陰圧換気と陽圧換気に関してはいろんな人が解説されていますが、理解が得られるよう「経肺圧」に触れながらお話したいと思います。経肺圧を知ることは「人工呼吸器関連肺障害(VALI)」を予防する上でも大切な知識です。
経肺圧のPoint!
・健康な患者の換気は「陰圧換気」人工呼吸器による換気は「陽圧換気」
・経肺圧は肺にかかる圧のこと
・経肺圧が高いと人工呼吸器関連肺障害は(VALI)を起こす
・陽圧は人工呼吸器の「回路内圧」、陰圧は「食道内圧」で測定できる
陰圧換気
普段の僕らの呼吸は陰圧換気になります
胸腔内圧が陰圧になることにより呼吸ができます。
胸腔内圧は「肺の外側の圧」と考えてください。
横隔膜と内肋間筋の収縮
→胸腔内が陰圧
→吸気
このように横隔膜で肺を外側から引っぱります。
陰圧換気は自発のある患者の換気方法です。
横隔膜・内肋間筋の収縮で「胸腔内圧」が陰圧になり、肺が膨らみます。
この肺が膨らむ圧を「経肺圧」と言います。
胸腔内圧 ↓
経肺圧 ↑
自発呼吸では呼吸仕事量(呼吸努力)が強いほど(陰圧が強いほど)、経肺圧が高くなり肺が大きく膨らみます。
胸腔内圧
安静吸気時 -4~-8cmH2O
安静呼気時 -2~-4cmH2O
努力吸気時 -40cmH2O
努力呼気時 +40cmH2O
陽圧換気
人口呼吸器装着中の換気は陽圧換気と呼ばれています
気道内圧(回路内圧)が陽圧になることで呼吸ができます。
気道内圧は「肺の内側の圧」と考えてください。
機械から肺に直接送気(陽圧)
→吸気
このように人工呼吸器で直接肺に圧力をかけます。
陽圧換気は自発のない人工呼吸器装着患者の換気方法です。
筋弛緩薬で患者の自発をなくし、人工呼吸器によって送気されるガスによって「気道内圧」が陽圧になり、肺が膨らみます。
気道内圧の上昇によって経肺圧が上昇し、肺が膨らみます。
気道内圧 ↑
経肺圧 ↑
人工呼吸では設定値によって陽圧が高くなればなるほど、経肺圧が高くなり肺が大きく膨らみます。
気道内圧は30cmH2O以上で高い経肺圧がかかり、肺胞破裂や気胸などの人工呼吸器関連肺障害(VALI)が起こると言われています。
人工呼吸器では最高気道内圧は30cmH2Oを超えないよう設定するのが望ましいです。
人工呼吸器による陽圧換気によって換気補助と酸素化を改善させます。
・換気補助
吸気時に陽圧をかけることによって、呼吸をサポートor代行し、換気量を増加させます
・酸素化
吸入気酸素濃度(FIO2)をあげて酸素化を改善させます。
また、平均気道内圧(PEEPなど)を上げて酸素化を改善させます。
※平均気道内圧=(PIP-PEEP)/2×(TI/TCT)+PEEP
PEEPの効果
呼気終末陽圧(positive end expiratory pressure:PEEP)という意味です。
常に陽圧をかけることで虚脱した肺胞を再開通させます。
肺シャント↓で酸素化が改善するほか、肺胞を常に開通させるのでずり応力が発生せず肺へのダメージが低いです。
先ほどの説明では陰圧換気は「安静呼気時-2~-4cmH2O」ですよね。
陽圧換気ではこれをPEEPを代用してると思ってください。
陽圧換気 + 陰圧換気
ここでちょっと難しいのが
「自発のある人工呼吸器患者」です。
自発のある人工呼吸器患者
上で説明したように経肺圧は気道内圧と胸腔内圧の差のことです。
経肺圧 = 気道内圧 - 胸腔内圧
人工呼吸器は陽圧換気のよって気道内圧を上げ、経肺圧を上げています。
これに自発が加われば自発呼吸で発生する陰圧換気によって胸腔内圧が下がり、経肺圧がさらに上がってしまいます。
人工呼吸器関連肺障害は(VALI)は高い気道内圧ではなく、「高い経肺圧」によって起こるものなので、自発のある患者(陰圧換気のある患者)に高い気道内圧をかけると陰圧と陽圧で肺が過膨張し、VALIを発生させてしまいます。
また、本来は肺を膨らませるための陰圧が肺血管にかかってしまい、肺浮腫になることもあります。
胸腔内圧は肺(肺水腫・胸水)や心臓(輸液・心不全)に水分が多くなるとより増加します。
他にも、筋弛緩時は横隔膜が緩んだり(頭側に押される)、重力や肺の形状の違いで背中側は高くなったりと胸腔内圧が上がる要因はあります。
重症のARDSでよく見られます。
このように自発による「高い経肺圧」が有害になることがあります。
この時は、筋弛緩薬を投与して自発なし下で安定させて人工呼吸管理します(陰圧換気をなくす)。これは人工呼吸器を長期的に考える方法です。
また、人工呼吸器のサポート圧を下げて自発下で人工呼吸管理をします(陽圧換気を下げる)。この時うまくいけば人工呼吸器を離脱できます。自発下ではサポート圧を下げても換気量は維持されることがあります。これは自発の陰圧換気によって経肺圧が一定に保たれているからです。
自発のある患者のサポート圧を下げ、換気量も同時に下がるようであれば、そもそもの換気量が多かったか、もしくは別の要因が考えられます。
このように陰圧換気と陽圧換気のモニタリングが難しいことがあります。こんな時は「食道内圧」を測定してみましょう!!
