病態生理 集中治療室(ICU)

やさしく「DIC」をまなぶ

投稿日:1月 11, 2021 更新日:

ICUで起こる播種性血管内凝固(DIC : disseminated intravascular coagulation)は悪化すれば多臓器不全になるとても厄介な疾患です。

凝固異常が起こる疾患で血液検査値もぐちゃぐちゃに値が変わります。

病態についてイメージしづらいが、できるだけ簡単に「DIC」をご紹介したいと思います。

「DIC」の Point!
・DICとは「過凝固」のこと
・ICUで起こるDICは敗血症と強いつながりがある
・透析導入時は抗凝固剤を慎重に調整する





DICの病態

DICは一言で表すと

血管内の「過凝固!!」です。

なんらかの原因(感染・炎症)によって血管内の過凝固によって微小血栓が大量に発生します。

これらの血栓が微小血管につまり、臓器の血液循環が悪くなり、臓器障害が生じます。

DICの流れをまとめると

なんらかの原因で血管内の血液が過凝固

微小血栓が大量に発生

細い血管に血栓が詰まる

臓器に血液が送られず、臓器障害が起こる

多臓器不全(MOF)

DICは急性・慢性・代償性・非代償性・顕性・非顕性・Pre・炎症性・非炎症性・線溶抑制型・線溶均衡型・線溶亢進型など多くの種類があります。

今回は集中治療領域でもっとも多い「急性DIC(炎症性・線溶抑制型)」についてお話します。

現場ではほとんどがこの急性DICに該当します。

敗血症などの感染による炎症が主な原因です。

どんな疾患でも重症化すれば急性DICが起こることがあります。

臓器障害の評価で広く使用されているSOFAスコアにも「血小板数」の項目があります。

これはDICによる血小板数低下を早く発見するために組み込まれています。

多臓器不全にならないためにも日頃から血小板の低下には気を付けて観察します。





DICとは「過凝固」のこと

急性DICでは

感染や炎症によって外因系凝固のトリガーとなる組織因子(TF : tissue factor)が大量に増えて「外因系凝固」が活性化、つまり過剰な凝固が起こります。

大事なことなのでもう1度言います。

急性DICは「過剰な凝固」が起こるのです。

DICを理解するには「過凝固」を中心に考えれば理解しやすいです。



過凝固が起こるので凝固因子は消費されます。

過凝固が起こるので抗凝固因子も消費されます。

凝固因子が消費されるので凝固時間が延長します。

凝固因子が消費されるので代謝産物(線溶系)も増加します。



もう少し細かく説明します。



凝固が過剰に起こるため、フィブリノゲン(FBG)などの凝固因子(I~XII)と血小板(Plt)が消費されます。血液検査値で減少します。

凝固系の消費
・凝固因子(フィブリノゲンなど)↓
・血小板(Plt)↓

また、過凝固によってもともと生体内にある抗凝固因子も消費されます。主にアンチトロンビン(AT)、プロテインC(PC)、トロンボモジュリン(TM)、組織因子経路インヒビター(TFPI)が減少・活性が低下します。

抗凝固系の消費・活性低下
アンチトロンビン(AT)↓
プロテインC(PC)↓
トロンボモジュリン(TM)↓
組織因子経路インヒビター(TFPI)↓

これらからプロトロンビン時間(PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、活性化全血凝固時間(ACT)などの凝固時間が延長します。特にPTはTFの影響で凝固因子(VII)が不活化されるため、DICに特徴的で早期に延長します。

凝固時間の延長
PT↑
aPTT↑
ACT↑
ELT↓

過剰に凝固が起こった(血栓ができた)結果からFDP(フィブリンとフィブリノゲンの分解産物)やDD(Dダイマー)、TAT(トロンビン―アンチトロンビン複合体)、可溶性フィブリン(SF)、フィブリンモノマー複合体(FMC)、可溶性フィブリンモノマー複合体(SFMC)、プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)などの凝固後の産物が増えるため、血液検査値で増加します。また炎症性物質の血管内皮細胞障害からプラスミノゲンアクチベータ(PA)が増加します。

凝固後の代謝産物(線溶系)の増加
FDP↑
DD↑
TAT↑
PA↑
SF↑
FMC↑





DICの診断

DICの診断基準は万能に使われているものはないです。

厚生省や日本血栓止血学会、各研究などなど、いろんな診断基準があります。

その中でも急性DICの診断には日本血栓止血学会の診断基準が適していると言われています。



急性DIC診断基準(日本血栓止血学会)


DIC診断基準(日本血栓止血学会2017年版)

※上の診断基準は産科・新生児領域には不適応です。

基礎疾患(敗血症や悪性腫瘍、外傷、急性肝不全急性膵炎など)や原因不明の血小板低下などでDICが疑われます。

血小板低下の原因が造血障害であれば「造血障害型」

感染症があれば「感染症型」

どちらもなければ「基本型」

を使用します。

ICUでは敗血症(感染)からDICにつながるケースが多いです。

DICは血栓性微小血管症(TMA)抗リン脂質抗体症候群(APS)など病態の似ている疾患が多いため、鑑別が必要です。

慢性DICは厚生省の診断基準が適していると言われています。

厚生省血液凝固異常症調査研究班報告(昭和62年度)





DICの治療

DICでは過凝固が起こるため、できるだけ凝固を起こさないよう抗凝固剤による「抗凝固療法」を行います。

抗凝固剤によって過凝固が抑制されますが、同時に血液がサラサラになり出血するリスクも高くなるため、凝固時間などを参考に慎重投与します。

DICで使用される抗凝固剤は以下の通りです。

ヘパリン
・未分画ヘパリン(UFH)
・低分子ヘパリン(LMWH)

合成プロテアーゼ阻害剤
・メシル酸ガベキサート(GM)
・メシル酸ナファモスタット(NM)

生理的プロテアーゼ阻害剤
・アンチトロンビン(AT)
・トロンボモジュリン(TM)
・活性化プロテインC(APC)

最近ではトロンボモジュリン製剤である「リコモジュリン」がDIC治療の話題です。

DIC治療中も、DICが進行すれば臓器障害が現れることがあります。

その場合はそれぞれ臓器障害に対する治療をします。





DIC患者の「透析」で注意すること

DICでは血液浄化などの体外循環を導入する時は特に慎重にならなければなりません。

CHDFなどの血液浄化を導入する前にすでに凝固時間(APTTなど)が過剰に延長していることがあります。

CHDFでは抗凝固剤を使用するため、もともと長い凝固時間がさらに延長し、出血リスクが高くなります。

DIC患者でのCHDF導入時は特に慎重視しなければなりません。

当院では「透析前」にACTやAPTTなどの凝固時間を測定し、その透析前の値から過延長しないようにCHDFの抗凝固剤の流量を調節します。

抗凝固剤を使用しないこともあります。





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抗凝固療法 はこちら

血液製剤 はこちら

その他の記事  はこちら(HP)





参考にした資料

[参考書]ファーマナビゲーター DIC編(2019)

[指針]DIC診断基準(日本血栓止血学会,2017)

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