重症患者の栄養はどのように管理するか。
重症患者では消化管が使えないこともあればサイトカインが原因による免疫応答でうまく代謝ができなかったりと栄養バランスが崩れやすいです。
この記事では「そもそも栄養に詳しくない人」が重症患者の栄養療法を理解するために「これだけは知っておくべき」という知識をかいつまんで紹介したいと思います。
重症患者の栄養療法で大事なところだけ先に伝えると
重症患者の栄養療法の Point!
・基本、静脈栄養より経腸栄養の方が良い。
・基本、栄養剤は一般的なもので良い。
・基本、最初の栄養量は少なめが良い。
・経腸栄養は誤嚥と下痢に気をつける。
これらの要点を先に覚えておくと、ズルいくらいに現場での会話の意図が読めます。
CHDFなどの血液浄化を行っている時はアミノ酸(タンパク質)が抜けてしまうので、栄養は病態だけでなく医療機器の影響もあるので臨床工学技士は理解しておきましょう。
静脈栄養 (輸液ポンプ) | 経腸栄養 (経腸栄養ポンプ) |
静脈栄養と経腸栄養で使用するポンプです。
見た目は似てますが用途と使用回路が違うので間違えないようにね。
輸液ポンプの記事はこちら
栄養とは
栄養の話をするとかなり長くなって退屈なので、
治療で必要な三大栄養素だけ説明します。
三大栄養素
・糖質
・脂質
・タンパク質(アミノ酸、ペプチド)
この3つです。
これらの栄養は運動や臓器活動で必要なエネルギーに変換されます。
三大栄養素のエネルギー産生量
・糖質1gで4kcal
・脂質1gで9kcal
・タンパク質1gで4kcal
それぞれこの割合でエネルギーを作ります。脂質は1gに対するエネルギー量が9gと高く低燃費なんですね。
50歳男性の1日摂取エネルギー量は約2450kcal で割合は糖質57.5%(352g)、脂質25%(68g)、タンパク質16.5%(101g)となっています。
他にもビタミンや鉄分など必要になってきます。かなり細かい話なのでここでは紹介しません。
ここらへんはざっくりした理解の仕方でよいです。
数値についてざっくり理解していると、栄養剤の添付文書や資料を読んだときにおおよその栄養を把握できます。
静脈栄養 or 経腸栄養
栄養は投与方法で2種類に分けられます。
末梢静脈or中心静脈に入れる静脈栄養
※末梢静脈栄養(PPN:Peripheral Parenteral Nutrition)
※中心静脈栄養(TPN:Total Parenteral Nutrition)
胃or腸に入れる経腸栄養
※経腸栄養(EN:Enteral Nutrition)
どの患者も可能であれば「経腸栄養」が良いです。
経腸栄養はバランスよく栄養を入れることができます。感染のリスクも低いです。予後も良い。医療費も安い。
なので、静脈栄養は「経腸栄養ができないとき」に行います。
静脈栄養の適応、すなわち経腸栄養ができない場面は次のとおりになります。
<静脈栄養の適応>
消化管の機能不全
難治性嘔吐
重篤な下痢
腸閉塞
短腸症候群
消化管の利用不可能
消化管皮膚瘻
消火器手術後(吻合部を通過しなければ可能)
消化管の安静が必要
消化管出血
炎症性腸疾患
経腸栄養の不応例
入室から1週間経過しても経腸栄養ができない
(上記の病態、不応例)
入室から1週間経過しても経腸栄養が目標量入らない
(20kcal/h以下)
入室から栄養失調で経腸栄養ができない
(上記の病態)
その他
循環動態不安定(大量輸液、高用量昇圧剤、ショック)
重症患者はICU入室から24時間以内、遅くとも48時間以内に経腸栄養を開始することが推奨されています。
腸蠕動音、排便、排ガスの確認が取れなくても経腸栄養を安定して開始できる。むしろ、経腸栄養を行って消化管を動かすべきである。
また、経腸栄養を始めて最低でも20kcal/h(1日で約500kcal)投与できればいいです。安易に経腸栄養から静脈栄養に変えるのは推奨されていません。
静脈栄養中でも常に経腸栄養ができないか考えて試みるべきです。
静脈栄養
静脈栄養は経腸栄養ができない場合の選択肢で、末梢静脈もしくは中心静脈カテーテルから栄養剤を投与します。
静脈栄養のカテーテル選択
静脈栄養カテーテルの使用ルートは基本として使用する栄養剤の「浸透圧比」で使い分けます。
静脈栄養カテーテルの使い分け
・末梢静脈ルート(浸透圧比3未満の栄養剤)
・中心静脈ルート(どの栄養剤でもよい)
末梢静脈ルートは浸透圧比3未満の輸液製剤を投与する場合に使用します。
