心電図は院内で当たり前のように測定されています。
不整脈に関しては苦手な方も多いと思います。
不整脈かと思ってたら機械のノイズだったりすることもあります。
逆に致死的不整脈をノイズと間違えてほったらかしにしないように、知っておいた方が良い「すぐに対応が必要な不整脈」と「モニターのノイズ(トラブル対応)」についてご紹介します。
心電図の Point!
・心臓は「電気」で動き、心電図は電気の動きを測定
・緊急の不整脈は「Vf」「VT」「心静止」「PEA」の4つ!
・不整脈や急変時に「12誘導」心電計を使う
心電図の原理(心臓は電気で動いている)
心臓は電気で動いています。
この電気の動きを波形にしたのが心電図です。

上は刺激伝導系といい、電気が通る道のようなものです。
洞結節 → 房室結節 → ヒス束 → 左脚・右脚 → プルキンエ線維
の順番で電気が送られ、心房・心室が収縮します。


心房の収縮によってP波
心室の収縮によってQRS波
心室の再分極によってT波
がそれぞれ発生します。
モニタリングするときは1コの誘導を観察しますが、さらに詳しく見たいとき12誘導心電図を測定します。
12誘導心電図を測定することで、病変部が心臓の前壁にあるのか、後壁にあるのか、はたまた右心なのか左心なのか、心臓の状態がおおよそわかります。

緊急で処置が必要な不整脈を4つピックアップしました。
電気の動きから見てもP波やQRS波がないので正常に動いていないのがわかると思います。
見た目はノイズのようですが、致死的な不整脈なので急いで患者のもとへ行って確認してください。
患者の意識もなくなることが多く、胸骨圧迫、人工呼吸、必要に応じて除細動を行います。
その他の不整脈の対応はこちら

心電図モニターはI、II、III誘導の3つをモニタリングします。
電極を増やすと測定できる誘導も増えます。
12誘導心電計では12コの誘導が測定できます。
心電図モニターは長時間測定(モニタリング)するので体動によるノイズをなくすためにフィルターがかかっています。
なので、12誘導心電計より心電図モニターの方が波形がきれいに見えます。
フィルターをかけずに、心臓を細かく見たいときは12誘導心電計を使います。(不整脈や急変イベント、虚血性心疾患など)
心電図モニターでは心電図の他にも「呼吸数」を測定することができます。
心電図モニターの呼吸数測定

心電図電極から人体に影響のない電気(高周波電流)を流すことで、インピーダンス(電気抵抗のようなもの)を測定します。
このインピーダンスは呼気と吸気で変化するため、呼吸数を測定することができます。
呼吸数が測定できない時は電極の位置や患者の体位を変更します。
心電図のトラブル対応「ノイズ」なのか「致死的不整脈」なのか
心電図モニターはVfやVTなど致死的不整脈のアラーム機能があります。
本当は不整脈じゃないけど、体動やノイズの影響でモニターが不整脈と誤って認識し、「Vfアラーム」が発生することがあります。
実際に発生する致死的不整脈アラームすべてが不整脈ではなく、こういったノイズの誤認識だったりします。
なので、アラーム内容や心拍数だけを見るのではなく「波形」を見る癖をつけておけばだんだんわかってきます。
本当に「不整脈」なこともあります。不安であればアラームが鳴った時に患者のもとへ行き意識を確認します。
不整脈ぜんぶを覚えろとは言いませんが、「致死的な不整脈波形」は覚えておいた方が良いです。
ダブルカウント
QRS波の周波数と電圧値を読み取って心拍数をモニタリングしています。
本来は80bpmのダブルカウント

T波がQRS波と形が似ているとT波もQRS波と認識して、心拍数の値が2倍になることがあります。
心拍数が急激に上昇した時、まずは心電図波形を確認しましょう。
ダブルカウントが発生している場合は、誘導を変更するか、電極の位置を変更します。
心拍数が多い時は「V Tachycardia(心室頻拍)」とアラームが間違って鳴ることがあります。
電極のつけ間違い

電極をつけ間違えると、心電図が上下逆になったり(極性が反対)、II誘導がIII誘導になったりします。
電極をつけたときに心電図を確認するクセをつけておきましょう。
筋電図の混入

震えや緊張などで筋電図が混入することがあります。
原因の対処をします。
心電図モニターではフィルターがかかっているため、筋電図の混入はあまり見られませんが、混入がひどい時は「V fibliration(心室細動)」とアラームが鳴ってしまうことがあります。
これは誤認識によるものなので、しっかりQRS波を確認するのと、患者の意識があるか確認されてください。
12誘導心電計では筋電図フィルターで筋電図を除去することもできますが、周波数の特性でQRS波に測定誤差が発生する可能性があります。できるだけ使わない方が望ましいです。
ドリフト

