から1.5倍上昇
・6時間で尿量0.5ml/kg/時以下
AKIの診断にはRIFLE・AKIN・KDIGOがありますが、最新のガイドラインでは「KDIGO」診断が推奨されています。
クレアチニン値と尿量で診断します。
上のKDIGO診断基準のうち、どれか1つでも満たせばAKIと診断できます。
KDIGO診断からわかるように、AKIは早期発見にこだわりクレアチニン値と尿量だけで診断するため、病態の範囲が広いです。
常に評価して原因を特定するのが治療のカギです。
原因は「腎前性」「腎性」「腎後性」腎不全に分かれます。
腎後性腎不全
腎臓より後、要するに尿路閉塞のことです。前立腺肥大や悪性腫瘍などがあげられます。
尿が出ない時まず最初に調べます。エコー、CTで膀胱に尿があるか確認します。(この時、萎縮の有無で慢性か急性かも見ときます)尿路閉塞があれば尿道カテーテルを入れます。状況によって腎瘻・膀胱瘻を増設します。尿路閉塞がなければ腎前性腎不全or腎性腎不全なので次に進みます。
腎前性腎不全
腎臓に入る前、主に血管内の異常です。心不全や敗血症などがあげられます。
輸液をしてみて、血圧が上がったり、尿量が増えれば(輸液反応あり)体液量減少による腎前性腎不全です。体液量減少による腎前性腎不全であればBUNの値も高くなることがあります。(BUN/Cre=20以上)輸液に反応がなければその他の腎前性腎不全や腎性腎不全を疑います。うっ血による心不全であれば、輸液は逆効果なので利尿薬や透析による除水で改善します。
腎性腎不全
腎臓そのものの異常です。急性尿細管壊死や急性糸球体腎炎などがあげられます。
薬剤性の腎性腎不全が疑われれば使用薬剤を中止します。その他の腎性腎不全は鑑別が難しいので専門の方にコンサルトしましょう。AKIの代表的な治療に血液浄化があります。
心腎連関症候群
集中治療領域での腎不全として、AKIは代表的で知っておいた方が良いですが、他にも知っておきたいのが「心腎連関症候群(CRS : cardio-renal syndrome)」です。心臓と腎臓の病態は対になっており、心臓が悪くなれば腎臓も悪くなる。腎臓が悪くなれば心臓も悪くなる。という相互関係があります。AKIでは「急性心不全→急性腎不全」になる経路があります。
心不全によって
・低心拍出→腎血流量低下→糸球体濾過圧↓→腎機能障害
・低心拍出→神経やホルモン(RAA系)亢進→腎臓に負担→腎機能障害
・静脈圧上昇→糸球体濾過圧↓(圧較差↓)→腎機能障害
もっと病態は複雑ですが、要点だけおさえるとこのように3つに分類できます。
もともと心不全で腎臓に血流が行きづらくなり(虚血)、腎不全になると考えられていましたが、このように圧力やホルモンの影響もあることが近年わかってきました。
基本的には動脈圧と静脈圧の差が大きいほど、圧に差が生まれて腎臓の血流が多くなります。腎臓の血流が悪いと尿はつくられず、BUNやCreなどの尿毒素も排出されず、血中で多くなります。
基本は動脈圧は高く、静脈圧は低い方が良いですが、極端な値だと脳障害や心臓や腎臓に負担を与えるため、調節が必要です。
※これらは2020年に作成された記事です。ガイドラインや診断の方針は常に更新され変更されていくので、記事の内容と異なる可能性があります。
各臓器障害の解説「脳」
臨床工学技士が知っとくべき脳にまつわるお話をご紹介します。
というのも、脳はとにかく「虚血に弱い」です。
心停止と特に関わりが強く、蘇生時やPCPS・ECMOを管理するうえでも常に脳のことを念頭において治療する必要があります。
出血や血栓でも脳血流に影響があるので、われわれ臨床工学技士が日々行っている「抗凝固療法」も慎重に調整しなければなりません。
治療・機器の設定をするうえでも、脳を理解することはとても有意義で、臨床工学技士の腕の見せ場です!!
