薬剤・輸液 集中治療室(ICU)

やさしく「輸血製剤」をまなぶ

投稿日:1月 17, 2021 更新日:

ICUや病棟ではあたりまえのように輸血を行っていることと思います。

輸血は分画製剤もあって意外と種類が多いのです。

それぞれの特徴を知ると輸血選択がとても有意義になります。

また、輸血にはアナフィラキシーショックや電解質異常などの「副作用」も強いので、そちらの注意事項もお話します。

今回はそんな「輸血」についてご紹介します。

輸血の Point!
・よく使われるの製剤は「赤血球」「血漿」「血小板」「血漿分画製剤」の4つ!
・足りない物質を「補充」するのが治療の基本
・遺伝子組み換え(血漿分画製剤)は他の製剤より副作用が少ない





輸血の種類から知る

輸血は、血液成分を人から人へと投与する「臓器移植」です。

輸血は出血や病気で血液成分が失われた患者に血液を補充するのが目的で、根治治療ではありません。

血液製剤には

・人全血液
・赤血球液(赤血球)
・濃厚血小板(血小板)
・新鮮凍結血漿(血漿)
・血漿分画製剤
 -アルブミン製剤
 -免疫グロブリン製剤
 -凝固因子製剤
 -ハプトグロビン製剤

これらの種類があります。

順に説明していきます。

全血

昔は採血された血液をそのまま輸血する全血製剤がありましたが、今は「赤血球」「血小板」「血漿」と分け、必要な部分だけ輸血する「成分献血」が主流になっています。

全血は今ほぼ使われていません。

[保存] 2~6℃で保存し、使用期限は採血後21日以内です。

[投与速度] 最初の10分は1ml/min、その後は5ml/minで投与します。

赤血球製剤(RBC)

赤血球製剤(RBC : red blood cells)は全血製剤から遠心分離で「赤血球」を抽出して作られます。

昔はRCC (red cells concentrate) と呼ばれていました。

赤血球液、洗浄赤血球液、照射赤血球液などの種類があります。

赤血球の中にあるヘモグロビンは酸素とくっついて全身に酸素を運ぶ役割があります。循環動態に大きく関わってきます。

出血や赤血球が低下する疾患(貧血)の補充目的で赤血球輸血をします。

Hb値7g/dl以下で赤血球輸血することが多く、病態によって調整します。

ECMO心外の周術期ではHb値が高くても安定した循環動態を維持するために輸血することが多いです。

[保存] 2~6℃で保存し、使用期限は採血後21日以内です。

[投与速度] 最初の10分は1ml/min、その後は5ml/minで投与します。

血小板製剤(PC)

血小板製剤(PC : platelet concentrate)は昔は全血採血から作られていましたが、全血の白血球除去の導入によって血小板も除去されてしまうため、現在はアフェレシスによる成分採血によって「血小板」を抽出して作られます。

濃厚血小板、照射濃厚血小板などの種類があります。

血小板の目的は止血です。

血小板が減少する疾患や出血傾向のある時に使用します。

血小板数1万~5万/μl以下で血小板輸血することが多く、病態によって調整します。

[保存] 20~24℃で保存し、使用期限は採血後振とうしながら4日以内です。

[投与速度] 最初の10分は1ml/min、その後は5ml/minで投与します。

新鮮凍結血漿(FFP)

新鮮凍結血漿(FFP : fresh frozen plasma)は全血採血から遠心分離などで「血漿」抽出して作られます。

アフェレシスによる成分採血でも作られています。

凝固因子を製剤内で活性化しないよう保存時は凍結(-20℃)します。

新鮮凍結血漿は主に凝固因子の補充目的で使用します。

大量出血や肝障害血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)などの疾患や血漿交換(PE)や心外周術期の予防投与でも使用されることが多いです。

FFPの投与は病態も含めて理論的に

・プロトロンビン時間(PT)
・活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)
・フィブリノゲン(FBG)濃度

を検査して判断するのが一般的ですが、実際にトリガー値と呼べるものがありません。

予防的に投与したり、凝固系検査の経過(トレンド)を見ながら投与を判断します。

[保存] -20℃以下で保存し、使用期限は採血後1年以内です。

使用時は解凍し、解凍後「3時間以内」に使用すると言われてきましたが、近年は解凍後「24時間以内」で使用が可能になりました。

[投与速度] 最初の10分は1ml/min、その後は5ml/minで投与します。

アルブミン製剤

アルブミンは膠質浸透圧を上げて血管内の水分を保持するタンパク質です。

アルブミン1gで水分20ml保持する力があると言われています。

一般的には熱傷や浮腫などの治療で使用されます。

他にも肝硬変敗血症、心外の周術期、血漿交換(PE)の置換液として使用されます。

低アルブミン血症が直接有害になることはあまりないため、血中アルブミン(Alb)値だけをモニターしながらの投与は基本的に推奨されていません。

アルブミンは「輸血」として用いられますが、アルブミンの代わりとして低分子デキストラン製剤やHES製剤などの代用血漿剤と呼ばれるものがあります。こちらは「輸液」として扱われます。

