重症例では多臓器不全の患者もいて、腎不全や肝不全で代謝機能が下がっていれば、投与する薬剤も調整する必要があります。
中でも腎不全の患者では透析による影響も把握して、薬物調整する必要があります。
今回はCHDF(持続的血液濾過透析)中の薬物投与をご紹介します。
CHDF中の薬物投与の Point!
・薬剤の代謝は「肝代謝型」「腎代謝型」に2つ
・肝臓と腎臓とCHDFの「代謝量」を計算する
・投与量は代謝量と同等にする
・肝代謝型薬剤の投与量は基本的に「減量しない」
・腎代謝型薬剤の投与量は基本的に「減量する」
CHDFを行うような腎不全患者には通常量の薬剤を投与すると血中濃度が極端に高くなる可能性があります。
なので、薬剤によって投与を『減量』する必要があります。
減量すべき薬剤か。減量するとしてもどの程度に減量すればよいのか。
CHDF施行中でも減量はすべきか
などなど
今回はそんなCHDF中の薬物投与の「考え方」をお伝えしようと思います。
代謝量を知って投与量を知る
まずは代謝について
薬剤の代謝には
・腎臓で尿中に排出される腎代謝型
・肝臓で分解される肝代謝型
・両方で代謝される中間型
があります。
腎不全患者で腎臓から代謝はされないと考えると、投与後の腎代謝型薬剤は血中に残ってしまいます。
この状態で薬剤の追加投与を行うと血中濃度が高くなり、さまざまな副作用が起こります。
副作用が起こらないように、まずは薬剤の「代謝される量」を知り、代謝量と同等量の薬剤を投与すればいいのです。
ガイドラインや各薬剤の添付文書では腎不全患者に対する投与量、CHDF施行中の投与量の目安が記載されています。
しかし、
CHDFの治療条件によって代謝量は変化
するため
投与量が代謝量に見合ってない
ことがあります。
なので、腎不全患者では薬剤の代謝量を計算する必要があります。
全身クリアランス
腎臓や肝臓などの代謝される総量を全身クリアランス(CLtot)といいます。
腎不全には無尿の患者もいれば、腎機能が残っている患者もいます。さらにCHDFを導入していれば全身クリアランスは変化します。
引用:クリアランス理論に基づく持続的腎代替療法(CRRT)施行時の薬物投与設計の考え方
Ae:尿中排泄率
CLtot:全身クリアランス[l/h]
Vd:容積分布[l/kg]
fu:タンパク非結合型分率
Sc:ふるい係数
※CHDF施行中の薬物は「Sc=fu」と考えてよい。(後述)
腎臓が正常な患者では肝臓と腎臓の代謝(クリアランス)が良好で、薬剤は通常量の投与が可能です。
腎機能低下例では残存腎機能(GFR)で腎クリアランスが変化します。腎機能低下例ではCHDFの有無で全体の代謝量が変化するため、CHDF施行時はCHDFのクリアランス量を加えて計算します。
無尿の腎不全例では腎臓で代謝が行われないため、肝クリアランスとCHDFのクリアランスのみとなります。
腎代謝型薬剤の例
バンコマイシンを例にすると
腎正常時のクリアランス(代謝量)
=(1-0.9)×6.31+0.9×6.31
=6.31 l/h (1倍)
腎機能障害時のクリアランス(代謝量)
※GFR=50ml/min、Qf=300ml/h、Qd=300ml/hだとすると
=(1-0.9)×6.31+0.9×(50/100)×6.31+0.66×(0.3+0.3)
=3.87 l/h (0.61倍)
腎不全時のクリアランス(代謝量)
※Qf=300ml/h、Qd=300ml/hだとすると
=(1-0.9)×6.31+0.66×(0.3+0.3)
=1.03 l/h (0.16倍)
バンコマイシンのクリアランス(代謝量)は通常は6.31 l/hですが、
腎機能低下時(GFR 50ml/min)は0.61倍(3.87 l/h)。
末期腎不全時は0.16倍(1.03 l/h)と代謝量が低下してしまいます。
それと同様にバンコマイシンの投与量も