集中治療室(ICU)での「脳」にまつわる疾患、イベントをピックアップしてみました。
ICUでは「心肺蘇生(CPR)後の心停止後症候群(PCAS)」や「脳卒中や頭部外傷などの中枢神経疾患」の患者が来られます。
心停止後症候群(PCAS)
心停止後症候群(PCAS : post cardiac arrest syndrome)は文字通り心停止した後に起こる病態です。
心筋障害や全身虚血後の再灌流障害などが心停止後症候群(PCAS)になります。
中でも最も多いのが「脳損傷」です。
・脳損傷
脳はとにかく「虚血に弱い!!」です。
脳の血流が途絶えれば3分で脳死になると言われています。
心停止では全身の血流が途絶えるため、いかに早く心肺蘇生(CPR)をして心拍再開(ROSC)させることが脳保護につながります。
心肺蘇生(CPR)で心臓が立ち上がらず心拍再開(ROSC)がすぐに不可能な場合でもVA ECMOによって心臓の代わりに全身循環を代行する「ECPR」という方法で脳の虚血を防ぐことができます。
心肺蘇生(CPR)も脳保護を目的に行うため、最近では「心肺脳蘇生」と言われることもあります。
・脳損傷の治療
とにかく脳は虚血に弱く、心停止後は脳障害や脳死に至ることもあります。
心肺蘇生(CPR)を行った後は「低体温療法」を行うことが推奨されています。
高体温下では代謝量も増えるため、脳で酸素が盛んに代謝され虚血状態になってしまいます。
「低体温にして脳の代謝を抑える」これが低体温療法です。
脳卒中
脳卒中は「脳梗塞」と「頭蓋内出血」に分けられます。
・血栓がつまるのが脳梗塞
・出血するのが頭蓋内出血
になります。
CTで脳梗塞か頭蓋内出血かを判断します。
・出血は「白く」映ります。
・梗塞は「黒く」映ります。
梗塞はMRIだとよりわかりやすく、鑑別や病変部特定の精査に使用されます。
・脳梗塞
脳梗塞は主に高血圧が原因で脳血管が動脈硬化になり、そこに血栓が詰まることで脳が虚血になり、壊死してしまう病気です。ラクナ梗塞は「細い動脈」がつまります。アテローム血栓性梗塞は「太い血管」がつまります。心原性脳塞栓症は心房細動などで心臓に血栓ができ、その血栓が脳に行き血管でつまります。なかでも心原性脳塞栓症は重症になりやすいです。心臓内(左房内)の血栓は経食道エコーでみるとわかりやすいです。
・脳梗塞の治療
急性期の脳梗塞は血栓溶解療法により遺伝子組み換え組織プラスミノーゲン・アクチベータ(rt-PA)を投与します。他にもアスピリンなどの抗血小板薬を投与することがあります。カテーテルによって血栓をとる「ステントリトリーバー」もあります。脳保護を目的に「エダラボン」を投与することがあります。脳梗塞発症時には脳細胞を酸化させて障害するフリーラジカルが増加します。参加されやすいエダラボンを投与することでフリーラジカルを積極的に消費させます。
・頭蓋内出血
頭蓋内が出血した状態です。大きく分けると「脳出血」と「くも膜下出血」があります。脳出血は「脳の中」が出血する病気です。くも膜下出血は「脳の表面」が出血する病気です。脳動脈瘤の破裂がほとんどです
・頭蓋内出血の治療
脳出血は小さい出血であれば手術を行わない方が良いですが、大きい出血の場合は手術を行います。
・頭に小さい穴を開け、注射器で吸引する「定位的血種吸引術」
・頭を切って手術する「開頭血種除去」
・鼻の穴から内視鏡を入れる「神経内視鏡」
などを行います。くも膜下出血の原因は脳動脈瘤破裂がほとんどです。治療は脳動脈瘤に対して行われ、「クリッピング手術」やカテーテルによる「コイル塞栓術」があります。
頭部外傷
交通事故などで外部から圧力が脳にかかることで出血する病気です。種類は局所性脳損傷(脳挫傷、急性硬膜外血種、急性硬膜下血種、外傷性脳内血種)やびまん性脳損傷があります。
・重症頭部外傷の治療
外科的な処置として「頭を切って手術する開頭術」と「頭に穴を開け、管を入れて血種を吸引する穿頭術」があります。全身管理もICUにいる他患者と少し違います。
・動脈血酸素飽和度(SpO2)95%以上
・動脈血酸素分圧(PaO2)80mmHg以上
・動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)40±5mmHg、ICP高値では35±5mmHg
・収縮期血圧100(110)mmHg以上
・体温は平熱を維持(高体温で冷却し脳虚血を防ぐ、低体温では加温し凝固能を維持する)
これら全身管理は「二次的な脳損傷を防ぐ(not低酸素・not低血圧)」「脳圧亢進を防ぐ(not高ICP)」が目的です。さらに重症頭部外傷ではICPモニタリング(後述)を行い、そのモニタリング値から必要であれば治療を加えます。
中枢神経疾患のモニタリング
これら脳梗塞、頭蓋内出血、頭部外傷などの中枢神経疾患では治療の有効性や予後を把握するために各種モニタリングを行います。
・圧モニタリング
圧のモニタリングは「収縮期血圧(SBP)」「頭蓋内圧(ICP)」「脳灌流圧(CPP)」があります。
