「ETCO2」は人工呼吸器管理中や挿管の場面でよく使われます。
ICUで身近に使うものなので、いまさらETCO2を深く考える場面はないかと思います。
いまさら聞けないETCO2を「測定する意味」と、
知らないとトラブル対応に困る「測定原理」についてご紹介します。
「ETCO2」の Point!
・通常でETCO2とPaCO2は同じくらい
・呼吸不全ではETCO2とPaCO2は違うことがある
・挿管時は「換気の有無」人工呼吸器管理中は「PaCO2の把握」が測定の目的
・センサーが濡れていると正しい値が表示されない
「ETCO2」とは
ETCO2(end tidal CO2)は呼気終末二酸化炭素分圧という意味です。
基本は「ETCO2=PaCO2」で動脈血中と呼気の二酸化炭素分圧は同じくらいになります。
正常だとETCO2はPaCO2より少し低く、ETCO2の基準値は35mmHgくらいです。(PaCO2の基準値は40mmHg)
ETCO2の波形(カプノグラム)についても解説していきます。
カプノメータ
「カプノメータ」と呼ばれる機器を使用することでETCO2を簡単に非侵襲で測定できます。
カプノメータにはセンサーがあり、アンビューバッグや人工呼吸器回路に取り付けるだけで波形が表示されます。
この波形のことを「カプノグラム」と言います。
カプノグラムでは二酸化炭素は呼気で上昇し、吸気になると一気に下行します。
このカプノグラムを解析し、一番CO2の値が高くなる呼気終末の二酸化炭素分圧(ETCO2)を測定します。
呼気では二酸化炭素の量が多いので、呼気で波形が立ち上がります。
挿管時のETCO2
緊急の挿管する場面では挿管後に「ちゃんと気道を確保できたかな・・・」と不安になることもあるので、カプノグラムを見て「波形」を確認します。
「波形がある」ということは「換気ができてる」ことに繋がるので挿管後は一番に確認しましょう。
この時点で波形がなければカフ漏れ等の「リーク」や誤嚥等による「気道閉塞」が考えられます。
それぞれ原因による対処を行います。気道の異物が取れずVV ECMOを導入する経験もありました。
血液ガス測定をすれば、正しい血中の二酸化炭素分圧を知れますが、救急の場面で頻回に採血するのは現実的ではありません。
なので早くて簡単に測定できるカプノメータを用います。
人工呼吸器管理中のETCO2
ETCO2を測定すると、基本はPaCO2と同じ値になります。
人工呼吸器管理中は血液ガス測定を見ながら換気量を調節し酸塩基平衡(pH)をコントロールしなければなりません。
そこでETCO2をモニタリングしておくとPaCO2を把握でき、管理に役立ちます。
特にETCO2のトレンド(どのくらい変化しているか)がとても参考になります。
このようにETCO2は挿管や呼吸器管理の場面で役に立ちます。
しかし、これらは「健常人」の話です。
実際は呼吸不全によって「ETCO2とPaCO2の解離」ができ、数値が同じくらいにならないことがあります。
これは装置のせいではなく「病態」のせいなのです。
また、センサー結露などによる測定誤差や再呼吸など、波形解析できないと困る場面がよくあります。
逆に言えば、波形解析できればトラブル時の対応がわかってきます。
これから「ETCO2とPaCO2の解離」「波形解析」の2つをご紹介します。
ETCO2とPaCO2の解離(呼吸不全)
通常人ではETCO2とPaCO2は同じくらいになります。
誤嚥やショックで挿管時の肺は健康なことが多いので「ETCO2=PaCO2」と思って良いです。
もともと呼吸不全がある患者ではETCO2とPaCO2の値が違うことがあります。
呼吸不全は分類すると「肺胞低換気」「拡散障害」「換気血流比不均衡(シャント/死腔)」があります。
それぞれの呼吸不全がETCO2に与える影響を説明していきます。
肺胞低換気
肺胞低換気で換気量が減ると二酸化炭素が排出されないため、血中のCO2が増え、呼気中のCO2も増えます。
肺胞低換気では呼気と血中の二酸化炭素は増え(ETCO2↑PaCO2↑)、呼気と血中で差は生じません。(ETCO2=PaCO2)
拡散障害
二酸化炭素の拡散能は酸素の20倍もあります。なので、拡散障害では二酸化炭素は呼気中にしっかり排出されETCO2にあまり影響はありません。
拡散障害では呼気と血中の二酸化炭素は増えず、呼気と血中で差は生じません。(ETCO2=PaCO2)
シャント
シャントは換気がなく肺血流が存在する肺胞領域です。換気のある領域では正常にガス交換が行われるため、呼気のCO2は正常ですが 、ガス交換が行われた肺血流とガス交換が行われていない肺血流が混じるため血中のCO2が増えます。
シャントでは血中で二酸化炭素が増え(PaCO2↑)、呼気と血中で差が生じます。(ETCO2<PaCO2)
死腔
死腔は肺血流がなく換気された肺胞が存在する領域です。肺血流のある領域では正常にガス交換が行われるため、呼気と血中のCO2は正常ですが、ガス交換が行われた肺胞とガス交換が行われていない肺胞の呼気が混じるため呼気のCO2が減ります。
死腔では呼気で二酸化炭素が下がり(ETCO2↓)、呼気と血中で差が生じます。(ETCO2<PaCO2)
呼吸不全(換気血流比不均衡)によってETCO2は変化するため、PaCO2と差が生まれます。
正常なPaCO2を知りたい場合は血液ガス測定を行います。
カプノグラムを読みとる方法(波形解析)
まず第一にお話したい、よくあるカプノメータの測定誤差として「測定部の結露」があります。
カプノメータでは赤外光による目に見えない「光」を用いてETCO2を測定しています。
カプノメータの測定部が濡れていると光が屈折してしまうので、測定できないことが多いです。(数理が表示されない)
測定部を新しいものに変えたり、呼吸器管理中では測定部に結露が発生しない「人工鼻回路」を使用すると改善します。
自発呼吸が見られると呼気中にくぼみ(吸気)がでます。
鎮静が浅かったり、人工呼吸器の設定が合っていない、などが考えられます。
呼気のプラトーが見られない波形は、カフ漏れやチューブ抜去、呼吸器回路からのリークが考えられます。
原因による対処を行います。
波形が基線に戻らない場合は再呼吸が考えられます。
人工呼吸器の呼気時間などを調整します。
ETCO2が上昇した場合は換気量低下、肺血流増加、体温上昇、代謝量増加、などの病態が考えられます。
血液ガス測定を行います。
ETCO2が減少した場合は換気量増加、肺血流減少、体温低下、代謝量低下などの病態が考えられます。
血液ガス測定を行います。
波形がなだらかに上昇した場合は気道狭窄であり、痰の貯留や閉塞性肺疾患、気管チューブ不完全閉塞が考えられます。
もともとの病態によることも多いです。
波形がない(なくなった)場合は、まず測定部が回路に取り付けられているか確認します。大気の二酸化炭素分圧はほぼないので、回路から外れていると当然カプノメータの波形はありません。
回路にちゃんとついている状態で波形がなければ、気道閉塞や無換気、食道挿管などが考えられます。その場合は他のバイタルもすぐに低下するので素早く対処します。
測定方法による違い
測定にはメインストリーム方とサイドストリーム方があり、測定方法の違いでカプノグラムの波形も若干違います。
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