IABP Impella PCPS ECMO VAD 補助循環

やさしく「補助循環の違い」をまなぶ

投稿日:4月 30, 2020 更新日:

補助循環は種類によって目的も循環動態もまるで違います。

単に血圧を上げる道具ではなく、適切に使い分けなければなりません。

今回はそんな補助循環についてご紹介します。

補助循環のPoint!
・種類は「IABP」「ECMO(PCPS)」「インペラー」「補助人工心臓(VAD)」の4つ!
・どの補助循環も循環動態を改善させる!ECMOは酸素化も可能!
・IABPとインペラーは心臓にやさしい(保護効果)、ECMOは心臓に負担をかける(後負荷増大)





補助循環は主に心原性ショックの場面で使われます。

心原性ショックは多い順に
・急性心筋梗塞
・拡張型心筋症
・心タンポナーデ
・肺血栓塞栓症
・弁膜疾患
・CABG術後、その他

があります。

心機能異常で循環がうまくいかない時に心臓の代行をします。よって心臓が原因もしくは原因と思われる場合が適応です。

補助循環装置はMCS(mechanical circulatory support support)とも呼ばれ、急性期ではIABPECMOIMPELLAがあります。





「心臓の保護効果」と「全身の循環」

心原性ショックは心筋梗塞などの心臓の虚血が原因によるものが多いです。

その結果、心臓のポンプ機能が弱くなり、全身の循環が維持できなくなります。

補助循環は心臓の虚血を改善する「心臓の保護効果」と全身循環を代行する「全身の循環」の二通りの機能で解釈することができます。



心臓の保護効果

心臓の保護効果は一言でいえば「心臓を休ませること」で心臓の前負荷後負荷を減らし心臓の仕事量を軽減させること。

これは心臓の酸素消費量の減少にもつながります。

さらに心臓に栄養を送る冠動脈に酸素化した血液を豊富に流すことで心臓の酸素供給量が上昇し、心臓が楽になります。

酸素消費量に見合った酸素供給量の確保が大事になります。

心臓(左室)の動きを図で表すと

PVループ

このうち心臓の仕事量を表す部分は緑色の面積部分になります。この面積が大きいほど心臓仕事量すなわち心筋酸素消費量の多い、ということになります。



全身の循環

心臓は本来、全身に血液を循環させる臓器です。

補助循環装置で原理と補助の強さが違うため、種類で全身の循環動態が変わってきます。



さらにかみ砕いて言えば、補助循環装置は

心臓に栄養を送る(心臓の保護効果)機能
心臓の代行をする(全身の循環)機能

があります。

「補助循環」という言葉に御幣があり、心臓の代行をするイメージが強いと思います。

心臓の保護効果・全身の循環を理解し、補助循環装置の使い分け、適切な条件設定を行わないと治療がうまくいきません。





IABP

大腿動脈から挿入しバルーンを下行大動脈に留置します。

心臓の拡張期でバルーンを拡張
ダイアストリックオーグメンテーション
心臓の収縮期でバルーンを収縮
シストリックアンローディング

することによって心臓のサポートをします。

IABPは比較的効果が弱いため軽症の心筋梗塞でよく使用します。



心臓の保護効果

酸素消費量↓ 酸素供給量↑

収縮期のシストリックアンローディングにより後負荷が軽減します。

また、ダイアストリックオーグメンテーションにより冠動脈の血流が増加します。

心臓が消費する酸素に対して供給される酸素が増加するため、心臓の補助効果があります。



全身の循環動態

IABPは圧による補助であり、全体の血液流量が変化するわけではありませんが平均動脈圧が上昇します。

そのため冠動脈以外にも腎臓など各臓器の血液流量の上昇が期待されています。

「IABP」はこちら





ECMO

ECMOには大きく心臓と肺の補助(VA ECMO)目的と肺の補助(VV ECMO)目的の二種類の方法がります。心原性ショックの場面ではVA ECMOが使用されるためここではVA ECMOについて解説します。





VA ECMO(いわゆるPCPS)

カニューラを使って静脈から脱血→人工肺で酸素化→動脈へ送血し心臓と肺の代行をします。

心停止など緊急の場面で循環動態を復帰させる時に使用します。



心臓の保護効果

酸素消費量↑× 酸素供給量↓×

動脈の逆行性送血により、心臓の駆出時にECMOの送血と血液がぶつかり合い、後負荷が増大します。

後負荷増大によって心臓の仕事量(心筋酸素消費量)が増え、また自己肺の酸素加能も悪い場面が多く、冠動脈の酸素化血液流量(心筋酸素供給量)はあまり期待できません。

このように心臓の保護効果は乏しいですが、「心臓の補助<全身循環の補助」が優先される場合にVA ECMOが用いられます。



全身の循環動態

動脈血の酸素化・流量が確保され、臓器の酸素化血液流量が増加します。

しかし冠動脈の酸素化は期待できず、自己の肺状態と心拍出量によっては脳に酸素化された血液が灌流されないことがあるため管理には注意します。

「ECMO、PCPS」はこちら





IMPELLA

カテーテルの中にポンプが埋め込まれており、カテーテル先端を左心室に留置し、左心室から大動脈基部へ血液を送血します。

急性心筋梗塞や心原性ショック合併時にも用いられます。



心臓の保護効果

酸素消費量↓ 酸素供給量↑

心臓の収縮期も拡張期も常に大動脈基部送血するため、冠動脈への血液流量が増加、心臓への酸素供給量が増加します。

さらに左室内の血液量が減少→左心の仕事量が減少するため酸素消費量も減少します。



全身の循環動態

IMPELLAのカテーテルサイズによって流量が変わります。全身の順行性送血により各臓器の血液流量が上昇します。

「Impella(インペラー)」はこちら





補助循環(MCS)まとめ

VA ECMOは比較的心臓にとってメリットはないものの、全身の循環動態を確立させる力はあります。

IABPIMPELLAはどちらも心臓に負荷がなく優しいため循環動態を回復させるだけでなく心筋の回復目的に使用します。

IABPは圧による補助で効果は低いもののIMPELLAは流量による補助で補助効果は高いです。

使い分けを明確にした報告は見当たりませんが、これら各MCSの原理、補助効果、心臓の負荷、合併症などの総合的な判断で症例に見合った現実的な使い分けが考察されます。

ECMOとIABPを併用したり、ECMOとIMPELLAを併用(エクペラ)させることもあります。

「補助循環」はこちら





VAD(補助人工心臓)

上のIABPECMOIMPELLA以外にもVAD(補助人工心臓)と呼ばれる補助循環もあります。

慢性期で使用される「植え込み型補助人工心臓」が有名ですが急性期では「体外式補助人工心臓」が主に用いられ、右心の補助をするRVAD、左心の補助をするLVAD、両心の補助をするBiVADなどがあります。

「補助人工心臓(VAD)」はこちら





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その他の記事  はこちら(HP)





参考にした資料

[参考書]臨床工学技士集中治療テキスト(日本集中治療医学会,2019)

[指針]急性・慢性心不全診療ガイドライン(各学会,2017)





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