人工呼吸器管理中の鎮痛・鎮静・筋弛緩についてお話します。
そもそも鎮静とは緩和であり、眠らせることが目的ではありません。
鎮静
×眠らせる
○和らげる 安定させる
気管挿管や気管切開中は挿入部に疼痛や興奮、不穏状態になります。
鎮静によって安静が保たれないとラインや気管チューブを抜去したり、人工呼吸器がうまく作動しなかったりと、ICUではとても「危険」です。
鎮静することは
1患者の快適性・安全の確保
2酸素消費量と基礎代謝量の減少
3換気の改善と圧外傷の減少
が具体的な目的になります。
ですが、鎮静薬にもそれなりにリスクがあるため、できるだけ使用せずに人工呼吸管理するのが望ましいです。
鎮静薬は多すぎても、少なすぎてもいけません。
鎮静薬の主なリスクは
・交感神経↓血圧↓
・換気量・呼吸数↓
など
また、鎮静が深すぎると
動かないため深部静脈血栓症や肺梗塞、褥瘡、
意識障害や中枢神経疾患が合併、
人工呼吸器関連肺炎(VAP)や感染症
などが起こります。
対して鎮静が浅すぎると
不安、ストレス、興奮、せん妄
などが起こります。
鎮静薬を必要以上使用しないためにも、苦痛を取り除いたり、筆談によるコミュニケーションをとったりと当院でも工夫しています。
鎮痛薬とは
患者の痛みを和らげる薬です。
鎮静薬のみでは快適さが得られない時に併用することが多いです。
ICUでは「麻薬」や「(非麻薬性)鎮痛薬」などの全身投与の鎮痛が主に使われます。
他にも患者が自ら投与量調整を行う「患者制御鎮痛法(PCA : patient controlled analgesia)や術中の硬膜外麻酔を術後も継続使用する「持続硬膜外鎮痛法」という局所的な鎮痛もあります。
(非麻薬性)鎮痛薬は麻薬の拮抗作用があるため、麻薬投与が行いにくくなることなどの理由であまり使用されていません。ブプレノルフィン(レペタン)、ペンタゾシン(ペンタジン)、ブトルファノール(スタドール)などがあります。
ここではよく使われている麻薬について解説します。
麻薬
麻薬は
・呼吸抑制
・低血圧
・意識レベル低下(多幸感・鎮静効果もある)
・胃や消化管機能抑制
などの副作用があります。
麻薬の拮抗薬に「ナロキソン」がありますが、使用はあまり推奨されていないです。
フェンタニル
速効性で効果が表れるのが早い
作用時間が短いため持続で静注
(1~2 μg/kg/hr)
鎮痛効果はモルヒネの50~100倍くらい
循環動態への影響が低い
パッチ型もある
モルヒネ
術後は筋注、人工呼吸中の鎮静効果も期待するなら静注
(筋注・静注 5~10 mg)
作用時間は4~5時間のため間歇投与が好ましい
血管拡張作用があり低血圧になりやすい
腎障害時は代謝産物が蓄積しやすい
NSAIDsと鎮痛薬
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs : non-steroidal anti-inflammatory drugs)は、他の鎮痛薬の使用量を減少させる利点があります。
血圧低下や腎障害、消化管出血、など重大な副作用もあるため、注意して使用します。
ジクロフェナク(ボルタレン)やアスピリンなどがあります。
デクスメデトミジン(プレセデックスR)
デクスメデトミジンは鎮痛作用もある鎮静薬です。
モルヒネと併用して使うことで、モルヒネの使用量を削減します。
鎮痛の評価
コミュニケーションが取れる場合は視覚アナログ尺度(VAS : visual analogue scale)や数値評価スケール(NRS : numeric rating scale)を用います。
・VASは痛みなし~強い痛みまでを10cmの水平線の両端に書き患者が指し示す方法
・NRSは痛みなし0~強い痛み10の数字のうちどの数に値するか指し示す方法
になります。
コミュニケーションが取れない場合はBPS(behavioral pain scale)が推奨されています。
BPS
鎮静薬
鎮静薬は基本として静脈内に投与します。
経腸栄養から内服の併用も可能です。
ミダゾラム(ドルミカム)
速効性で効果が表れるのが早い
作用時間が短いため持続で静注
(0.03~0.18 mg/kg/hr)
導入時はボーラス投与
(0.03~0.06 mg/kg)
ベンゾジアゼピン系薬であり、健忘効果が期待できる
ボーラス投与で安定した鎮静レベルが得られる
鎮静効果をみて適宜増減する
長時間(72時間以上)使用は覚醒が遷延することがあるため、使用はできるだけ短時間にとどめる
ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)
