CHDFやECMO、VADなどの「体外循環」は血液を体外に出すため、血液が異物との接触によって血液凝固が生じます。
そのため体外循環では血液が凝固しないようサラサラにする「抗凝固剤」が必要になります。
今回は体外循環中の抗凝固についてご紹介します。
抗凝固療法の Point!
・抗凝固剤の投与量は凝固時間で調整する
・凝固時間が長いと出血リスク、凝固時間が短いと凝固のリスクが高くなる
・ICU内のCHDFとECMOでは「メシル酸ナファモスタット」「ヘパリン」がよく使われる
・在宅のVADでは「ワルファリン」がよく使われる
抗凝固剤の投与量調整
抗凝固剤は凝固時間で投与量を調整します。
凝固時間
・活性化全血凝固時間(ACT)
・活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)
・プロトロンビン時間(PT)
凝固時間が短い(抗凝固剤が効かない)と血栓や回路内凝固が現れます。
凝固時間が長い(抗凝固剤が効きすぎ)と出血リスクを上げるため注意します。
凝固時間が「長すぎない + 短すぎない」程度に投与量を調整する必要があります。
抗凝固療法中のイメージ

補助循環やCHDFではACTとaPTTをモニタリングします。
至適と呼べる明確な値はありませんが
ACTは基準値の1.5~2倍
aPTTは基準値の2~3倍
が体外循環中の目標値といわれています。
VAD管理中ではワルファリン(抗凝固剤)を内服し、PT-INRによって投与量を調節します。機種によって目標値が違います。
CHDFの適応患者によくみられる「播種性血管内凝固症候群(DIC)」では凝固系が破綻し体内の凝固時間が過延長していて出血の危険性が高い場合など、「抗凝固剤を投与しない」という手も考慮します。
抗凝固剤の種類
抗凝固剤の種類はかなりたくさんありますが、今回は体外循環で使用する抗凝固剤を紹介します。
体外循環用抗凝固剤の種類
・メシル酸ナファモスタット
・ヘパリン
・低分子へパリン
・アルガトロバン
・クエン酸ナトリウム
・ワルファリン(内服薬)
・ヒルジン(外国で認可)
体外循環では上の抗凝固剤が使用されますが、集中治療領域では他にもヘパリンの作用機序にある「ATIII製剤」やDICの治療薬で「トロンボモジュリン製剤(TM)」などを使う場面があります。
順番に解説していきます。
おまけで管理人の名前として採用している「ヒルジン」の話もしようと思います。
メシル酸ナファモスタット
抗凝固:凝固因子(2,7,10,12)、トリプシン、プラスミン、カリクレインC3・C5コンベルターゼを阻害
半減期:8分
分子量:540
モニタリング:aPTT、ACT
薬価:高額
半減期が短く、aPTTが延長しても出血が少ないことから出血傾向の症例によく使用されます。ACTは回路内で局所的に延長するため、体内と回路内の両方を測定するほうが望ましいです。CHDFではAN69ST膜で吸着特性があるため併用は避けたほうが望ましいです。多くのジェネリック商品が出ていますが、それでもヘパリンと比較するとかなりの高額です。まれにアナフィラキシーショックを起こすことがあります。CHDFやECMOでよく使用します。
ヘパリン
抗凝固:ATIIIを介して凝固因子(2,7,9,10,11,12)を阻害
半減期:45~90分
分子量:5000~30000
モニタリング:aPTT、ACT
薬価:低額
半減期が長いため回路内と体内同時に延長する傾向があり、体内の凝固時間で見る管理方法が根強い印象です。拮抗薬のプロタミンがあり、ヘパリンを投与しながら送血側でプロタミンを投与し、回路内だけヘパリン化する方法もありましたが、プロタミン自体にヒスタミン産生副作用があるため推奨されていません。ATIIIを介して抗凝固するため、ATIII欠乏では効果が発揮しません。まれにHIT(ヘパリン起因性血小板減少症)を起こすことがあるので念頭に置きながら使用します。CHDFや補助循環(IABP、Impella、ECMO)でよく使用します。
低分子へパリン
抗凝固:ATIIIを介して凝固因子(2,10)を阻害
半減期:2~4時間
分子量:5000
モニタリング:XCT
薬価:高額
半減期は長いため4時間透析の場合は一回の投与で施行可能です。抗凝固作用はそんなに強くないので出血リスクのある患者に使用されます。抗Xa活性はaPTTやACTでモニタリングできないので抗Xa活性(XCT)のモニタリングを行います。透析(HD)で使用することがあります。
アルガトロバン
抗凝固:凝固因子(2)を阻害
半減期:40分
分子量:527
モニタリング:aPTT、ACT
薬価:高額
半減期が長いため出血傾向のある患者には適さないです。ATIII70%以下かHIT(II)型で保険適応であるため、第一選択で使用することはそうそうないです。
クエン酸ナトリウム
抗凝固:カルシウム非活性化
半減期:肝臓で速やかに分解
分子量:294
モニタリング:aPTT
薬価:低額
肝臓で代謝されるため肝不全時には使用できません。凝固因子(4)でもあるカルシウムとキレート結合するため、カルシウムを補充しながら施行すると低カルシウム血症を予防できます。高ナトリウム血症のリスクもあるため注意します。海外ではよく使用され透析液に混ぜて前希釈する投与方法があります。 他の抗凝固剤に比べてフィルターの寿命が有意に長いです。末梢血幹細胞移植などで使用します。
ワルファリン
抗凝固:ビタミンK合成阻害
半減期:6~80時間
分子量:346
モニタリング:プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)
薬価:安価
内服の抗凝固剤です。ビタミンKを阻害することでビタミンKによって産生される凝固因子(2,7,9,10)を阻害します。凝固因子によって半減期が違うためかなりムラがあります。プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)によって調整をします。納豆や緑黄色野菜はビタミンKを多く含むため、摂取するとワルファリンの効果が弱くなります。補助人工心臓(VAD)や心房細動(AF)、大動脈弁置換術後などの血栓予防で使用します。
まとめ

ここで紹介した。体外循環で使用する抗凝固薬以外にもDIC治療で使用する抗凝固薬や血液製剤、遺伝子組み換え製剤、抗血小板剤など抗凝固作用のある薬剤はたくさんあります。
ヒルジン
抗凝固:アンチトロンビン(AT)を介さずトロンビン阻害
半減期:40~120分
分子量:7000
モニタリング:知りません
薬価:知りません
ヒルの唾液から発見され、一番最初に報告された抗凝固剤です。アルガトロバンと同様「抗トロンビン薬」です。 アンチトロンビンを介さずフィブリンと結合しているトロンビンの阻害効果強いため HITの危険性がない。改良を重ねて海外では血栓症の治療薬で使用されています。腎代謝型薬剤であるため、腎不全では半減期は延長します。
オススメ関連記事
血液浄化 はこちら
アフェレシス はこちら
補助循環 はこちら
凝固 はこちら
播種性血管内凝固症候群(DIC) はこちら
血液製剤 はこちら
その他の記事 はこちら(HP)
参考にした資料
[参考書]CRRTポケットマニュアル(2015)
[参考書]アフェレシス療法ポケットマニュアル(2012)