浸透圧の高い高濃度の液を末梢静脈に流すと血管痛や静脈炎を起こし、やがて血管が閉塞を起こすリスクがあるからです。
中心静脈ルートはリスクが少ないので浸透圧に関係なく投与可能です。
15%未満ブドウ糖液、アミノ酸製剤、脂肪乳剤などが浸透圧比3未満なので末梢静脈・中心静脈どちらのルートからでも投与可能です。
また、ビタミン製剤、微量元素は希釈輸液剤の浸透圧比が3未満であればルートはどちらでもよいです。
現場でいつも捨てると思いますが、使用する製剤の「添付文書」に浸透圧比が書いてあるので気になる方は見てください。
高カロリー輸液は浸透圧比4以上なので中心静脈から投与します。
静脈カテーテルの留置部位
中心静脈カテーテルは大腿静脈、鎖骨下静脈、内頸静脈が使われます。
中心静脈の留置
・大腿静脈
・内頚静脈
・鎖骨下静脈
(感染)大腿静脈>内頸静脈>鎖骨下静脈
一般的に大腿静脈>内頸静脈>鎖骨下静脈の順で感染するリスクが高いと言われています。
中心静脈カテーテルはカテーテル感染が疑われる場合のみ交換します。
末梢静脈カテーテルも点滴漏れや感染など問題がない限り交換はしません。
定期的な交換に意味がないという結論が出ています。
経腸栄養
胃や十二指腸に栄養剤を投与して患者の消化器官を使う栄養療法です。
経腸栄養の栄養チューブ
経腸栄養の栄養チューブは胃もしくは十二指腸に留置します。
経腸栄養の留置部位
・胃
・十二指腸
十二指腸は肺炎減少、胃管の逆流防止、栄養投与量増加が期待できますが、技術が必要なのと軽度の胃出血が起こる可能性があります。
十二指腸留置は内視鏡を使って挿入する方法、造影しながら挿入する方法、腸管蠕動促進薬を投与して挿入する方法、空気を胃内に充満させて挿入する方法、・・・があります。
胃の挿入は比較的に簡単で経腸栄養を早く開始できます。誤留置すると気胸のリスクがあるため、チューブ挿入後はX線で先端位置の確認を行います。
胃留置はX線以外にも吸引した排液pH値、気泡音聴診、呼気二酸化炭素検出などで確認します。
経腸栄養で使う栄養チューブの太さは8Fr以下が望ましいです。太すぎると誤嚥のリスクがあり、細すぎると胃内残量を確認できなくなります。
経腸栄養を長期間必要だと判断した時は外から胃に向けて穴を開ける「胃瘻」を造設することもあります。
経腸栄養の管理
経腸栄養がうまくできなければ静脈栄養をすることになるので、ちゃんと栄養が投与されているか観察します。
具体的には疼痛や腹部膨満感の訴え、理学所見、排ガス・排便、腹部X線などを観察します。
経腸栄養は中止するとイレウスが増悪する可能性があるので、できるだけ中止しません。
胃内残量が多いと経腸栄養を中止したくなりますが、モニタリングに異変がなく胃内残量500 ml以内であれば、誤嚥に注意しながら経腸栄養を続行することが推奨されています。
経腸栄養を始めて最低でも20kcal/h(1日で約500kcal)投与できればよく、安易に経腸栄養から静脈栄養に変えるのは推奨されていません。
経腸栄養と誤嚥
重症患者の経腸栄養は誤嚥が起こりやすいです。
経腸栄養中の誤嚥予防として経鼻チューブや、意識レベル、体位・体動、鎮静/鎮痛、経腸栄養の量などなど工夫はたくさんあります。
誤嚥性肺炎は胃内容物よりも口咽頭分泌物の影響の方が強いので、しっかり口腔ケアを行い人工呼吸器回路の交換も最小限にします。
重症患者の体位は誤嚥予防に加えて経済的にも負担の少ないヘッドアップ(30〜45°のセミファーラー位)にするのが基本で経腸栄養中は特に誤嚥のリスクがあるのでヘッドアップは好ましいです。
誤嚥リスクのある患者や経胃投与がうまくいかない患者に対して腸管運動促進薬(メトクロプラミドやエリスロマイシン)や麻薬拮抗薬(ナロキソン)などを使います。
ナロキソン投与で肺炎予防、胃管からの逆流現象予防が期待できます。
※腸管蠕動促進のためのエリスロマイシンの投与は保険適応外です。
他にも消化管運動改善を目的に胃内排泄促進(クエン酸モサプリド、六君子湯など)大腸蠕動・排便促進(PGF1α、大建中湯、ピコスルファートナトリウムなど)させることがあります。
経腸栄養と下痢
下痢によって1日の排便量が 250g以上になると栄養が不足します。
重症患者の栄養不足は免疫機能低下、感染性合併症リスク増加、死亡率増加に関わってきます。
下痢が起きたら浸透圧性下痢なのか感染性下痢なのか原因の鑑別を早急に行って対処します。
