薬剤・輸液 集中治療室(ICU)

やさしく「昇圧剤」をまなぶ

投稿日:8月 8, 2021 更新日:

ICUでよく使用される昇圧剤についてご紹介します。

細かい理屈よりかは、現場で使用する時の「イメージ」を優先して、

ここではかみ砕いて説明したいと思います。

昇圧剤を使ってもバイタルが立ち上がらない場合はECMOIABPなどの補助循環を使用することがあります。

最近ではインペラを使用することも増えてきましたね。(ここらへんは別ページで解説しております





昇圧剤とはホルモンのこと

昇圧剤は循環作動薬の一種です。

昇圧剤のほとんどは生体にある「昇圧ホルモン」を薬剤にしたものです。

副腎髄質にはドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンがあります。

これらをまとめてカテコールアミンやカテコラミンと言います。

他にもICUではよく使われるドブタミン、イソプレナリンは合成カテコールアミンと言います。

バゾプレシン、PDE阻害剤も昇圧剤です。

だらだらと薬の名前を言いましたが、これらは後ほど紹介します。

薬剤を一つずつ覚える前に、まずカテコールアミン(昇圧剤)の作用をちょこっとお話します。





α作用とβ作用

まずはα作用とβ作用を理解しましょう。

これさえ覚えればほとんどの昇圧剤は理解できます。

ここでカテコールアミンのイメージをつけていただきます。



これらカテコールアミンはα作用、β作用があります。

血圧は心拍出量と末梢血管抵抗で表すことができます。

α作用は血管の平滑筋を収縮し、末梢血管抵抗を上げることで血圧を上げる(昇圧)効果があります。

β作用は心筋の収縮力と心拍数を増加し、心拍出量を上げることで血圧を上げる(昇圧)効果があります。(β1:心収縮力↑、β2:血管拡張)

α作用の強い昇圧剤を「血管収縮薬」、β作用の強い昇圧剤を「強心薬」と呼ぶこともあります。

このようにα作用、β作用は心臓や血管に作用し、心拍出量と末梢血管抵抗を増加させます。

α作用とβ作用は肝臓や腎臓、骨格筋など他の臓器にも作用し血糖値を上げたり、胃腸運動抑制、中枢神経刺激、気管支拡張など、さまざまな効果があります。

昇圧効果だけでなく、これらの作用と副作用も考慮しながら昇圧剤を選択しますが、今はとりあえず「昇圧」のことだけをお話します。





カテコールアミンと合成カテコールアミンにはα作用とβ作用があることをご紹介しました。

α作用が強いものから順番に紹介すると次のようになります。

(α作用が強い)
フェニレフリン
ノルアドレナリン
アドレナリン
ドパミン
ドブタミン
イソプレナリン
(β作用が強い)

フェニレフリンで一番α作用が強く、イソプレナリンで一番β作用が強いと思ってください。

実際の昇圧効果は次の表のようになります。





昇圧剤





昇圧剤の種類

昇圧剤を一つずつ紹介します。

フェニレフリン

薬品名:ネオシネジン

α作用(血管収縮)だけをもつアドレナリンに似た薬剤(カテコールアミンではない)

麻酔中の血圧低下時によく使われます。

フェニレフリンを使うと徐脈になることがあるので注意します。

入れるルートは中心静脈です。末梢だと投与した部位で虚血やチアノーゼになる可能性があります。

ノルアドレナリン

薬品名:ノルアドリナリン

α作用と少しのβ作用があるカテコールアミンです。ノルエピネフリンとも呼ばれています。

敗血症性ショックでは第一選択で使用されます。

血管収縮作用があるので、高用量で使用すると手先が冷たくなる(抹消冷感)ので注意して使用します。末梢循環不全で嫌気性代謝が亢進します(Lac↑)

入れるルートは中心静脈です。末梢だと投与した部位で虚血やチアノーゼになる可能性があります。

少しのβ作用があるので、フェニレフリンに比べて徐脈になりにくいです。

バゾプレシン

薬品名:ピトレシン

もともとは抗利尿ホルモン(ADH)ですが、血管収縮作用もあります。敗血症ではノルアドレナリンと併用すると昇圧効果が上がるのでよく使われます。

アドレナリン

薬品名:ボスミン、アドレナリン、エピペン

α作用とβ作用どちらもあるカテコールアミンです。

心原性ショック(心停止)では第一選択になっています。

β作用で気管支拡張、ヒスタミン遊離抑制作用があるので、アナフィラキシーショックでも第一選択になっています。

強力なカテコールアミンで緊急時に使うことが多いです。

副作用として不整脈を起こしやすいです。

心停止では静注、アナフィラキシーショックでは筋注で投与します。

ドパミン

薬品名:イノバン、ドパミン

ドパミンは投与量で作用が変わります。少量でドパミン受容体を刺激(腎血流増加・利尿効果)し、中等量でβ作用(強心薬)、高用量でα作用(血管収縮薬)

ドパミン投与量による作用
少量(1~3γ)ドパミン受容体刺激
中等量(3~10γ)β作用(強心薬)
高用量(10γ以上)α作用(血管収縮薬)

ドパミンは投与する量で強心薬にもなるし血管収縮薬にもなるのです。

一見は万能薬な気がしますが、使いづらく、頻脈や不整脈などの副作用があります。

ドブタミン

薬品名:ドブポン、ドブトレックス、ドブタミン

β作用だけをもつ合成カテコールアミンです。

心拍出量増加と血管拡張作用があるので、心筋の酸素消費量を増加させずに臓器循環が改善できます。肺うっ血も改善するので心不全でよく使用されます。

血液をガンガン循環させるイメージを持てば分かりやすいかと思います。

敗血症では通常ノルアドレナリンが使われますが、低心拍出量の敗血症であればドブタミンが第一選択になります。また、併用することもあります。

PDE阻害剤

薬品名:ミルリーラ(ミルリノン)、コアテック(オルプリノン)

PDE阻害剤で心収縮、心拍出量を増加させます。

ドブタミンに似た作用をするので、ドブタミンが効かないときに使うことがあります。

ミルリノンとオルプリノンはどちらも似てますが副作用で使い分けます。ミルリノンは血小板低下を起こしやすく、オルプリノンは血圧低下を起こしやすいです。

イソプレナリン

薬品名:プロタノール

β作用だけをもつ合成カテコールアミンです。

心拍数を上げるので、徐脈の治療でよく使われます。

高用量では不整脈や低血圧を起こす可能性があります。

イソプレナリンが効かない時はペースメーカーを入れることがあります。

イソプレナリンやドブタミンはβ2作用の副作用として血圧低下が起こることがあります。なのに「昇圧剤」と呼びます。紛らわしいですね。

アメジニウム(リズミック)エチレフリン(エホチール)

リズミック、エホチールどちらも血液透析(HD)でよく使用される昇圧剤なので、ついでにご紹介します。

エホチールはα作用とβ作用があり、速攻で効くので透析中の低血圧によく使用されます。

リズミックはノルアドレナリンの取り込みを抑制(交感神経亢進)させ、透析後の低血圧によく使用されます。





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参考にした資料

[指針]麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第3版 Ⅷ 循環作動薬(2014,日本麻酔科学会)

↑手術室やICUなどの周術期で使用する循環作動薬をまとめたガイドラインです。

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