ventilator 人工呼吸器

やさしく「人工呼吸器の波形」をまなぶ

投稿日:4月 21, 2020 更新日:

これから人工呼吸器について説明しますが

正直、人工呼吸器がちょっと苦手です。

何かと聞かれる機会も増えてきたので

いろいろと調べて波形だけをピックアップしてみました。



基本波形

まずはVCVPCVPSVのメインとなる波形です。





VCVの波形

VCVは「矩形波」と「漸減波」の二種類あります。

漸減波の方が人間の呼吸に近いとされ、最高気道内圧の低下、平均気道内圧上昇、酸素化改善などの効果があると言われています。

VCVは設定した一回換気量を送気します。

なので、圧波形が変化します。



VCVと肺コンプライアンス

肺コンプライアンス(肺のやわらかさ)低下例では送気するために過大な圧がかかってしまい(最高気道内圧↑)圧損傷のリスクがあります。プラトー圧と最高気道内圧の差は変化しません。



VCVと気道抵抗

気道抵抗増加例でも同様に送気するために過大な圧がかかってしまいます。プラトー圧は上昇しないです。



stress index

VCVで吸気時に圧波形が上に凸(画面左)であれば肺コンプライアンス上昇で虚脱肺胞が再開通(リクルートメント)している可能性があります。圧波形が下に凸(画面右)であれば肺コンプライアンス低下で肺胞が過伸展している可能性があります。PEEPを適正に設定すれば、肺胞が常に開通しており過伸展していない状態と考えられます。(画面中央の波形)



サギング

送気流量が足りず、圧波形が垂れ下がる(サギング)ことがあります。吸気時に呼吸筋使用、顎の挙上も見られます。PCVに変更、もしくは流量を上げる必要があります。流量を上げる場合は吸気時間が短くなり、設定した一回換気量も少なければダブルトリガーの発生が多く見られます。

PCVでも呼吸の努力が強いとこのようにサギングを起こすことがあります。鎮静薬も見直します。





PCVの波形

PCVは設定した圧力で送気します。

なので、流量・換気量波形が変化します。



PCVと肺コンプライアンス

肺コンプライアンス低下例では送気時すぐ設定した圧に到達するため、流量が上がらず一回換気量も低下してしまいます。



PCVと気道抵抗

気道抵抗増加例でも同様に送気時は流量が上がりにくいです。肺コンプライアンスに問題がなければ一回換気量の低下は見られません。送気流量が0に戻っていない場合は一回換気量が低下します。





プラトー

「EIP」「休止時間」とも呼ばれます。

吸気時に吸気弁と呼気弁を閉じ、気道内圧が高いまま設定した時間で止めます。

この間に膨らみやすい肺胞から膨らみにくい肺胞へガスが移動するので不均衡分布改善、ガス交換効率が上昇します。

PEEPは呼気時に肺胞が虚脱しないよう設定した圧をかけます。

上はVCVの波形ですが、PCVでは「最高気道内圧=プラトー圧」と考えることができます。





各モードの吸気時間



VCVの吸気時間

I:E比や送気流量を調節して吸気時間を決定します。吸気時間を短くした(または送気流量を上げた)場合、一回換気量は設定した値で送気するので過大な圧がかかることがあるので注意します。人間の平均吸気流量は30L/minなので通常はサギングが起きないようそれ以上に設定します。



PCVの吸気時間

吸気時間が短いと流量波形が0に戻る前に呼気になるので、いわゆる十分に空気を吸えていない状態になり、一回換気量が下がることがあります。基本は送気流量が0に戻るよう吸気時間を設定します。



