人工呼吸器は呼吸不全だけでなく、ショックバイタルや呼吸困難など生命を脅かす心肺蘇生時(CPR)時は人工呼吸を行います。
今回は人工呼吸器の設定方法についてご紹介したいと思います。
人工呼吸器設定のPoint!
・患者の「予測体重」から換気量を設定する
・換気量は最高気道内圧、PaCO2、ETCO2を見ながら調節する
・酸素化はSpO2を見ながらFIO2とPEEPを調節します。
・呼吸努力が強くならないよう患者状態(外から見た感じ)と呼吸器波形を見ながらトリガー、吸気時間などを設定する
人工呼吸器は侵襲的陽圧換気(IPPV:invasive positive pressure ventilation)とも呼ばれ、侵襲的な「挿管」を行い、NPPVより確実な換気量を維持することができます。
人工呼吸器は「換気」「酸素化」「呼吸仕事量軽減」の3つが主な目的です。
これらの目的に対して実際どのように呼吸器を設定するのか、根拠も踏まえてお話したいと思います。
人工呼吸器はバイタルの安定化を図ることが目的で適応は次のようになります。
人工呼吸器の適応
低換気 | PaCO2が60mmHg以上 (NPPVが無効) |
酸素化障害 | PaO2が60mmHg以下 SaO2が90%以下 (酸素療法・NPPVが無効) |
理学的所見等の異常 | 異常呼吸パターン 呼吸困難 呼吸回数35回/分以上 意識レベル低下 |
人工呼吸器と換気量
(分時)換気量は1回換気量と換気回数で表されます。
分時換気量[ml/分] = 1回換気量[ml/kg] × 換気回数[回/分]
人工呼吸器では1回換気量と換気回数を設定して、分時換気量を調節します。
1回換気量は6~8ml/kgで設定します。
体重1kgあたり6~8mlの1回換気量を設定するという意味です。
単純に患者の体重を用いるのではなく、患者の「身長」から計算する「予測体重」が用いられます。
男の予測体重[kg]
=50+0.91×(身長[cm]-152.4)
女の予測体重[kg]
=45.5+0.91×(身長[cm]-152.4)
太れば太るほど肺は大きくなるわけではないので、実測の体重を用いると過大な一回換気量になる可能性があるからです。
予測体重の考え方
VCVであれば計算した1回換気量を設定しますが、
PCVでは計算した1回換気量が得られるよう吸気圧を設定します。
最高気道内圧30cmH2O以上で人工呼吸器関連肺障害(VALI)を発生させるリスクがあります。
PEEPと最高気道内圧(プラトー圧)の差をドライビングプレッシャーと言います。ドライビングプレッシャーは15cmH2O以上でARDS患者の予後不良因子になるため、14cmH2O以下に設定します。
換気回数は通常12~18回/分で設定します。
ここで One Point!
解剖学的な死腔量(150ml)があるため、同じ分時換気量でも1回換気量と換気回数の違いで実際にガス交換が行われている分時換気量は変わってきます。
1回換気量400mlで換気回数18回/分の人
1回換気量600mlで換気回数12回/分の人
分時換気量は同じに見えますよね
400×18=7200ml
600×12=7200ml
ここに死腔量150mlを入れると次のようになります。
(400-150)×18=4500ml
(600-150)×12=5400ml
このようにガス交換関与する換気量に違いがあります。
同じ分時換気量でも1回換気量の多い方が実際にガス交換が行われている換気量が多いです。
「1回換気量」と「換気回数」の設定を説明しましたが、「分時換気量」を設定するASVモードもあります。
換気量の基本的な調節
血ガス測定のPaCO2やカプノメータのETCO2などの二酸化炭素(CO2)の量を見て換気量を調節します。
換気量が多いほど、排出される二酸化炭素の量が増えるため、血中の二酸化炭素(PaCO2)は減少します。
換気量↑ PaCO2↓
換気量↓ PaCO2↑
PaCO2の正常値:40mmHg
pHやHCO3-などの酸塩基平衡も見ながら調整します。
基本はETCO2=PaCO2となりますが、ETCO2の方がちょっと低くなります(ETCO2の正常値:35mmHg)。あと病態や機器トラブルによって差が生じることがあります。
不安な時は血液ガス分析でPaCO2を直接測定することが望ましいです。
他にも胸写(X線)や胸部CT、肺コンプライアンスを参考にします。
特殊な換気量調節
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)では一回換気量4~6ml/kgで管理し、PaCO2を敢えて上昇させる方法もあります。(肺保護換気)
COPD(慢性閉塞性肺疾患)では気道抵抗や酸塩基平衡の代償をみながら低い換気量で管理することがあります。