収縮期血圧(SBP)
収縮期血圧(SBP)100(110)mmHg以上にすると死亡率低下、神経学的予後の改善が期待できます。
頭蓋内圧(ICP)
頭蓋内圧(ICP : intra cranial pressure)は「頭蓋骨内の脳(80%)」「血液(10%)」「髄液(10%)」から生じる圧力です。脳容積の増加(脳腫瘍、脳出血、脳浮腫)、血液量の増加、髄液量の増加でICPは上昇します。ICPの正常値は6~12mmHgです。ICP22mmHg以上で「治療を行う」ことを推奨。このときCTも一緒に評価して治療を行うか決めます。PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)が高いと脳血管が拡張するためICPが上昇します。PaCO2が低いとICPが低下しますが過換気(PaCO2 25mmHg以下)は推奨されていません。他にも頭位挙上、脳室ドレナージ浸透圧補正(マニトール、高張食塩液)、開頭術、バルビツレート療法などでICPは低下します。頭部外傷ではICPのモニタリングが推奨されており、ICPが過度に上昇しないようコントロールします。
脳灌流圧(CPP)
脳灌流圧(CPP : cerebral perfusion pressure)=平均動脈圧(MAP)-頭蓋内圧(ICP)
60~70mmHgで管理すると生存率、神経学的予後改善が期待できます。70mmHg以上では逆に呼吸不全のリスクが上がります。
50mmHg以下で脳虚血が進行します。
脳波(EEG)
脳波(EEG : electroencephalogram)はCTやMRIで分からない意識障害の鑑別に有用です。
周波数分類で「δ波(1~3Hz)」「θ波(4~7Hz)」「α波(8~13Hz)」「β波(14~29Hz)」「γ波(30Hz~)」があり、正常の覚醒脳波は頭頂~後頭部がα波になります。
左右差やとがった波(棘波)、幅の広い波(鋭波:えいは)などが現れます。
脳死の時は波が現れません。(平坦脳波)
中枢神経のモニタリングは他にも、音を流して脳幹の電位を調べる聴性脳幹反応(ABR : auditory brainstem response)や脳から脊髄、末梢神経までの伝導を見る体性感覚誘発電位(SEP : somatosensory evoked potentials)などがあります。
脳波を利用したBISモニターは麻酔モニタリングとして使用されます。
意識レベル
意識レベルの評価として「グラスゴー昏睡尺度(GCS : Glasgow coma scale)」「日本式昏睡尺度(JCS : Japan coma scale)」があります。
※合計点が3~8点で重症
GCSは合計点数が低いほど、JCSは点数が高いほど重症です。
他にもECSやFOURスコアなどがあります。
脳卒中の評価としてNIHSS(national institutes of health stroke scale)が代表的です。 他にもシンシナティ病院前脳卒中スケール(CPSS)や倉敷病院前脳卒中スケール(KPSS)などがあります。遺伝子組み換え組織プラスミノーゲン・アクチベータ(rt-PA)の適応を判断する指標にもなります。意識レベルは鎮痛薬や鎮静薬のモニタリングにも利用されます。
肝性脳症
肝障害が起こると昏睡物質(主にアンモニア)が解毒されず、脳に蓄積され中枢神経症状が現れることがあります。
重症な場合は昏睡に至ることもあります。
ICUでは日々の血液検査で肝障害が起きていないか常にチェックします。
肝性脳症の治療として、アンモニアを抑える薬物療法がありますが、原疾患の肝不全治療で血漿交換(PE)を行うこともあります。
脳死
脳死は脳の機能が失われ、回復の見込みがない状態です。
脳幹機能があり自発呼吸がある。など、脳の一部が機能して回復の見込みがある「植物状態」と意味が少し違います。
脳死で「臓器提供」を希望する場合は法的脳死判定を行います。
法的脳死が確定したら他の臓器が動いていても「人の死」として認められます。
臓器提供を希望しない場合は終末期医療になるため、しっかりとインフォームドコンセント(IC)をとり、緩和ケアなどの支援に努めます。
法的脳死判定には以下の項目があります。
法的脳死判定
・深い昏睡
・瞳孔散大
・脳幹反射消失
・平坦脳波
・自発呼吸の停止
・6時間以上経過後も上記検査で変化なし
※必要な知識と経験を持つ移植に無関係な2人以上の医師が行う。
※これらは2020年に作成された記事です。ガイドラインや診断の方針は常に更新され変更されていくので、記事の内容と異なる可能性があります。
各臓器障害の解説「肝臓・膵臓・消化器」
消化器の病気には臨床工学技士も携わることがあって、血液浄化療法を行うことが多いです。
エンドトキシン吸着療法や血漿交換(PE)、持続的血液濾過透析(CHDF)など適切にデバイスを選択することで有意義な治療ができます。
実は消化器疾患こそ、技士の腕の見せ場なのです!!