腎正常患者では通常の投与量
腎機能低下患者(GFR 50ml/min)では0.61倍の投与量
腎不全患者では0.16倍の投与量
に減量しなければなりません。
肝代謝型薬剤の例
リドカインを例にすると
腎正常時のクリアランス(代謝量)
=(1-0.03)×57.0+0.03×57.0
=57.0 l/h (1倍)
腎機能障害時のクリアランス(代謝量)
※GFR=50ml/min、Qf=300ml/h、Qd=300ml/hだとすると
=(1-0.03)×57.0+0.03×(50/100)×57.0+0.30×(0.3+0.3)
=56.3 l/h (0.99倍)
腎不全時のクリアランス(代謝量)
※Qf=300ml/h、Qd=300ml/hだとすると
=(1-0.03)×57.0+0.30×(0.3+0.3)
=55.5 l/h (0.97倍)
リドカインのクリアランス(代謝量)は通常は57.0 l/hですが、
腎機能低下時(GFR 50ml/min)は0.99倍。
末期腎不全時は0.97倍と代謝量がほぼ低下しません。
なので基本は減量が不必要となります。
初回量はどれも一緒
バンコマイシンなど血中の「濃度」で管理する抗菌薬は腎不全患者であっても治療初期から薬効を発揮させるために通常の初回量で投与します。
分布容積や目標の血中濃度から投与量を設定します。
どうして「Sc=fu」になるのか
fuはタンパクと結合していない薬剤の割合です。
ScはCHDFの膜から濾過される割合です。
タンパクそのものが膜を通過することができないため、タンパクと結合している薬剤は濾過されません。
タンパクと結合していない薬剤は分子量が低い(ほとんどの薬剤は1500以下)ため、濾過されます。
なのでCHDF中の薬物投与設計では「Sc=fu」になります。
透析膜による吸着特性
上記は「拡散」と「濾過」の原理から透析液流量(Qd)と濾過液流量(Qf)を使った公式になります。
CHDFで使用する膜の種類によっては「吸着」特性があります。
吸着によるクリアランスを理論的に計算するのは困難なため、今回は無視しています。
また、PMMA膜とAN69ST膜では吸着特性が強いですが、その他の膜(PS膜など)は吸着特性がそんなに強くないので、無視できるレベルです。
血液透析(HD)の場合
24時間のCHDFでは治療液の流量に比べて血液流量が高いため
クリアランスは
Sc×(Qf+Qd)
という風に
CHDFは透析液流量(Qd)、濾過液流量(Qf)に依存します。
4時間程度の血液透析(HD)では血液流量に比べて治療液の流量が高いため
クリアランスは
Sc×(1-Hct)×Qb
という風に
HDは血液流量に依存します。
CHDFではなくHDでクリアランスを求めたい場合は上の式を使います。
肝不全に注意
肝代謝型薬物は減量の必要がないと話しましたが、肝不全例では肝臓による代謝機能が低下している可能性があるので、減量が必要になることがあります。
その際も腎機能の評価やCHDFの治療条件を踏まえた代謝量計算、投与設計をすることがあります。
最後に
腎不全でCHDF施行中の患者には薬物投与するときは
肝代謝型薬剤は減量しなくてOK
中間型薬剤は50%くらい?減量
腎代謝型薬剤は80%くらい?減量
がだいたいの目安になります。
今回はかなり簡単にお話しました。
実際は減量の方法としては、一回投与量を減少する、投与間隔を伸ばすなどパラメータを見ながら考慮したりと抗菌薬のTDM(therapeutic drug monitoring)でよく用いられます。
その場合はもっと細かい投与設計をたてることがあります。
その辺も記事にしたいですね。
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参考にした資料
[雑誌]CRRT(INTENSIVIST,2010)