免疫グロブリン製剤

免疫グロブリン製剤にはγグロブリン、抗HBs、抗Dなどがあります。

筋注するもの、静注するものがあります。

感染症や自己免疫疾患で使用します。

疾患別に投与する免疫グロブリン製剤の種類と投与量が決められています。

凝固因子製剤

凝固因子製剤は

フィブリノゲン、トロンビン
アンチトロンビン(ATIII)、トロンボモジュリン(TM)、プロテインC
凝固因子(VIII、IX、XIII)

などがあります。

クリオ製剤(クリオプレシピテート)と呼ばれる第VIII因子を濃縮した製剤もあります。現在はそれぞれ必要な因子を濃縮した製材(上記の製剤、血友病製剤、など)があるので、クリオ製剤はあまり使用されていないそうです。

手術時の創部に使われる組織接着剤(フィブリン糊)も血漿分画製剤になります。

これらは出血傾向の抑制に使用します。

血友病DICなど疾患によって使い分けます。

ハプトグロビン製剤

熱傷や輸血、心外手術などの溶血反応を伴うヘモグロビン血症or尿などで使用します。





血液製剤の副作用(GVHD、アナフィラキシーショック)

輸血は「移植」治療であり重篤な副作用が起こることがあります。

輸血時は副作用に注意して観察します。

赤血球や血小板では移植片対宿主病(GVHD)が代表的で、血漿ではアナフィラキシーショックが代表的です。

発生の頻度は0.1%未満と言われていますが、この数値を低いとみるか多いとみるかは人それぞれ、。。。

血漿に比べると血漿分画製剤は副作用の確率は低く1/1000倍と言われています。それでも「0」ではないです。

移植片対宿主病(GVHD)

血球製剤はリンパ球の影響で移植片対宿主病(GVHD)になる恐れがあります。

輸血後から1~2週間で発熱や紅斑が見られ、続いて肝障害や下痢、下血、汎血球減少(骨髄無形性)、易感染で敗血症が起こり、重症化すれば3~4週間で死亡する確率が高いです。

現在のところ免疫抑制剤やステロイドなどで治療します。

全身状態が悪くなり、呼吸困難や見られれば挿管、多臓器不全になれば臓器不戦それぞれに対応する治療を行います。

GVHDは回復の見込みが低く、治療より「予防」することが大事と考えられています。

予防策として自己血輸血による同種血輸血回避や輸血製剤の放射線照射があげられます。(下で解説)

照射した血液製剤は高カリウム血症になりやすいので注意します。

アナフィラキシーショック

輸血後に「血圧低下」が見られます。その際はアナフィラキシーを疑います。

対応としてはアドレナリンやステロイド、抗ヒスタミン、気管支拡張薬を投与し、輸液酸素も投与します。





血液製剤の副作用(TACOとTRALI)

輸血で稀に輸血関連循環過負荷(TACO)や輸血関連急性肺障害(TRALI)になることがあります。

輸血関連循環過負荷(TACO)は急速輸血による循環過負荷で心不全、肺水腫になります。症状としては輸血から6時間以内にチアノーゼ、頻脈血圧上昇が起こります。心不全と同じ処置をします。

輸血関連急性肺障害(TRALI)は原因不明の呼吸不全、肺水腫になります。症状としては輸血から6時間以内に呼吸困難が起こります。他にも、低酸素血症、頻脈、発熱、血圧低下が起こります。輸血中であれば輸血を中止します。挿管して人工呼吸器をつけることもあります。