二酸化炭素は脳血管に作用します。高二酸化炭素血症では脳血管が拡張し脳血流量(CBF)が増加します。
人工呼吸器以外にもECCO2R(AV ECMO、VV ECMO)によって二酸化炭素を除去することがあります。
人工呼吸器と酸素化
酸素化はFIO2とPEEPで決定されます。
人工呼吸器ではFIO2とPEEPを設定して、酸素化を調節します。
吸入気酸素濃度(FIO2)を上げると肺胞気酸素分圧(PAO2)が増加し、結果として動脈血酸素分圧(PaO2)が上昇します。
PaO2
=PAO2-A-aDO2
={FIO2(大気圧-飽和水蒸気圧)-PaCO2/呼吸商}-A-aDO2
FIO2↑によりPaO2↑となり「拡散障害」に対する処置となります。
平均気道内圧(PEEPなど)を上げると虚脱した肺胞が再開通し、肺容量増加やシャント率減少で換気血流比不均衡が改善されます。VALIの予防(肺胞虚脱予防・肺サーファクタント損失予防)や呼吸仕事量の軽減にもつながります。
平均気道内圧
=(PIP-PEEP)/2×(TI/TCT)+PEEP
PEEP↑により平均気道内圧↑となり「換気血流比不均等」に対する処置となります。
PEEPとFIO2の設定はPEEP/FIO2テーブルが簡便でよく使用されています。
PEEP/FIO2 table
PEEPは圧を上げて容量が急激に上昇(コンプライアンス↓)する点(LIP)以上に設定する方法やstress indexを見て設定する方法など、血ガスやCTを見たりエコーを当ててみたり、PEEPの設定にはいろんな方法があります。
PEEPは肺胞を常に膨らませる(リクルートメント)ことが目的で、PEEPが最適でないと呼吸をするたびに肺胞がつぶれたり(虚脱)膨らんだりを繰り返し、ずり応力によって人工呼吸器関連肺障害(VALI)を起こします。最適なPEEPを決定づける方法が現時点でないですが、基本的にPEEPを上げれば上記の通り酸素化は改善します。
PEEPを上げて酸素化を改善させるAPRVモードと呼ばれるモードもあります。
酸素化についてお話しましたが、酸素化を意識しすぎるあまり、極端な低換気量に気づいていないことがあります。
肺胞低換気の状態だと、そもそもガスが取り込まれないため換気量だけでなく酸素化も悪くなるのでPEEPやFIO2の設定はもちろん、換気量が適切かを見落とさないようにしましょう。
まずは換気を確立させて「肺胞低換気」を除外しましょう。
酸素化の基本的な調節
SaO2(SpO2)やPaO2などの酸素(O2)の量を見てFIO2とPEEPを調節します。
FIO2やPEEPが高いほど、血中の酸素(PaO2)は増加します。
FIO2↑PEEP↑ SaO2・PaO2↑
FIO2↓PEEP↓ SaO2・PaO2↓
SaO2の正常値:95~98%
PaO2の正常値:80~100mmHg
人工呼吸器管理中のSaO2は95%くらいに調節します。
酸素解離曲線よりSaO2が95%だとPaO2は80mmHgくらいになりますが、SaO2が100%だとPaO2は100mmHgから500mmHgと極端に高くなることもあり酸素中毒になります。
酸素濃度が高いと肺障害や活性酸素(フリーラジカル)によって体内では細胞死をもたらします。
逆に酸素濃度が低いと虚血で臓器障害になります。
酸素は高すぎても、低すぎてもいけません。
SaO2やPaO2は酸素解離曲線の関係にありますが、病態や機器トラブルによって差が生じることがあります。
不安な時は血液ガス分析でPaO2を直接測定することが望ましいです。
他にもA-aDO2やP/F比、胸写(X線)、胸部CTで酸素化を参考にします。
特殊な酸素化調節
慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの高二酸化炭素血症でCO2ナルコーシスのリスクがある患者は低いSpO2(88~92%)が望ましいです。
一酸化炭素中毒、クラスター頭痛、鎌状赤血球症、気胸は高いSpO2(100%)が望ましいです。
人工呼吸器と呼吸仕事量
呼吸仕事量(吸気努力)が大きいと過大な経肺圧がかかり肺の過膨張や肺水腫などの人工呼吸器関連肺障害(VALI)になります。
また、呼吸筋疲労や横隔膜筋障害、左心負荷増大などで人工呼吸器の離脱困難になることがあります。
結果として鎮静薬を増量せざるを得ない場面もあるため、過大な吸気努力は有害です。
逆に、吸気努力が極端に小さくても肺胞虚脱や換気血流比不均衡、廃用性萎縮(VIDD)などのリスクがあります。
とにかく呼吸仕事量(吸気努力)が大きいと有害なことばかりなので、呼吸仕事量を改善することが大事になってきます。
呼吸仕事量の評価(同調性)
努力的に呼吸筋が使われていないか実際に触ってみたり(触診)、視診や聴診で確認します。
