血液ガス分析をして
アシドーシスなのか、アルカローシスなのか
自信をもって言えない人のために「酸塩基平衡」について解説します。
筆者も最初はよくわかりませんでした。
あれこれ読んで、現場を見てみると少しずつ分かってきました。
理解する中で
「要するにココを理解しておけばいい」
と思うことがあったので、
ICUで必要な知識をかみ砕いてお話します。
血ガスは人工呼吸器や血液浄化を管理するうえで重要になってきます。
酸塩基平衡の Point!
・まず最初に「pH」次に「PaCO2」「HCO3- 」を見る!
・pHは代償反応で元に戻ろうとする
・代謝性代償には急性と慢性がある
血液ガス測定
血液ガス測定いわゆる「血ガス」は動脈血と静脈血がありますが、ICUでは「動脈血」を毎日測定しています。
動脈血の血ガスは呼吸機能、電解質、循環動態などいろいろな病態を把握することができる優れものです。
ここで「酸塩基平衡」を見ます。
酸塩基平衡を理解するには
・pH
・PaCO2
・HCO3-
この3つをとりあえず理解すればいいです。
細かい話はあとで話すとして、酸塩基平衡、pH、PaCO2、HCO3-について解説していきます。
酸塩基平衡はなぜ必要か
酸と塩基のバランスが崩れれば細胞が動かなくなってしまいます。カテコラミンなどの薬剤も効きずらくなります。
酸はH+を放出する物質
塩基はH+を受け取る物質
のことです。
酸と塩基のバランスはpHで見ます
pHは「酸」の量で決まり
酸(H+)が血中に多い(濃ゆい)とpHが下がります。
酸(H+)が血中に少ない(薄い)とpHが上がります。
7.4以下の範囲をアシデミア
7.4以上の範囲をアルカレミア
と言います。
アシドーシスとは酸性に傾く病態です。
アルカローシスもアルカリ性に傾く病態です。
病態のことなので「アシデミア=アシドーシス」「アルカレミア=アルカローシス」とは言えないですが、急性期では似たようなものです。
酸血症、アルカリ血症と呼ぶこともあります。
pHは7.4±0.05が正常です。
化学的にはpH 7.0が中性なので、人間の体は弱アルカリ性になります。
酸は大雑把に言うと「体に悪いもの」と考えてください。
酸は常に体内で作られるので、人の体は酸性に傾いている(アシドーシス気味)と思ってください。
酸には揮発性酸と不揮発性酸があります。
・揮発性酸
主に二酸化炭素のことで「肺」によって代謝されます。
・不揮発性酸
硫酸やリン酸、乳酸などのことで「腎臓」によって代謝されます。
肺は換気によって体内の二酸化炭素(CO2)の量を調節しています。
肺による酸調節
低換気 PaCO2↑ 酸(H+)↑
過換気 PaCO2↓ 酸(H+)↓
PaCO2の基準値は40±5mmHgです。
腎臓は酸(H+)を中和する重炭酸(HCO3-)を尿細管で再吸収します。
重炭酸(HCO3-)は塩基のことで酸を中和する物質です。
腎臓は再吸収によって体内の重炭酸(HCO3-)を調節しています。
腎臓による酸調節
再吸収↑ HCO3-↑ 酸(H+)↓
再吸収↓ HCO3-↓ 酸(H+)↑
HCO3-の基準値は24±2mEq/lです。
「肺」と「腎臓」によって酸の量、すなわちpHを調節しています。
pHには「ヘンダーソンハッセルバルヒ」と呼ばれる式があり、これをみてアシドーシスかアルカローシスなのか、呼吸性なのか、代謝性なのかがわかります。
ヘンダーソンハッセルバルヒの式は次になります。
・ヘンダーソンハッセルバルヒ
pH=6.1+log(HCO3-)/(0.03×PCO2)
あーもーごちゃごちゃしてる
簡単にしちゃえ
pHは
「HCO3- / CO2」
つまり
「腎 / 肺」
で表せます。
アシドーシスとアルカローシス
先ほどヘンダーソンハッセルバルヒを簡単に表した
pH = HCO3- / CO2
この式を覚えれば、pHの動きがわかります。
例えば、二酸化炭素の量が増えればpHは下がりアシドーシスになります。
これを呼吸性アシドーシスと言います。
他にもHCO3- の増減とPaCO2の増減で4つのパターンができます。
呼吸性アシドーシス
PaCO2↑(45mmHg以上)
pH↓(7.35以下)
呼吸性アルカローシス
PaCO2↓(35mmHg以下)
pH↑(7.45以上)
代謝性アシドーシス
HCO3-↓(22mEq/l以下)
pH↓(7.35以下)
代謝性アルカローシス
HCO3-↑(26mEq/l以上)
pH↑(7.45以上)
二酸化炭素の量が増え、pHが下がると呼吸性アシドーシスになります。
重炭酸の量が減り、pHが下がると代謝性アシドーシスになります。
この呼吸性アシドーシスと代謝性アシドーシスが同時に起こることを混合性アシドーシスと言います。
この「混合性」も2パターンあります。
混合性アシドーシス
PaCO2↑(45mmHg以上)
HCO3-↓(22mEq/l以下)
pH↓↓↓(7.35以下)
混合性アルカローシス
PaCO2↓(35mmHg以下)
HCO3-↑(26mEq/l以上)
pH↑↑↑(7.45以上)
代償反応
通常はアシドーシス、アルカローシスが起こると他の臓器は黙って放置しません。
例えば、呼吸性アシドーシス(CO2↑)が発生するとpHが下がります。
その時、腎臓がHCO3-を多く産生し、代謝性アルカローシスの動きをします。
このように、下がったpHをもとに戻そうとします。
これを「代償反応」と言います。
4パターンあります。
呼吸性アシドーシス代謝性代償
PaCO2↓ HCO3-↓ pH低値
呼吸性アルカローシス代謝性代償
PaCO2↑ HCO3-↑ pH高値
代謝性アシドーシス呼吸性代償
HCO3-↓ PaCO2↓ pH低値
代謝性アルカローシス呼吸性代償
HCO3-↑ PaCO2↑ pH高値
ここで One Point!