作用時間が長いため間歇静注
(2~10 mg)
呼吸抑制は比較的少ない
ベンゾジアゼピン系薬であり、健忘効果が期待できる
末梢静脈投与だと疼痛や血管炎を起こす
鎮静作用以外にも抗不安作用や抗痙攣作用が目的で使用する
※ミダゾラムとジアゼパムはフルマゼニル(アネキセート)で拮抗可能だが、半減期50分であるため再度鎮静効果が表れることがあります。また、この用途で使うと離脱症状や心筋虚血を生じることがある。
プロポフォール(プロポフォール、ディプリバン)
速効性で効果が表れるのが早い
作用時間が短いため持続で静注
(0.3~3.0 mg/kg/hr)
健忘効果が期待できる
脂肪に移行(脂肪製剤)するため長時間使用すると半減期は300~700分と延長するが覚醒が遅延することはあまりない
二日以上使用するときは血中脂質レベル(トリグリセリド)が上がることがあるので測定するのが望ましい
脂肪製剤なのでラインから感染するリスクがあり12時間ごとに交換が必要
副作用として低血圧、呼吸抑制があるが、肝・腎機能の低下した症例に対しても比較的安全な薬剤、ミダゾラムよりプロポフォールの方が調整しやすいと言われている
ミダゾラムと併用することも多い。
ハロペリドール(セレネース)
作用時間が長いため間歇静注
(1~10mg)
ブチロフェノン系抗精神病薬
傾向と注射薬がある作用は2~5分半減期2時間、
不穏時によく使用される
せん妄の治療薬としては保険適応されていない
筋硬直やQT延長などの副作用が見られる
呼吸抑制や循環動態の影響は少ない
ハロペリドール単体では鎮静作用が弱いため
他の鎮静薬と併用することが多い
デクスメデトミジン(プレセデックス)
10分かけて初回投与
(6 μg/kg/hr)
作用時間が短いため持続で静注
(0.2~0.7 μg/kg/hr)
鎮痛作用もある
抗不安作用もあり鎮痛薬の削減が期待できる
呼吸抑制はほとんどないが、血圧低下、徐脈、負荷投与時の血圧上昇など循環系の副作用が多い
深い鎮静レベルの維持が一般に困難なため、他の鎮痛薬との併用したり、他の鎮静薬に切り替えることもある
実際に添付文書でも24時間以内の使用に限られているため、短期間で使用する
他の鎮静薬よりせん妄が起きにくい。
鎮静薬は他にもバルビツレート、ケタミン、吸入麻酔薬などが使用されることがあります。
鎮静の評価
RASSによるスコア評価が望ましいと言われています。
RASS
まず30秒間の観察する(スコア0~+4)
次に呼びかけをする(スコア-1~-3)
最後に身体刺激(スコア-4~-5)
RASS評価は1~数時間ごとに行うのが望ましく、そのタイミングで投与量を変更します。
人工呼吸器管理中は「せん妄」がしばしば見られ、予後不良の要因になります。
RASSを評価した後は不穏スケールで「せん妄」の評価をします。
RASS-4、-5だとせん妄の評価ができないため、せん妄評価時RASS-3~+4を維持させます。
ICUのためのせん妄評価(CAM-ICU : confusion assessment method for the ICU)が用いられます。
CAM-ICU
BISモニターを用いて鎮静を評価することがあります。筋弛緩中は特にBISの使用が望ましいです。
一日に一回は鎮静薬を落とし、意識レベル(GCSやJCS)を確認します。
筋弛緩薬
筋弛緩薬は遷延性の筋力低下が見られ、人工呼吸中はできるだけ筋弛緩は使用しないのが望ましい。
体動で呼吸・循環動態が悪化する時や、肺保護換気・HFOVなど特殊な呼吸器設定をする場合は鎮静薬と併用したうえで最小限の量を使用します。
筋弛緩使用時は筋弛緩モニター(TOF : train of four)を使用するのが望ましいです。
筋弛緩モニターで筋攣縮が1~2個確認できる程度がよいです。
ベクロニウム(マスキュラックス)
初回投与
(0.08~0.10 mg/kg)
作用時間が短いため持続で静注
(0.05~0.08 mg/kg/hr)
間歇投与することもある
60~90秒以内に効果が表れる
パンクロニウム(ミオブロック)
0.06~0.10 mg/kg静注で4分以内に効果が表れる
間歇投与することがあれば持続投与することもある
間歇投与は1~2時間ごと
(0.02~0.03 mg/kg)
持続投与
(0.02~0.03 mg/kg/hr)
一日一回は投与を中止して麻痺や痺れを確認し、過剰投与を防ぐことが推奨されている
パンクロニウムは迷走神経遮断による頻脈・血圧上昇がみられる。
オススメ関連記事
人工呼吸器 はこちら
BISモニター はこちら
筋弛緩モニター はこちら
その他の記事 はこちら(HP)
参考にした資料