PSVの吸気時間

terminationと言います。「サイクルOFF」や「ESENS」、「吸気終末」、「呼気トリガ」と呼んだりもします。

送気流量が○○%まで低下したら呼気に転ずる、この○○がterminationになります。値が低いほど吸気時間が長くなり、患者の呼吸次第で吸気時間が変動します。



立ち上がり時間(PCV/PSV)

rise timeと言います。「吸気立ち上がり時間」とも呼ばれます。rise timeは設定した圧に到達するまでの時間です。PSVPCVに設定項目があります。

rise timeが早すぎるとオーバーシュートを起こしてしまい、呼吸の非同調につながります。

気道抵抗の高い患者や吸気努力の強い患者はオーバーシュートを起こさない程度にrise timeを短く設定します。



吸気時間が短い・長い

吸気時間が短いと呼気直後に凸が発生することがあります。これがトリガーされればダブルトリガーになるため注意します。呼気直後に顎が挙上したり吸気補助筋を使用する呼吸様式になります。

吸気時間が長いと吸気の終末に凸が発生することがあります。不快感や内因性PEEP(オートPEEP)の原因になるため注意します。PCVPSVではこの凸が発生しないことが多いです。送気を呼気で抵抗するため呼気努力が強くなり、送気後半で腹筋が収縮する呼吸様式になります。なので波形上に凸がない場合でも手で腹部を触ると確認されやすいです。





いろんな波形



水・貯留物

水たまりや分泌物があると波形がギザギザとなり回路もブルブル震えることがあります。水たまりは加温加湿チャンバーやウォータートラップに排出させ分泌物は吸引で除去します。



リーク

換気量の波形は基本0に戻ります。吸気ガスの量と呼気ガスの量が違うとその分ガスが漏れている(リーク)可能性があります。回路や呼気カセット、カフなどを確認します。



ダブルトリガー

トリガーから送気終了後に再びトリガーしてしまうことで換気が行われます。最高気道内圧が上昇して圧損傷を起こす可能性があります。吸気時間が短い、一回換気量が少ない等で発生します。



リバーストリガー

通常は

患者トリガー →送気

ですが

送気(強制換気) →患者トリガー

となることがあります。原因の詳細は不明

強制換気開始直後に患者トリガー(横隔膜収縮・食道内圧低下や顎の挙上など)がみられ、ダブルトリガーや過剰な換気量が発生する可能性があります。鎮静を浅くしたり強制換気回数を下げ自発呼吸を優先させる設定が望ましいと言われています。



ミストリガー

自発呼吸を検知せず(ミストリガー)送気が行われない現象が起こります。人工呼吸器のトリガー感度が低い(鈍感)、内因性PEEP(オートPEEP)、呼吸筋低下などが原因としてあげられます。トリガー感度を上げる、内因性PEEPの改善を行います。



内因性PEEP

気道抵抗↑や吸気時間・呼吸回数が増加すると呼気ガスが吐けず肺が膨張します(エアトラッピング)。PEEPの設定値・測定値よりも実際は高圧が肺にかかっている状態です(内因性PEEP、オートPEEP)。画像のように送気流量が0に戻っていないときは内因性PEEPを疑います。呼気弁を閉じて内因性PEEPを測定する方法もあります。内因性PEEPによってミストリガーが発生している場合はPEEPの設定値を上げると回路―肺胞間の圧差が小さくなり、小さい吸気努力でフローが呼気→吸気に転じる。これでトリガー感度が良くなることがあります。

気道抵抗↑の原因(分泌物や気管攣縮など)除去、呼気時間を延長させる設定、PEEP設定値増加で内因性PEEPを改善させます。



オートトリガー

自発呼吸以外を検知し(オートトリガー)送気を行う現象が起こります。人工呼吸器のトリガー感度が高い(敏感)、IABPの振動、呼吸回路のリークなどが原因としてあげられます。トリガー感度を下げます。







ループ波形

1呼吸につき1つのループ波形が表示されます。圧-換気量曲線(Pressure-Volume Loop)や流量-換気量曲線(Flow-Volume Loop)があります。病態の変化をわかりやすくするために使用することがあります。









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参考にした資料

[参考書]人工呼吸ケアのすべてがわかる本(2014)

[参考書]ICUのモニタリング(重症患者ケア,2015)

[雑誌]人工呼吸器(INTENSIVIST,2018)

[HP]呼吸ケア 人工呼吸器 基礎1:概要(Medtronic)
↑無料で見れます。

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