代償反応はあくまで「pHの補正」です。
下がったものを上げるのではなく、「元に戻す」ことです。
なのでpH 7.4を飛び越えることはありません。
もし仮に7.4を飛び越えるようなことがあれば、
それは代償反応ではなく、別の病態が絡んでいる可能性があります。
これらを踏まえて
CO2↑(45mmHg以上)
HCO3-↑(26mEq/l以上)
を見たときに
呼吸性アシドーシス?代謝性アルカローシス?
となりますよね。
ここでさらに One Point!!!
血ガスを見たらまず最初に「pH」を見てください。
pHが低ければ、酸性に傾く要因は呼吸性アシドーシスなので
「呼吸性アシドーシス代謝性代償」になります。
pHが高ければ、アルカリ性に傾く要因は代謝性アルカローシスなので
「代謝性アルカローシス呼吸性代償」になります。
代償反応の細かい話
代償反応を細かく知ることで慢性なのか、急性なのかもイメージできるようになります。
肺と腎臓の代償反応には「早さ」があります。
肺の代償は過換気(低換気)によって調節されるため、「数秒~数分」で対応できます。
よって、代謝性アシドーシスが発生すると、通常であれば過換気を行い、pHをもとに戻そうとします。
腎臓の代償は尿細管で重炭酸を再吸収したりと「数日」程度の時間がかかってしまいます。「慢性」の代謝性代償反応になります。
しかし、腎臓に関係なく血中で素早く代償できる機能もあります。
それは発生した酸がヘモグロビンの作用で一時的にHCO3-になる代償反応です。
専門的な言葉で「緩衝系」と言います。
これは数分で行われ、「急性」の代謝性代償反応になります。腎臓の代償反応に比べると多くの酸を代償することはできません。
代償反応の早さを理解してもらったところで、次は
「どのくらいの量を代償するのか」
そして
「どこまで代償できるのか」
を解説していこうと思います。
代償の予測値
代償反応の予測値になります。
呼吸性アシドーシスを例に見てみましょう。
Δは「差」という意味で
pH=7.3、PaCO2=70mmHgの呼吸性アシドーシスだとすると
正常値のPaCO2=40mmHgより30mmHg高いのでΔPaCO2は30mmHgとなります。
よって代謝性の代償反応は
急性であればΔHCO3-=0.1×30=3
HCO3-の予測値は24+3で27mEq/lとなります。
慢性であればΔHCO3-=0.35×30=10.5
HCO3-の予測値は24+10.5=34.5mEq/lとなります。
どういう意味かというと
pH 7.3、PaCO2 70mmHg
であれば
HCO3- 27mEq/l(急性)
もしくは
HCO3- 34.5mEq/l(慢性)
になるはずです。
ここで、実際に測定したHCO3-の値が27mEq/lであれば
急性呼吸不全が疑われます。血中ヘモグロビンによる急性の代償反応と考えられます。
実際に測定したHCO3-の値が34.5mEq/lであれば
慢性呼吸不全が疑われます。腎臓による慢性の代償反応と考えられます。
実際に測定したHCO3-の値が31mEq/lであればちょっと複雑になります。
・慢性の代償反応の途中なのか
・慢性呼吸不全が急性憎悪したのか
・循環不全や腎障害(代謝性アシドーシス)を併発しているのか
などが疑われます。
これらの鑑別のためにも病歴を確認する必要があります。
血ガスなどの数値はあくまで「その時の状況」を把握するものなので、結局は臨床所見や基礎疾患の有無などを確認する必要があります。
問診すると「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」があることが発覚、COPDの急性憎悪と考えることができます。
この時に確認してほしいことがあります。
「PaCO2が10mmHg増加するとpHは0.08低下する」
という裏ワザがあります。
このpH 7.3、PaCO2 70mmHg、HCO3- 31mEq/lであれば
PaCO2が60の時にpHは7.38と正常値になります。
pH 7.38(≒7.4)、PaCO2 60mmHg
つまり、この患者の普段のPaCO2は60mmHgなので、人工呼吸器でPaCO2 60mmHgになるよう換気量を調整します。
これらはあくまで理論上の話で、実際はきれいな値は出らず、少しの数値の違いは誤差と考えましょう。結局のところ患者背景が必要な時もあるため、柔軟に対応しましょう。