陽圧換気による換気血流不均衡
呼吸器系は「重力」が強く影響してきます。
ベッドで寝ている患者は重力の影響で内蔵が背中側に落ち込み、横隔膜は背中側に押されています。
なので自発呼吸による吸気(陰圧換気)では背中側の肺胞が膨らみ、背中側の換気量が多くなります。
血流も重力の影響で背中側に多くなるので、換気血流比は同じくらいになり、呼吸の効率も良くなります。
対して人工呼吸による吸気(陽圧換気)ですが、背中側は内蔵の重みがあるため、おなか側の肺胞が膨らみやすくなります。
血流は重力によって背中側で多くなるため、背中側とおなか側で換気血流比不均衡が起こってしまいます。呼吸の効率が悪くなってしまいます。
脂肪や臓器が重力の影響で換気血流比不均衡を招きますが、この上さらにARDSも伴うと肺水腫による水分も重力の影響で背中側に圧をかけることになります。
その場合、おなか側の肺胞過膨張、背中側の肺胞虚脱がCTで多く見られるようになります。
正常な肺領域が小さくなるため、ベビーラング(baby lung)とも呼ばれています。
陽圧換気による血行動態
人工呼吸器による陽圧換気では、経肺圧だけでなく「心臓」や「血管」にも与える影響が違います。
陽圧換気による胸腔内圧の増加で中心静脈圧(CVP)も上昇します。PEEPは5cmH2O増加でCVPは1mmHg増加すると言われています。CVP増加によって静脈灌流量が減ります(右室前負荷)。また、肺胞で毛細血管を押すため、右室の後負荷は上がります。結果、左室に流れる血液が減り、血圧が低下します(左室前負荷)。左室は陽圧換気で押されることによって、左室の収縮が補助されるため、左室後負荷は低下します。
このように陽圧換気では、左室後負荷が低下し、小さい圧力で心臓から血液を駆出できるため、一見 血圧が上がりそうに見えますが、、右心の影響で左室に血液が流れにくくなるため心拍出量が減り、結果、全体的に血圧は低下します。
陽圧換気は陽圧が強い「吸気時」に動脈圧・脈圧が最大になります。血管内の水分量が少ない患者ではより大きく現れます。数値化したものをSVVと言います。
このように陰圧換気と陽圧換気では血行動態が変わってきます。
さらに自発呼吸が強くなると呼吸仕事量(呼吸努力)が増えて交感神経も亢進するため、心拍数増加や血圧増加、静脈還流増加、心筋虚血、SvO2低下・・・などなど起きます。
なにが言いたいかというと。筋弛緩薬をきる時や人工呼吸器を離脱するときは気をつけろ!ということです。
筋弛緩薬をきるということは
陽圧換気→陽圧換気と陰圧換気
人工呼吸器を離脱するということは
陽圧換気と陰圧換気→陰圧換気
になります
自発呼吸トライアル(SBT : spontaneous breathing trial)がうまくいかない時は単に呼吸器や肺の問題だけでなく、このような血行動態や交感神経の変化に患者がついていけないからです。
心不全での陽圧換気はOK?
通常は陽圧換気によって肺胞内の容量増加→肺毛細血管を押しつぶし肺循環が悪くなります。
いわゆる肺うっ血状態になり右室後負荷による心拍出量低下(血圧低下)が起きます。
心不全では肺毛細血管の血液量が増加(肺うっ血)し、血管外に漏れて肺水腫(急性心原性肺水腫)になることがあります。
この時、陽圧換気(PEEP)によって低酸素性肺血管収縮が改善し肺循環が良くなることもあります。
また、極度に前負荷が高い場合は陽圧換気で左室前負荷が減少し、短時間で心不全に伴う肺うっ血が改善することもあります。
フランクスターリンの法則
人工呼吸器の回路内に一酸化窒素を混ぜ、肺血管を拡張させるNO吸入療法もあります。
経肺圧に関して今度さらに詳しく解説したいと思います。
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参考にした資料
[参考書]人工呼吸ケアのすべてがわかる本(2014)
[雑誌]人工呼吸器(INTENSIVIST,2018)