ICUで毎日行われる血液検査では、よく凝固の項目があります。
DICなどの凝固障害がある患者や術後出血の患者、抗凝固モニタリングしている患者など
凝固検査をする必要があります。
われわれ臨床工学技士も体外循環が主な仕事なので、毎日が「凝固」との戦いです。
今回はそんな「血液凝固」についてご紹介したいと思います。
血液凝固の Point!
・凝固が行われれば凝固系がマイナスに、線溶系はプラスに、凝固時間はプラスに傾く
・急性期での凝固因子は減れば「補充」するのが治療の基本
・抗凝固剤は「凝固時間」で考える
凝固
凝固の一連の流れは
出血
↓
一次止血
↓
二次止血
↓
一次線溶
↓
二次線溶
↓
血管修復
となります。
出血が起こっても凝固のメカニズムがあれば血栓によって血管を修復して出血を止めることができます。
よく「カサブタ」で表現されますね。
しかし、出血が起こっていないのに血管内で過凝固が起きてしまう播種性血管内凝固症候群(DIC)や
凝固因子が作られなくなる肝不全など
凝固のメカニズムが崩れてしまう病気も多いです。
これらの凝固系疾患は抗凝固療法を行う時にも影響してくるので凝固のメカニズムは理解しておいた方が良いです。
一次止血
「血小板」による凝固です。
出血している血管壁に血小板がくっついて血栓を形成します。
その際、血管内皮に存在するフォン・ウィルブランド因子(VWF : von Willebrand Factor)が血小板をくっつけ、テープのような役割を果たします。
血小板(Plt)の正常値は15万~40万/μL
ICUでは毎日検査します。術後出血やDICなどの血小板減少症で血小板が減少します。
急性期では血小板が不足すれば「補充」するのが基本になります。
体内での血小板は産生に時間がかかるので、必要であれば早急に血小板を補充します。
血小板の補充には「血小板製剤」が使われます。
二次止血
「凝固因子」による止血です。
凝固因子は1~13番まであります(I~XIII)
血管内皮には12(XII)があり、血管内が傷つくと
12(XII)→11(XI)→9(IX)→8(VIII)→10(X)→5(V)→2(II)→1(I)と活性化していきます。
1(I)のフィブリンになったら血栓(安定化)となります。
この流れを「内因系凝固」と言います。
血管外の組織に3(III)因子があり、血管に穴が開くとこの3(III)が侵入し、7(VII)を活性化させます。
その後は10(X)→5(V)→2(II)→1(I)と活性化していきます。
1(I)のフィブリンになったら血栓(安定化)となります。
この流れを「外因系凝固」と言います。
3(III)をTF(tissue factor)と呼ぶこともあります。
外因系凝固の方が関与する凝固因子が少ないため、早いです。
4(IV)は「カルシウム」のことで、血管内・外に関わらずどこにでも存在します。
6(VI)はありません(欠番)
13(XIII)は1(I)のフィブリン安定化因子として知られています。
2(II)と1(I)に関してですが、それぞれ
2(II)=プロトロンビン
活性化2(II)=トロンビン
1(I)=フィブリノゲン
活性化1(I)=フィブリン
のことになるので、知っておいた方が良いです。
フィブリノゲン(FBG)の正常値は200~400mg/dL
ICUではよく検査されます。
術後や急性期では凝固因子が不足すれば「補充」するのが基本になります。
体内での凝固因子は産生に時間がかかるので、必要であれば早急に凝固因子を補充します。
凝固因子の補充に「新鮮凍結血漿(FFP)」や「血漿分画製剤」を使用することがあります。
※血液凝固因子の慣用名を載せておきます。臨床ではあまり使わない知識です。
血液凝固因子
I フィブリノゲン
II プロトロンビン
III 組織トロンボプラスチン
IV カルシウムイオン
V プロアクセレリン
VI (欠番)
VII プロコンベルチン
VIII 抗血友病因子
IX クリスマス因子
X スチュアート・プラウア因子
XI 血漿トロンボプラスチン前駆体
XII ハーゲンマン因子
XIII フィブリン安定化因子
一次線溶・二次線溶
線溶は厳密に言うと一次と二次がありますが、
似たようなものなので一次線溶と二次線溶は一緒に考えてしまった方がわかりやすいです。
線溶は主に「プラスミン」によって行われます。
プラスミンはプラスミノーゲンから作られます。
プラスミノーゲン→プラスミンになる過程で活性化・促進させる物質を「プラスミノーゲンアクチベータ(PA)」と言います。
組織型PA(t-PA)、ウロキナーゼ型PA(u-PA)、ストレプトキナーゼ(SK)などの種類があります。
一方、プラスミノーゲン→プラスミンになる過程で抑制的に働くのは「プラスミノーゲンアクチベータインヒビター(PAI)」と言います。
プラスミンによってフィブリン化した血栓を修復したら元の血管に戻ります。
その際に発生する分解産物(ごみのようなもの)をFDP(フィブリノゲン/フィブリン分解産物)、DD(Dダイマー)と言います。
FDP、DDは凝固の結果発生する物質なので、検査値で増加していれば「血管内で凝固が行われていた」という証になります。
FDPの正常値は5.0μg/mL以下
DDの正常値は1.0μg/mL以下
ICUではよく検査されます。
DICでは血管内で過凝固が行われるので、FDP/DDの値は増加します。
敗血症においてもDDは重症度の評価に用いられます。
DDやFDPは凝固状態を観察するための検査になります。
脳梗塞や心筋梗塞では血栓がつまる疾患に対し、血栓を溶解して再開通させる目的で「血栓溶解剤」を使用することがあります。
血栓溶解剤はウロキナーゼや組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)が代表的です。