代償の限界値
代償反応にも限界値があります。表の数値異常には増加(減少)しません。
代償反応の予測値と限界値をイメージできるようにグラフを載せておきます。
緩衝系
酸塩基平衡は肺と腎臓で調節していますが、他にも「緩衝系」と呼ばれる体液による調節があります。
肺は呼吸で酸を処理
腎臓は尿で酸を処理
緩衝系は体液中の重炭酸やヘモグロビン、リン酸など塩基と一時的にくっついて酸を処理します。
緩衝系はその場にある物質で酸を処理するため、調節が早いです(ミリ秒~数分)。その代わり多くの酸を処理することができません。
重炭酸緩衝系が代表的です。
緩衝系は他にも
ヘモグロビン緩衝系( Hb H+ ⇔ Hb+H+ )
リン酸緩衝系( HPO42-+H+ ⇔ H2PO4- )
などがあります。
BE(base excess)
ベースエクセス(BE : base excess)は「過剰塩基」という意味で、
37℃、PaCO2 40mmHgの血液をpH7.4に戻すために必要な塩基の量です。
重炭酸(HCO3-)と同じような意味になります。
式で表すと
BE = (1-0.014×Hb)×(HCO3--24+(9.5+1.63×Hb)×(pH-7.4)
正常値はBE 0±2mEq/l
呼吸性による誤差を除去し、先ほどお話したヘモグロビンなどの緩衝系で代謝性因子を補正した塩基の値です。
健常人では
HCO3- 24mEq/l = BE 0mEq/l
HCO3- 26mEq/l = BE 2mEq/l
HCO3- 22mEq/l = BE -2mEq/l
となります。
BEを見慣れていない方はとりあえず「HCO3-」を見ればいいです。
カリウム(K)と緩衝系
アシドーシスによりpHが低下し、酸(H+)の量が増えるとカリウムイオン(K+)も増えます。
カリウムは普段、細胞内にたくさんあります。
血中の酸(H+)が増えると細胞が緩衝作用(pH調節)するため、細胞外の酸(H+)と細胞内のカリウムイオン(K+)を交換します。
血中の酸(H+)がどんどん増えると緩衝系でカバーしきれなくなり、pHが下がります。
また、血中のカリウム濃度がどんどん上昇すれば致死的不整脈になる可能性があります。
緩衝系は働きますが、どのみちアシドーシスは早めに改善させなければなりません。
血中カリウムの正常値は4mEq/lです。
AG(anion gap)
アニオンギャップ(AG : anion gap)は「未測定陰イオン」です。
血液ガス測定では測定されないイオンのことです。
式で表すと
Na = Cl + HCO3- + AG
ナトリウム(Na) : 140mEq/lくらい
クロール(Cl) : 104mEq/lくらい
重炭酸(HCO3-) : 24±2mEq/l
アニオンギャップ(AG) : 12±2mEq/l
※本来は未測定陽イオンもある(割愛)
アニオンギャップ(AG)は主に不揮発性酸のことであり、乳酸やケトン体、リン酸、硫酸、薬物などで上昇します。
代謝性アシドーシスでアニオンギャップ(AG)は増加すればケトアシドーシスや、乳酸アシドーシス、腎不全を疑います。
アニオンギャップ(AG)が正常であれば下痢、尿細管性アシドーシス、低アルドステロン症などが考えられるため、精査します。
アニオンギャップ(AG)にはアルブミン(Alb)も含まれ血清アルブミン値が低下している時は補正します。
補正AG = 測定AG + 2.5 × ( 4 - Alb )
最後に
酸塩基平衡はpH、PaCO2、HCO3-が大事だということがわかりましたが、それ以外の数値も参考になります。
病態を把握するには病歴も大事なので、血液ガス測定のデータだけでは不十分なこともあります。
ですが、まずは「数値の理解」その次に疾患概念の理解へとステップしていくと良いです。
今回の記事を読んで酸塩基平衡がわからなくても良いです。
筆者も最初はあれこれ読んでみましたが、よくわかりませんでした。
意識して現場に臨むといつかひも解くようにわかってきます。
オススメ関連記事
人工呼吸器 はこちら
血液浄化 はこちら
呼吸不全 はこちら
腎不全 はこちら
電解質 はこちら
PaCO2から心拍出量測定 はこちら
その他の記事 はこちら(HP)
参考にした資料