下痢の原因は大きく分けると高浸透圧の薬剤摂取、抗菌薬、感染症などが考えられます。
先ほど説明した排便量以外にも、腹部の診察、便検査(便中白血球、便培養)、血中電解質(下痢で電解質が失われていないか)投与薬剤をみて下痢の細かい鑑別をします。
下痢の対処として補液やオピオイド、抗コリン薬を投与することがあります。
下痢が激しい時は便失禁システム(フレキシシール:閉鎖式など)が推奨されています。
栄養剤は間歇投与より「持続投与」の方が目標量達成や下痢の発生頻度が低下したという報告があります。
栄養剤の持続投与には経腸栄養ポンプを使うことで流量の変動を最小限にできます。ちなみに誤嚥リスクは変わりません。
エネルギーの投与量
栄養剤のエネルギー投与量は「エネルギー消費量より少なめ」もしくは「エネルギー消費量と同等量」を投与します。
エネルギー投与量
・エネルギー消費量より少なくする
(導入期)急性期で最初の1週間
・エネルギー消費量と同じ量
(維持期)1週間後
最初は少なめに投与して、栄養剤を体に慣れさせることが推奨されています。
最初から投与量が多いとリフィーディング症候群を起こすことがあります。
※リフィーディング症候群とは
飢餓状態が長く続いたあと急激に栄養補給を行うと発症する代謝性の合併症です。電解質異常や不整脈、肺水腫、臓器障害、血管透過性の亢進など致死的になることがあります。血中のリン,マグネシウム,カリウム濃度を測定することで早く発見することができます。
エネルギー投与量を知るには「エネルギー消費量」を知る必要がありますね。
エネルギー消費量の計算は次が使われています。
エネルギー消費量の算出
・間接熱量計
・推算式(Harris-Benedict式など)
・簡易式(25〜30 kcal/kg/日)※実測体重
一番下の「簡易式」がよく使われています。
簡易式を用いると、体重50kgの成人では1日で1250~1500kcalが消費される計算になります。
BMI 30以上の太っている患者は高蛋白低エネルギーの栄養投与が推奨されています。
肥満患者のエネルギー消費量は間接熱量計の値、もしくは計算した消費エネルギーの60~70%、もしくは実測体重ではなく理想体重で20〜25 kcal/kg/dayを消費エネルギーとしてエネルギー投与量を算出します。
エネルギー消費量の算出(肥満患者)
・間接熱量計
・推算式の60~70%
・簡易式(25〜30 kcal/kg/day)の60~70% ※実測体重
・簡易式(20〜25 kcal/kg/day) ※理想体重
※理想体重(IBW:ideal body weight)
男 (0.9079×身長[cm]-88.022) kg
女 (0.9049×身長[cm]-92.066) kg
蛋白およびアミノ酸は1.2 g/kg/day(※実測体重)で投与することが推奨されています。
静脈栄養剤は商品としてビーフリード、アミグランド、パレセーフなどがあります。ブドウ糖単独は推奨されてません。
経腸栄養剤はたくさん種類があります。
例えばリーナレンLPやレナウェルAは高濃度ですがタンパク質、ナトリウム、カリウム、リンの濃度は低く「腎不全」患者によく使用されます。
インパクト、イムンα、サンエットなどの免疫増強栄養剤(IED)は感染予防が目的でグルタミンやアルギニン、ω-3系脂肪酸、拡散などが多いです。
オキシーパなどの免疫調整経腸栄養剤(IMD)は炎症を抑える目的でEPA、γリノレン酸は多いが、アルギニンは少ない組成になっています。
他にも疾患用の栄養剤がたくさんあります。
血糖値の管理
重症患者の栄養管理中は高血糖(180mg/dl以上)でインスリン投与して血糖値を低下させます。
インスリンやブドウ糖を入れて80~100mg/dlで維持する「強化インスリン療法」がありますが重症患者の栄養管理中は推奨されていません。
心外の術後では強化インスリン療法で死亡率が低下した報告はあります。
血糖管理に「人工膵臓」を用いると持続で血糖管理ができ、術後患者では低血糖の減少、インスリン使用量の減少、在院日数の短縮、感染発生率の低下など良好な報告があります。
通常の経静脈的インスリン療法は血糖値とインスリン投与量が安定するまで1~2時間ごとに血糖値を測定します。
血糖値のちょこっと余談
血糖値は部位と測定方法で値が変動します。
血糖値の測定精度
中央検査室>血液ガス分析>簡易血糖測定器
