ECMOとは
心不全や呼吸不全の患者を対象に体外循環によって血液の酸素化・二酸化炭素の除去を行い、動脈あるいは静脈に送血することで循環と呼吸の補助を行う心肺補助装置の事です。
ここではVV ECMO施行中に体の中で起こっている生理学についてご紹介します。
VV ECMOの Point!
・VV ECMOは静脈から脱血と送血を行います
・人工肺を使って血液の酸素化と二酸化炭素除去を行う
・SpO2が80%台になることがあるが、心機能とHbが高ければ理論上問題なし
・遠心ポンプの流量が高いほど再循環(リサーキュレーション)が増える
血管アクセス
ECMOは脱血と送血を行うためにカニュレーションをします。
右内頸静脈と右大腿静脈を選択するのが一般的です。
他にもカニュレーションするのに使用される部位は
大腿静脈、右内頸静脈、伏在静脈、内頸静脈単独(AVALON)などです。
人工肺(呼吸の補助)
VV ECMOの一番の目的は人工呼吸器関連肺障害(VILI)を防ぐために自己肺を休ませることです。
これを「レストラング」と言います。
通常は送血側PO2を100~300mmHgに上げ、送血側PaCO2を40mmHgまで下げるよう人工肺でのガス流量と酸素の濃度を調整します。
人工呼吸器の設定はFIO2を30%以下、吸気プラトー圧は25mmHg以下、呼吸数↓、PEEPは5~15mmHgで虚脱予防します。自己の肺をあまり使わないようにします。
VV ECMOではSpO2が90%を基本下回りますが、心不全や貧血ではない限り、問題ないです。下に解説していきます。
一分間に末梢組織全体に運搬される酸素の総量を酸素運搬量(DO2[ml/min])と言います。
VV ECMOでは静脈血の100%がECMOで酸素化されるわけではありません。
肺へ送られる血液のうち、ECMOを通る血液とECMOを通らない血液、両方が存在します。
混合して肺に送られる酸素運搬量をDO2
ECMOを通った酸素運搬量をDO2
ECMOを通らない酸素運搬量をDO2
DO2 = DO2 + DO2
ここでHbは一定でPaO2は0.0031をかけるので無視して考えると
Flow × SO2 = Flow × SO2 + Flow ×SO2 となる。
仮に、
静脈血の酸素飽和度60%、流量2l/min
ECMOの酸素飽和度100%、流量2l/min
とするとFlowは4l/minになるため、 SO2 = 80% となる。
人工呼吸器はレストラング設定になっているため、自己肺で酸素化はされないことを考慮すると、理論上SO2 = 80%がそのまま動脈血の酸素飽和度となります。
SaO2が80%になるのはここで分かりましたが、心不全や貧血を除いて、この値がなぜ問題ない値なのかを解説します。
正常な患者の酸素消費量(VO2[ml/min])は代謝によって調整されますが、敗血症などの病態がない限り、成人で約200ml/min(3~5ml/kg/min)ほどです。
次に、正常な患者の酸素運搬量(DO2[ml/min])を見てみると
Flow=5[l/min](心拍出量)
Hb=15[g/dl]
SaO2=100[%]
PaO2は無視すると
DO2 = 5 × ( 1.36 × 15 × 1.0 ) × 10
DO2 ≒ 1000 [ml/min]
このように酸素消費量200ml/minに対して
酸素運搬量1000ml/minと
正常であればDO2はVO2の4~5倍ほどあります。
正常な人のSvO2が75%なのも想像がつきます。
許容値としてDO2がVO2の2倍以下で嫌気性代謝になると言われています。(上でいうDO2400ml/min)
DO2はSaO2の他にも心拍出量(CO)やヘモグロビン濃度(Hb)の値によって決まることが式からわかります。
下の早見表を見ると心拍出量5l/min、SaO280%のHbが8 g/dl以上あれば嫌気性代謝が起こらない。と考えると
SaO2だけでなく心機能やHbも随時評価する必要があります。
また、嫌気性代謝が起こると乳酸値も上昇するため毎日のチェックは欠かすことができません。
結論、SaO2が80%でも心不全や貧血がない限り、問題ありません。
リサーキュレーション
ECMOの遠心ポンプ流量 VV ECMOでは脱血と送血が同じ静脈で行われるため送血した血液の一部は再び脱血されリサーキュレーションが生じます。
遠心ポンプ流量が高すぎるとリサーキュレーションも多くなり、無駄に血液が回路内を回るため、効率が悪くなってしまいます。
ECMO酸素化能=ECMO流量×1.36×Hb×(送血側酸素飽和度-脱血側酸素飽和度)×10
リサーキュレーションに関わる因子はECMO流量、カニューラの留置部位、自己心拍出量、右房の血液量があげられます。
ECMO流量を上げてリサーキュレーションを増加させても自己肺に流れる血液の酸素飽和度は80~95%以上にはならないため、脱血不良や溶血予防のためにも適正な流量を設定する必要があります。
ガス交換が不十分な時はリサーキュレーションを敢えて増加させて高二酸化炭素血症を回避させることもあります。通常はガスの流量を上げます。
心機能VV ECMO時は動脈に送血しないため、自己の心機能のみで体循環を行います。
右房で酸素化した血液が自己心のよって拍出されるため、VA ECMOの比べて冠動脈への酸素供給が優れています。
また、動脈送血による後負荷増大もないため、心臓にやさしいと言われています。
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参考にした資料
[参考書]ECMO・PCPSバイブル(各学会,2021)
[参考書]呼吸ECMOマニュアル(2014)
[雑誌]ECMO(INTENSIVIST,2013)
[指針]ELSOガイドラインHP(各学会)
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