血液製剤による電解質異常

血液製剤投与後はしばしば電解質異常がみられます。

血液製剤の保存に使用されるCPD液(全血献血)やACD-A液(成分献血)には「クエン酸」が含まれています。

このクエン酸の量で血液製剤内の電解質が変動します。

血液や血漿は他の血液製剤に比べて200mlや400mlと量が多くなるため、特に電解質異常が起きやすいです。

また、献血した人の電解質濃度によって製剤内の電解質濃度に影響があるため、輸血製剤の電解質濃度はどれも決まっている値はありません。

さらに、保存期間や添加物によって製剤内の電解質濃度は変化していきます。

輸血時に特に注目すべき電解質は「カリウム」「ナトリウム」「カルシウム」です。

高カリウム血症

赤血球製剤(RBC)で起きやすいです。

採血後は時間経過とともに製剤内のカリウムが上昇します。

また照射した赤血球はさらにカリウムが上昇しやすいです。

細胞内(赤血球内)はカリウム濃度が高く、細胞膜のNa-Kポンプの失調が原因と言われています。

製剤によってはカリウム濃度が20mEq/lになるものもあります。

高カリウム血症によるアシドーシスにも注意します。

高ナトリウム血症

新鮮凍結血漿(FFP)で起きやすいです。

クエン酸は3価の陽イオンなので3倍のナトリウムとくっつき、製剤内のナトリウム濃度が高くなります。

使用するクエン酸の量にもよりますが、FFPでは160~170mEq/lになります。

低カルシウム血症

血液製剤の保存液に使用されるクエン酸はカルシウムとくっつき(キレート結合)カルシウムを不活化させます。

輸血でカルシウム濃度が低下するため、必要に応じてカルシウム製剤で補充します。

またクエン酸は肝臓・腎臓・骨格筋で代謝されると重炭酸になります。

そのため、クエン酸の量が多くなると重炭酸の量も増えアルカローシスになることがあります。





輸血の副作用についてお話しましたが、他にも感染や臓器障害が起こることがあります。

輸血で副作用があれば、どの施設でも院内で報告するシステムがあるはずなので、準じて報告します。





同種血輸血と自己血輸血

他人から採血し、患者に輸血することを「同種血輸血」
患者本人から採血し、別日に輸血することを「自己血輸血」

と言います。

定例の術後とかじゃない限りICUで自己血輸血はあまり見ませんが、

自己血輸血は感染やGVHDのリスクが低いため、積極的な導入が推奨されています。





血液の製造工程

血液製剤を使う前に「どのように血液製剤ができるのか」を知ることはとても重要です。

血液製剤の製造工程には

全血採血から作る方法
成分採血から作る方法
遺伝子組み換えによって作る方法

これらの種類があります。

「全血採血」は全血を採取し、遠心分離によって種類別に血液製剤を分けることです。

成分採血」はアフェレシスという技術を使って採取時に必要な血液成分だけを採取することです。成分採血は血小板と血漿の採血で行われています。

採血した血液が凝固せず、安全に保存できるように

全血採血にはCPD (citrate-phosphate-dextrose) 液
成分採血にはACD-A (acid-citrate-dextrose) 液

などの保存液が使用されます。

使用時はこれら保存液内にある「クエン酸」の影響で副作用が現れることがあります。

全血を採取したらまず白血球を除去し、同種免疫反応を抑制します。

白血球除去の導入により血小板も除去されるため、今は成分採血のみによって血小板を採取しています。

「アルブミン(Alb)」「グロブリン」「凝固因子」「ハプトグロビン」これらを「血漿分画製剤」と言います。

血漿分画製剤は血漿をさらにタンパクの種類別に分けたものです。

感染リスクを減らし、「病態に合わせて必要なものだけを投与する」目的でつくられています。

国内から外国まで一定数の血漿を一つに集めて(プール血漿)そこからエタノールなどの添加物を加えて必要なたんぱく質を取り出します。

製造工程の中で加熱やフィルター処理で細菌、ウイルスが除去されるため、感染のリスクは他の血液製剤に比べて低いです。

このように人間の血漿から作られた血漿分画製剤がありますが、動物細胞や大腸菌などのDNAを利用し、目的の製剤を分泌させて作った血漿分画製剤を「遺伝子組み換え製剤(リコンビナント製剤)」と言います。

作る工程で人間の血漿を使わないため、感染のリスクが低いと言われています。
遺伝子組み換え製剤の中でも、作る工程で人間の血漿を使用しているものもあります。

これを「特定生物由来製品」と言われ、完全に人間の血漿を使用していない遺伝子組み換え製剤を「生物由来製品」を言います。

GVHD予防として、血液製剤に放射線を照射することがあります。

照射した血液製剤は「照射赤血球液」や「照射濃厚血小板」と書いてあります。

照射するとGVHDのリスクは下がりますが、カリウム濃度が上昇しやすいです。投与後は電解質濃度に注意してモニタリングします。





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輸液ポンプ はこちら

その他の記事  はこちら(HP)





参考にした資料

[雑誌]血液製剤の使用指針(医学のあゆみ,2018)

[雑誌]大改訂:血液製剤の使用指針(医学のあゆみ,2018)

[HP]医薬品情報(日本赤十字社)

-薬剤・輸液, 集中治療室(ICU)

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