凝固時間
上で説明した凝固が
「どの程度のスピードで行われているか」
を測定したものが凝固時間になります。
通常の状態から凝固が完了するまでの時間になります。
凝固時間は凝固因子の量や活性化の影響で変動します。また、下に解説する抗凝固因子の影響も受けます。
凝固時間が長いということは、血栓ができるまでの時間が長いので「出血傾向」に傾いています。
逆に、凝固時間が短いと、血栓ができるまでの時間が短いので「血栓傾向」に傾いています。
内因系凝固の凝固時間を「活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)」
外因系凝固の凝固時間を「プロトロンビン時間(PT)」
と言います。
PTには通常のPT(秒)もあれば、PT%、PT比、PT-INRなどの測定項目があります。よく使用されるのはPT-INRです。
PTが延長する疾患は播種性血管内凝固症候群(DIC)や急性肝不全(慢性肝不全も)、ビタミンK欠乏症、ワルファリン内服患者で、APTTが延長する疾患は血友病やDIC、フォン・ヴィルブランド病、慢性肝不全が代表的です。
全血を使って一次止血(血小板)と二次止血(凝固因子)もまとめて測定した凝固時間を「活性化全血凝固時間(ACT)」と言います。
ベッドサイドで早く測定ができるため、急性期の抗凝固療法で参考にすることが多いです。
ACTの測定には活性化剤にカオリンやセライト、ガラス、シリカが使われるので、凝固の作用する場所が変わってきます。
なので抗凝固剤によってはモニタリングに使えないACT、使えるACTが存在するので使用している活性化剤をよく確認した方が良いです。
次に正常値ですが、
APTTの正常値は24~39秒
PT-INRの正常値は0.85~1.15
ACTの正常値は100秒くらい
ICUではよく検査されます。
これら凝固時間は病態の診断だけでなく、抗凝固剤の調整するためにモニタリングすることが多いです。
APTTとPT-INRを測定すれば外因系か内因系かがわかります。
また、凝固時間が長い時はACTよりAPTTの方が信頼度が高いと言われています。
ACTはすぐ測定できるので、よく測定されます。
抗凝固因子
生体内は凝固系だけではなく、それを阻止する「抗凝固因子」が存在します。
これらのバランスによって血栓傾向、出血傾向を調整しています。
生体内の抗凝固因子は凝固因子に比べると少ないですが「アンチトロンビン(AT)」「プロテインC(PC)」「トロンボモジュリン(TM)」「組織因子経路インヒビター(TFPI)」があります。
凝固カスケードが進んでフィブリン(I)になってしまうとしっかり血栓ができてしまうため、フィブリンの手前(II~XII)で進行を阻止(阻害)するのが抗凝固の考え方です。
抗凝固剤によるヘパリン、もしくは血管内皮にあるヘパリン様物質によってATとTFPIが活性化されます。
ATは9(IX)、10(X)、2(II)を阻害し、抗凝固します。
ATによって2(II)のトロンビンを阻害するとトロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)が産物として出現します。
ATは「ATIII」と呼ばれることがありますが、意味は同じです。
TFPIは7(VII)、10(X)を阻害し、抗凝固します。
PCはTMとトロンビンによって活性化し、8(VIII)、5(V)を阻害し、抗凝固します。
ATIIIの正常値は80~130%
ICUではよく検査されます。
これら抗凝固に関係する薬剤は「抗血小板剤」「抗凝固剤」「血液製剤」があります。
抗血小板剤
抗血小板剤は血小板による血栓形成を抑制し、血液をサラサラにする薬剤です。
アスピリンやチエノピリジン系抗血小板薬などが代表的です。
抗凝固剤
抗凝固剤はフィブリンによる血栓形成を抑制し、血液をサラサラにする薬剤です。
深部静脈血栓症や肺塞栓、心原性脳塞栓症などの静脈血栓の予防で投与します。
心房細動(Af)のある患者も抗凝固剤が使われていると思います。
他にも、体外循環中の抗凝固療法で使用します。
体外循環ではヘパリンやメシル酸ナファモスタットが、内服ではワルファリンが代表的です。
ヘパリンやメシル酸ナファモスタットはAPTTやACTを見ながら、ワルファリンはPT-INRを見ながら投与量を調節します。
血液製剤
血液製剤は赤血球や血小板などを思いがちですが、抗凝固因子もあります。
ATIII(アンチトロンビンIII)製剤は血漿分画製剤の一種でATIIIが不足した時の補充目的で使用することがあります。
ヘパリンはATIIIを介して抗凝固作用を発揮するため、ヘパリンの効果が見られない場合でATIII製剤を投与することもあります。
ヘパリン使用中のATIII製剤投与は出血傾向を一気に高める可能性があるため、投与時はAPTTなどの凝固時間を見ながら調整します。
TM(トロンボモジュリン)製剤はDICの治療薬として使用されることがあります。
こちらも出血傾向を一気に高める可能性があるため、投与時はAPTTなどの凝固時間を見ながら調整します。
他にも
稀ですが次の凝固系を検査することがあります。
プロトロンビン→トロンビンの過程で出現する産物として「プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)」
フィブリノゲン→フィブリンの過程で出現する産物として「可溶性フィブリン(SF)」「フィブリンモノマー(FMC)」SFとFMCを総称して「フィブリンモノマー複合体(SFMC)」
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参考にした資料
[参考書]ファーマナビゲーター DIC編(2019)