毛細血管を使用した簡易血糖測定器は血糖値が高値になりやすく、低血糖を見逃す可能性がある。
血液ガス分析は低血糖域で誤差が出やすい
中央検査室による血清検査が一番正確、しかし血糖測定範囲を逸脱した患者、貧血を呈した患者、低血圧患者、カテコラミン使用中の患者では、血糖値の測定誤差が大きくなりやすい
疾患・病態別の栄養療法
重症患者にアルギニンは推奨されていない
アルギニンから一酸化窒素(NO)が生まれ末梢血管拡張、循環動態に影響が与える可能性があるので、循環動態が不安定な重症患者にアルギニンは推奨されていません。
熱傷・外傷患者にグルタミンは推奨されている
グルタミンは必須アミノ酸で腸上皮細胞の栄養になるので、グルタミンを強化した経腸栄養は熱傷・外傷患者で推奨されています。ショック・多臓器不全患者では推奨されていません。
ARDS、敗血症患者にn-3系脂肪酸(EPA)、γリノレン酸、抗酸化物質は推奨されている
n-3系脂肪酸(EPA), γリノレン酸,抗酸化物質を強化した経腸栄養剤は炎症を抑える効果が期待されているのでARDS、敗血症患者で推奨されています。
食物繊維(可溶性と不溶性)
可溶性食物繊維は下痢で難渋する患者に使用を考慮します。ただし、循環状態が安定し経腸栄養を行っている患者に限ります。
不溶性食物繊維は腸閉塞のリスクがあるので重症患者全般にできるだけ使わないことが推奨されています。
急性呼吸不全に高脂肪/低炭水化物栄養剤は推奨されていない
高脂肪/低炭水化物栄養剤(high fat and low CHO)は炭水化物含有量が少なく脂質含有量が多い組成になっています。脂質の呼吸商は炭水化物より低いため,二酸化炭素の産生を抑えることが期待されていましたが、研究によっては二酸化炭素の産生に影響が見られなかった。
急性腎障害は通常の経腸栄養剤を推奨されている
電解質異常では腎不全用の特殊栄養剤の使用を考慮することを推奨されている
急性腎障害でCHDFなど血液浄化中は患者のタンパク質は減ります、糖質は透析液と同じくらいになります。脂質は減りません。水溶性ビタミン減ります。脂溶性ビタミン減りません。CHDFは約10〜15 g/dayのアミノ酸が喪失するので蛋白投与量が1g/kg/day未満の場合は窒素欠乏状態が悪化することがあります。タンパク質投与はできるだけ止めず、必要であれば増量します。
慢性肝障害は通常の経腸栄養剤を推奨されている。
末期の肝疾患は栄養療法が不可欠で、経腸栄養は静脈栄養に比べて感染症や合併症を減少します。分岐鎖アミノ酸(BCAA : branched-chain amino acids)を強化した経腸栄養剤は昏睡の改善を期待されていて、治療抵抗性の肝性脳症の患者に限り投与することを考慮します。
急性肝不全は有効的な栄養剤がない
急性肝不全ではエネルギー代謝が亢進し、肝細胞が傷害されることでエネルギー利用効率も悪くなります。有効的な栄養剤はないが経腸栄養を行うべきと言われています。アンモニア処理能が低下しているので高アンモニア血症(肝性脳症)予防のためにもアミノ酸投与は控えるべきと言われています。高血糖・低血糖に気をつけながら適宜ブドウ糖を投与します。
重症急性膵炎は経腸栄養を優先し、栄養ルートは十二指腸か空腸が推奨されている。
重症急性膵炎は循環動態が安定している状態では静脈栄養より経腸栄養の方が入院期間短縮、感染症発生率低下、臓器障害合併率低下、死亡率低下します。経腸栄養は入室から48時間以内が望ましいです。早期の経胃投与は無気肺など肺合併症が増加する可能性があり、腹腔内に炎症がある状態では胃の蠕動運動が低下するので,可能であれば経空腸ルートからの栄養投与が望ましいです。
頭部外傷・脳卒中
あまりエビデンスがないが経胃より十二指腸、空腸ルートが好ましいです。栄養剤は通常の物が好ましいです。低体温療法中は代謝が低下し、低体温療法導入前に比べて代謝量が2/3程度になるという報告があります。低体温(体温が32〜34℃)に到達した後は,栄養剤の投与速度を減少させることを考えるべきと言われています。
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参考にした資料
[参考書]ER・ICUスタッフ必携マニュアル(2015)
[参考書]これならわかるICU看護(2018)
[指針]日本版重症患者の栄養療法ガイドライン(日集中医誌,2016)
[特集]「重症病態における栄養管理」急性腎障害(外科と代謝・栄養,2016)