発汗や電極が汚れている場合、もしくは呼吸で心電図の基線が揺らぐことがあります。
心電図モニターではフィルターがかかっているため、ドリフトはあまり見られませんが、患者がブルブルと動いてVTやVfのアラームが間違って鳴ってしまうことがあります。
12誘導心電計では呼吸を止めて測定することもあります。低周波フィルターでドリフトを除去することもできますが、周波数の特性でT波に測定誤差が発生する可能性があります。できるだけ使わない方が望ましいです。
交流ノイズ

コンセントから発生する交流(AC)の雑音が心電図に混入することがあります。
機器と機器の間隔をあけたり、電源部を確認して対処します。エコーを置いてると交流ノイズが強い印象です。
ハムフィルター(50~60Hz)で交流雑音を除去することもできますが、周波数の特性でQRS波に測定誤差が発生する可能性があります。できるだけ使わない方が望ましいです。
接触不良

電極が外れていたり、接触不良が起こると測定できず振り切れます。電極を正しく取り付けます。
「電極外れ」とアラームが鳴ることもありますが、「asystole(心静止)」と間違ってアラームが鳴ってしまうことがあります。
緊急処置が必要な不整脈

先ほども紹介した超緊急の不整脈です。
トラブル対応を一通りお話しましたが、電極や装置の影響で波形は変化します。
こちらの不整脈を見かけたら、まず患者の様子を見に行きます。見た感じはノイズのように見える不整脈ですが、電極や装置の影響と決めつけないでください。
こういった不整脈をモニタリングしているとモニターからアラームが鳴るはずなので、確認します。
熟練者になると不整脈を起こす手前の心電図までわかります。
そもそも心臓外科手術後や虚血性心疾患など、不整脈のリスクの高い患者では普段からモニタリングし、心電図に注目しておきます。
心電計はどうして12コ誘導がいるの?
12誘導は

両手・両足につける4つの電極(四肢の誘導)
胸につける6つの電極(胸部の誘導)
から構成されます。
電極を間違えないよう色分けされています。
(右手)赤色
(左手)黄色
(右足)黒色
(左足)緑色
(胸部)右から赤色・黄色・緑色・茶色・黒色・紫色
四肢の誘導は手首や足首につければよいです。
胸部の誘導は
赤色が第4肋間胸骨右縁、黄色が第4・・・とイマイチわかりにくいです。
なので簡単にいうと
<胸部誘導の電極位置>
赤:右乳首の左
黄:左乳首の右
緑:黄と茶の間
茶:左乳首の下
黒:茶と紫の間
紫:左わきの下
になります。
極端に太っていたり心臓の位置がずれていなければ、測定できます。
とりあえずI誘導とII誘導の波形が上に凸(+)で電気軸正常で電極の取り付けは問題ないです。
心電図の測定

心電図の測定はウィルソン結合やゴールドバーガー結合、アイントーベン、・・・などカタカナだらけの多くの原理があります。
まとめてお話すると、電気が発生(電気の向き)し、この電気が向かってくる誘導は上に凸(+)、電気が遠ざかる誘導は下に凸(-)になります。
測定の原理は現場であまり役に立たないので、このくらいで良いです。四肢の誘導、胸部の誘導に行きましょう。
四肢の誘導

四肢の誘導は標準四肢誘導(I、II、III)と単極四誘導(aVR、aVL、aVF)があり、
4コの電極から6コの心電図が測定できます。
心臓は刺激伝導系で心房から心室に向かって電気が流れます。電気の向きは図のようになります。
II、aVF、III誘導では電気が向かってくるため上に凸(+)になります。
I、aVL誘導は電気の向きに対して真横なので、上下に振れたり、小さい電位は表示されなかったりします。
aVR誘導は電気が遠ざかるため下に凸(-)となります。
右足の基準電極(黒)は誘導の一部ではありませんが、心電図の基準となる電極なのでこれがないと測定できません。
胸部の誘導

胸部の誘導は単極胸部誘導(V1、V2、V3、V4、V5、V6)と呼ばれています。
四肢の誘導と考え方は同じですが、主に心室の動きを見ています。右脚と左脚があるので電気の向きは多少複雑になりますが、だいたいは図のような心電図になります。
V3は心臓中隔あたりなのでR波とS波が同じくらいになります。右室拡大があればV6方向に左室拡大があればV1方向に移行します。
虚血性心疾患の12誘導
ここまでお話してきましたが、結局なぜ12コも誘導が必要なの?1コじゃダメなの?という方にもわかりやすいのが虚血性心疾患です。
冠動脈の虚血でSTが上昇・減少したり心電図が変化します。そこで虚血を起こしている冠動脈の部位と12誘導が結びつくため、分かりやすいです。

右冠動脈であればII、III、aVF誘導
左前下行枝であればV1、V2、V3、V4誘導
左回旋枝であればI、II、III、aVL、aVF、V5、V6誘導
の心電図(ST)が変化します。
aVRは普段は見ませんが、重症な場合はSTが上昇することがあります。
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参考にした資料
[参考書]レジデントのためのこれだけ心電図(2018)
↑冗談抜きでめちゃくちゃわかりやすいです。
[参考書]最新 臨床検査学講座 生理機能検査学(2016)