こういった理学所見も同調性に関しては大事です。
あとは鎮静・鎮痛が適正であるかも同調性に関与してきます。
人工呼吸器においては呼吸仕事量を評価するうえで「同調性」が大事になってきます。
患者が吸いやすい、吐きやすい人工呼吸器設定をすることで同調性が高くなります。
人工呼吸器との同調性がなければ(非同調)呼吸器波形が乱れ、患者も苦しそうに呼吸をします。
人工呼吸器では主に「トリガー」「立ち上がり時間」「吸気時間(呼気トリガ―)」を調節し、同調性を改善させます。
<人工呼吸器と患者の非同調>
ミストリガー、オートトリガーなど
→トリガーの設定
どうも吸気フローが患者の要求より早すぎる・遅すぎる
→立ち上がり時間(rise time)の設定
どうも呼気のタイミングが早すぎる・遅すぎる
→吸気時間(呼気トリガ―)の設定
※PEEPを上げると吸気が吸いやすくなることがあります。
一般的な同調性を上げる方法をご紹介しましたが、
他にも同調性にこだわった方法、呼吸器モードがあります。
順番に紹介していきます。
食道内圧
胸腔内圧を測定することで患者由来の呼吸仕事量を評価することができますが、実際の胸腔内圧を測定することはできません。
食道内圧と胸腔内圧の変化は一致していることから、「食道内圧」を使って疑似的に胸腔内圧を測定する方法があります。
食道内圧下部にバルーンカテーテルを留置します。
食道内圧を利用してPmus(患者の吸気筋によって作り出される圧)を計算します。
Pmusの正常値は5~10cmH2Oです。
他にもWOB計算やPTP(pressure time product)などで評価する方法があります。
食道内圧はバルーンによる一部の測定であるため、肺全体を反映しているかははっきりしていません。
なので背中側は重力分胸腔内圧が高く、設定したPEEPでは肺胞が虚脱してしまう可能性があります。
食道内圧が搭載されている人工呼吸器は「AVEA」「HAMILTONC6」などです。
P0.1
吸気開始から0.1秒間の間気道閉塞し、PEEPから低下した気道内圧を胸腔内圧として計算する方法です。
4呼吸の平均で0.5cmH2O以下だと離脱(ウィニング)に失敗しやすいと言われています。
P0.1は人工呼吸器で設定することができます。
P0.1が搭載されている人工呼吸器は「Bennett」「Servo」「HAMILTON」「Evita」などです。
PAV+
VCV/PCVよりPSVは比較的に同調性を得られやすいですが、それでも非同調が起凝ることがあります。
PAV+は、患者の圧と流量、コンプライアンス、気道抵抗を連続的にモニタリングし、患者への吸気にフィードバックすることで、患者の自発呼吸の変化に同調します。
吸気の立ち上がりから吸気時間の終了が改善され、PSVより高い同調性が期待できます。
PAV+が搭載されている人工呼吸器は「Bennett」などです。
横隔膜活動電位(Edi)
呼吸中枢から発生した横隔膜活動電位(Edi)は横隔神経を通り、横隔膜を収縮します(自発)。
横隔膜活動電位(Edi)は食道内圧と相関しており、患者に同調したサポート換気ができます。
現在では横隔膜活動電位(Edi)を利用した「NAVA」モードがあります。
神経調節補助換気(NAVA : neurally adjusted ventilatory assist)モードは横隔膜活動電位(Edi)に同期して吸気と呼気のタイミング、吸気圧、換気量を0.016 秒毎に測定し制御しています。
プレッシャーサポート(PSV)より同調性が高いと言われています。
横隔膜の活動電位を測定するために、専用のEdiカテーテルを挿入し胃に留置します。
横隔膜神経障害のある患者には注意して使用します。
横隔膜活動電位(Edi)が搭載されている人工呼吸器は「Servo」です。
最後に
人工呼吸器は呼吸の代行であり原疾患を治すわけではありません。人工呼吸器管理中に原疾患に対する治療を行います。
参考書によく記載されている人工呼吸器導入時の初期設定を記載しておきます。
<初期設定>
A/C or SIMV
(PCV or VCV)
換気回数 12~18回/分
一回換気量(VT) 6~8ml/kg
FIO2 1.0
PEEP 5cmH2O
吸気時間 1~1.5秒
トリガー フロー 2~3l/min
圧 -1~-2cmH2O
導入初期は確実に換気ができる強制換気モードが好ましいです。 FIO2は1.0(100%)から始め早めの酸素化を図る、その後は高酸素血症を避けるために0.6以下へと下げていく。
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参考にした資料
[参考書]人工呼吸ケアのすべてがわかる本(2014)
[雑誌]人工呼吸器(INTENSIVIST,2018)