臨床工学技士がICUに臨むうえで関わることが多い消化器疾患をリストアップしてみました。
・腹腔内感染
・非閉塞性腸管虚血(NOMI)
・急性肝不全
・重症急性膵炎
順に解説していきます。
腹腔内感染
急性腹症とは「発症1週間以内の急性発症で、手術などの迅速な対応が必要な腹部(胸部等も含む)疾患」と定義されています。
急性腹症診療ガイドライン2015の内容をざっくりまとめると
急激な腹痛で手術や緊急処置が求められる腹部の疾患を急性腹症と言います。
実際には腹部以外の急性腹症も存在します。(心筋梗塞、肺炎など)
急性腹症が疑われたら、まずバイタルの安定化をはかり、血液検査や胸腹部X線、腹部エコー、腹部CT、心電図、MRIなどの検査を行います。その後は必要であれば手術や内視鏡、IVRなどが行われます。
血管破裂、腹腔内出血、腸管虚血/壊死、汎発性腹膜線、炎症性急性腹症は緊急手術になることが多いです。なかでも急性虫垂炎、急性胆嚢炎、ヘルニア嵌頓、腸閉塞、消化管穿孔、は特に緊急手術になることが多いです。
これら急性腹症の中でも、消化管穿孔(消化管に穴が開く)や細菌感染(肝臓・胆のう・膵臓などの炎症)によって腹膜炎が起きると「腹腔内感染」が疑われます。
腹腔内感染が疑われたときは血液培養を採取し、抗菌薬を投与します。
上部より下部の消化管穿孔の方が予後不良になりやすいです。その原因の一部は「エンドトキシン」の存在にあります。
下部消化管穿孔は大腸菌を中心とした敗血症(エンドトキシン血症)になることがあります。
病変部の腸管切除や人工肛門増設などの外科的処置を行いますが、ICUではここでエンドトキシン吸着療法(PMX)やサイトカイン吸着のCHDFが良い適応になります。
人の消化管内にある大腸菌などのグラム陰性桿菌の細胞壁にはLPS(リポポリサッカライド)と呼ばれる毒性部分があり、これがいわゆる「エンドトキシン」になります。
この悪さをするエンドトキシンを除去するために誕生した吸着膜が「トレミキシン」になります。
トレミキシン(PMX)は商品名でポリミキシンを充填した血液吸着器です。
このポリミキシンがエンドトキシンを特異的に吸着除去します。
エンドトキシンの機序から下部消化管由来の敗血症で使用されることが多いです。
間質性肺炎にも使用されることがあります。
エンドトキシンの他にアナンダマイド(内因性大麻)や活性化好中球などを吸着し昇圧や急速な治療効果が得られます。生体に必要な血小板も吸着してしまうので、注意が必要です。
トレミキシンは直接血液潅流法(DHP : direct hemoperfusion)によって血液をトレミキシンの中に流し血中のエンドトキシンを吸着させます。
非閉塞性腸管虚血(NOMI)
非閉塞性腸管虚血(NOMI : non-occlusive mesenteric ischemia)は腸間膜血管に閉塞がないのに腸間膜虚血が起こることです。腸管壊死を起こせば手術が必要です。
心拍出量低下や循環血液量減少などで腸間膜血管が攣縮して起こると言われています。予後不良です。
低心拍出量時に脳は血流維持が優先されるため、腸管が攣縮しやすいです。
心外の術後や出血性ショックなどが原因で上げられますが、透析(HD)で合併することもあります!
