敗血症治療でヘモフィールやセプザイリスなど「吸着」の原理を用いたCHDF、いわゆるCAH-CHDF(cytokine-adsorbing hemofilter)が注目されています。
「non-renal indication」なんて言い方もします。
どっちがいいの?という疑問から
それぞれの膜の特徴を見て考察してみました。
PMMA膜とAN69ST膜の Point!
・敗血症ではタンパク(サイトカイン)が病原物質なので吸着膜によって除去する
・どちらも原理が違うけど、どちらも優秀な吸着膜
・AN69ST膜は「敗血症」だけで保険償還できる
・AN69ST膜は抗菌薬や抗凝固剤を強く吸着してしまう(フサンなど)
CAH-CHDFの意味
まずは敗血症の病態生理について知る必要があります。簡単に記事にまとめてみたので見ていただけると理解しやすいかと思います。
敗血症ではPAMPsやalarminから起因して、IL-6やTNF-αなどサイトカインが過剰に産生されます。しかも連続的でサイトカインが一つ増えるとレセプターに反応して他のサイトカインを産生したり、再びalarminがトリガーしたり、と負のスパイラルで増殖を続けます。
これらサイトカインの増殖を止めるために、原因となるサイトカインを除去し、連鎖を断ち切る。この考えから生み出されたのが血液浄化膜の吸着によるサイトカイン除去「CAH-CHDF(cytokine-adsorbing hemofilter)」になります。
要するに「サイトカインが悪さをしているのならサイトカインを吸着して抜いちゃおう」といった考え方です。
CAH-CHDFで使用する膜の特徴
現在では二種類のCAH-CHDFの膜があります。
一つは東レ・メディカルが出しているPMMA膜(ヘモフィールCH)
もう一つはバクスターが出しているAN69ST膜(セプザイリス)があります。

それぞれ吸着原理が違うため、解説したいと思います。
PMMA膜の吸着原理
PMMA膜では主に「疎水結合」を利用してサイトカイン吸着を行います。
疎水結合とは、ざっくり言うと、水分子と水分子が水素結合し、それ以外がはじき出されて集合する(厳密には違いますが)ことです。
これに加えて、PMMA膜では炎症性サイトカインの代表でもあるIL-6がはまり込みやすい大きさの穴を作ることによって、サイトカインを吸着しています。
AN69ST膜の吸着原理
AN69ST膜では主に「イオン結合」を利用してサイトカイン吸着を行います。
サイトカインの多くは陽性荷電が多く(アミノ基による)、それを陰性の膜でくっつけようとして作られたのがAN69ST膜です。ざっくりな説明ですが、プラスとマイナスのものがくっつく、という単純な原理です。
PMMAとAN69ST膜の違い
二つの吸着膜を紹介しましたが、ここでこんな質問が出てくるかもしれません。「どっちの膜が良いの?」です。
PMMA膜とAN69ST膜は原理が違うため、吸着できるサイトカインも違ってきます。よって「どっちも違って、どっちも良い」が答えになります。
普段の透析やCHDFでは除去目的の物質を「分子量」で考えるのがメジャーですが、陰性荷電膜のAN69ST膜を考慮すると、「荷電」の影響も考えなくてはなりません。
図はAN69ST膜の吸着領域と、PMMA膜の吸着領域を推察したものです
AN69ST膜:正電荷(等電点7以上)領域
PMMA膜:分子量約20,000~30,000(IL-6近辺)領域
での吸着をします。
例えばここに炎症性サイトカインのIL-6をはめ込んでみると、IL-6は分量約24,000、等電点5.0なのでPMMA膜の吸着領域になります。
原理的にはIL-6はAN69ST膜よりPMMA膜の方が吸着が優れているという結果になりました。実際に札幌医科大学が出されている文献でもそのような記載があります。
しかし、他のサイトカイン(HMGB2やTNF-α、IL-8、Histoneなど)も同様に原理通りに吸着特性が分かれるわけではなく、PMMA膜の吸着領域なのにAN69ST膜の方が吸着が優れていたり、AN69ST膜の吸着領域なのにPMMA膜の方が吸着が優れていたり、といったことが多々あります。
さらに、日々の簡単な血液検査やバイタルなどから、PMMAとAN69STの膜選択は判断できず、実臨床では結局使用する人の「好き嫌い」で選択されることが多い印象です。
まだまだ研究不足を感じますが、CHDF施工中の薬剤投与の際など、薬剤吸着の推察にも上の図は役に立つと思います。
PMMA膜とAN69ST膜はどちらも敗血症に対しては優秀な治療効果であり、比較は難しいですが、次にご紹介する保険償還の違いや治療の影響(抗菌薬や抗凝固剤の吸着)で使い分けられています。
その他のPMMA膜・AN69ST膜の違い
PMMA膜は他の膜と同様に「腎不全」に対して保険が取れます。敗血症からなる敗血症性腎不全に対してPMMA膜は良い適応かと思います。
AN69ST膜は腎不全だけでなく「敗血症」単体でも保険が取れるため、比較的導入しやすく先手が取れやすいと言われています。材料価格が若干高いというPMMA膜との違いもあります。(400円程度です。)
あとはPMMA膜・AN69ST膜の違いとしてサイトカイン吸着だけでなく「抗菌薬」や「抗凝固剤(主にメシル酸ナファモスタット)」と吸着してしまうという違いがあります。
抗菌薬に関してはAN69ST膜で特に吸着しやすく、等電点の高い(+の荷電)テイコプラニンなんかは吸着量が多いという実験結果があります。
さらにAN69ST膜では抗凝固剤で使用するメシル酸ナファモスタットを吸着しやすく膜出口にある静脈チャンバーが凝固で目詰まりを起こし、中断を余儀なくされることがあります。
現在では膜前後でメシル酸ナファモスタットを分注する「AV法」や
静脈チャンバーが詰まりにくい「ディアレーションチャンバー」を使用したり(血液浄化装置プリズマフレックス:バクスター社製)
AN69ST膜から同等の治療効果があるPMMA膜に切り替えたり
抗凝固剤のメシル酸ナファモスタットを比較的吸着の影響が少ないヘパリンに切り替えてみたり
いろんな静脈チャンバー目詰まり対策があります。
静脈チャンバーの目詰まりが問題になるようであれば、こちらも試してみるのもいいかもしれません。
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