腹痛や下痢などが症状で、造影CTで確認します。
急性肝不全
急性肝不全(ALF : acute liver failure)は急性に肝機能が障害され黄疸や出血傾向、意識障害(肝性脳症)が起こる病気です。
急性肝不全の診断基準
・プロトロンビン時間40%以下
・PT-INRが1.5以上
これらの急性発症で「急性肝不全」とされています。
他にも血液検査で「総ビリルビン(T-Bil)増加」「トランスアミナーゼ(ALT、AST、γ-GTP)増加」「アルブミン値(Alb)低下」「アンモニア(NH3)増加」などがみられます。
急性肝不全は非昏睡型、昏睡型に分類されます。重症例では肝性脳症で意識障害が起き、昏睡になることがあります。
劇症肝炎
劇症肝炎は急性肝不全と似ていますが、少し意味が違います。
劇症肝炎は肝炎のうち急性発症の肝機能異常で昏睡II度以上の肝性脳症、プロトロンビン時間40%以下
つまりウイルスや薬物などが原因による肝炎(慢性肝不全を除く)が背景にあって、昏睡型の急性肝不全が劇症肝炎になります。
急性肝不全より劇症肝炎の方が重症になります。
急性肝不全の治療
原因に関係なく血漿交換(PE : plasma exchange)をすることが多いです。
血漿分離器や遠心分離器によって、患者血漿と新鮮凍結血漿(FFP)を交換します。
他にも「slow PE」や「PE + HFCHDF」、「on-line HDF」が望ましいと言われています。
肝疾患に対するアフェレシスはこちら
PEに効果がない場合は肝移植も考慮します。
肝不全中のCHDF
肝不全の状態でCHDFやHDを行う時には薬物の減量を行うことがあります。肝不全時は代謝能が低下しているため、薬物中毒になるリスクがあります。CHDFの設定や腎機能に応じて減量を試みます。
重症急性膵炎
重症急性膵炎(SAP)はアルコールや膵管閉塞などによる膵臓の急性炎症です。重症ではサイトカインが過剰に産生され、膵臓以外の臓器不全や播種性血管内症候群(DIC : disseminated intravascular coagulation)が起きます。
重症急性膵炎の診断
・上腹部に急性腹痛発作と圧痛
・血中or尿中に膵酵素(膵アミラーゼ・リパーゼなど)の上昇
・超音波、CT or MRI で異常所見
重症急性膵炎の治療
重症急性膵炎では「急速輸液」が治療の中心になります。
もちろん過剰輸液には気をつけます。
急性膵炎が重症化するとバイタルが崩れることが多いので、まずは循環動態を安定させます。
疼痛治療で鎮痛薬、重症例での抗真菌薬予防投与を行うことがあります。
急性腎障害(AKI)を合併して尿が出ない場合やサイトカインやトリグリセリドを除去ターゲットに重症例では持続的血液濾過透析(CHDF)を推奨し、サイトカイン除去・体液管理を行います。
治療初期に大量輸液を行うので、CHDF治療では除水を中心にすることが多いです。
重症急性膵炎では過剰のサイトカインが病原物質なので、CHDFの血液濾過膜はサイトカイン吸着膜(PMMA膜、AN69ST膜)が望ましいです。
血漿交換(PE)は高脂血症に対し血清トリグリセリドを下げる報告がありますが、推奨度は低いです。ちなみに、保険適応はありません。
※これらは2020年に作成された記事です。ガイドラインや診断の方針は常に更新され変更されていくので、記事の内容と異なる可能性があります。
オススメ関連記事
酸素療法 はこちら
NPPV はこちら
人工呼吸器 はこちら
急性血液浄化 はこちら
アフェレシス はこちら
IABP はこちら
PCPS・ECMO はこちら
インペラー はこちら
補助人工心臓(VAD) はこちら
循環動態 はこちら
血ガス はこちら
敗血症 はこちら
播種性血管内凝固症候群(DIC) はこちら
凝固 はこちら
不整脈 はこちら
その他の記事 はこちら(HP)
参考にした資料
[参考書]臨床工学技士集中治療テキスト(日本集中治療医学会,2019)
[指針]急性・慢性心不全診療ガイドライン(各学会,2017)
[参考書]人工呼吸ケアのすべてがわかる本(2017)
[参考書]呼吸器(病気が見える,2013)
[雑誌]人工呼吸器(INTENSIVIST,2018)
[指針]ARDS診療ガイドライン(各学会,2016)
[参考書]腎・泌尿器(病気が見える,2014)
[雑誌]クリティカルケアにおけるAKIの管理(重症患者ケア,2016)
[指針]AKI診療ガイドライン(各学会,2016)
[指針]頭部外傷治療・管理のガイドライン(日本神経外科学会,2019)
[指針]急性腹症診療ガイドライン(各学会,2015)
[指針]日本版敗血症診療ガイドライン(各学会,2020)
[指針]急性膵炎診療ガイドライン(各学会,2015)