薬剤・輸液 集中治療室(ICU)

やさしく「利尿薬」をまなぶ

投稿日:7月 22, 2021 更新日:

集中治療室(ICU)では心不全急性腎障害などが原因で突然 尿が出なくなる患者がいます。

その場合は輸液や利尿薬を使うことがあります。

輸液や利尿薬でも尿がでない時は血液浄化による除水(尿の代わり)が行われることがあります。

実際に使う利尿薬はフロセミド(ラシックスなど)が多いですが、利尿薬は他にもたくさんあります。

たくさんある利尿薬を使い分けるには細胞レベルのこまかーい理論より、

利尿薬が結果的に「作用する場所」を覚えた方がはやいです。

ここでは細かい腎臓の話は置いといて、利尿薬を使う医師が最低限知っている「とりあえず覚えておいた方がよい利尿薬の作用と副作用」についてお話します。





尿のつくりかた

尿は血液から作られます。

腎臓内に細い血管が集まる糸球体と呼ばれる場所から血液が濾過され「尿」ができます。



普通の尿の作られ方

原尿は糸球体から近位尿細管→ヘンレループ→遠位尿細管→集合管→膀胱と運ばれ、尿ー血液との間で電解質や水分を交換・調整されて尿ができます。

結果的に糸球体で濾過された尿は再吸収を行うので血管内に戻ってしまいます。なので、実際に出る尿は糸球体から濾過される尿より少ないです。

ここでは「いろんな電解質と水分が移動してるんだな」くらいの理解でよいです。

近位尿細管とヘンレループでは再吸収が強いのが一つのポイントです。

ここは深く考えると先に進まないです。





利尿薬の作用

次に利尿薬を使った尿の作り方について説明します。



利尿薬を使った尿の作られ方

利尿薬はそれぞれ電解質・水分が調節されている場所に作用して「再吸収を阻害」します。

この再吸収を邪魔することで、尿の量が増える。「利尿」になります。

近位尿細管とヘンレループでは再吸収が強いので、浸透圧利尿薬とループ利尿薬は利尿作用が強いです。

Na/K ATPase や Na/K/2Cl共輸送体 など専門用語がありますが、難しくなるのでここでは話しません。

理解してほしいところは「利尿薬を使うと電解質異常が起こりそうだな」という感覚です。

利尿薬は浸透圧やナトリウム(Na)を利用して尿を作るので、単純に水分だけが減るわけではありません。尿を作る過程で血液中と尿中の電解質は増えたり減ったりします。

上手な医師は利尿薬を使ったときに起こる電解質異常(副作用)を考えながら利尿薬を使い分けています。

ということで、副作用も踏まえながら利尿薬を解説していきたいと思います。





利尿薬一覧





浸透圧利尿薬

代表的な薬剤
・マニトール
・グリセリン(グリセロールなど)

浸透圧利尿薬の作用

近位尿細管に作用して、ナトリウム(Na)、クロール(Cl)、重炭酸(HCO3-)、水を尿で排泄させます。

マニトールはC6H14O6で分子量182のブドウ糖によく似た物質です。

※ブドウ糖(Glu:分子量180 C6H14O6)

このマニトールは近位尿細管で血中に再吸収されず浸透圧を維持します。すると近位尿細管内の水が血中に再吸収されなくなります。結果として尿量が増えます。「浸透圧利尿」と呼ばれています。

尿中のNa濃度が高くなるため遠位尿細管でNa濃度上がります。尿―血液間でNaとKの交換が増加し、低K血症になることがあります。

尿はNaやK以外にマニトールが入ってる影響で浸透圧は高めです。280mOsm/kgH2O以上(等張尿/高張尿)になります。

マニトールは近位尿細管に入る前に血液中で浸透圧を上げて細胞→血中に水分が移動します。その結果、脳圧低下、眼圧低下するので脳浮腫の治療に使用されます。

浸透圧の影響で循環血液量が増えるので心不全患者に気を付けます。マニトール投与後は高張性低Na血症になることがありますが、過度に投与すると利尿しすぎて今度は脱水+高Na血症になることがあります。

浸透圧利尿薬の副作用

・血中・尿中浸透圧↑(利尿薬分↑)
・循環血液量↑
・脳圧低下・眼圧低下
・高Na血症/低Na血症
・高K血症/低K血症
→アシドーシス/アルカローシス
・低Cl血症





炭酸脱水酵素阻害薬

代表的な薬剤 
・アセタゾラミド(ダイアモックスなど)

炭酸脱水酵素阻害薬の作用

近位尿細管に作用して、ナトリウム(Na)、重炭酸(HCO3-)、水これらを尿で排泄させます。

近位尿細管で重炭酸ナトリウム(NaHCO3-)の再吸収を阻害させることで軽度のNaを利尿するのが炭酸脱水酵素阻害薬です。「ナトリウム利尿」と呼ばれています。

尿中のNa濃度が高くなるため遠位尿細管でNa濃度上がります。尿―血液間でNaとKの交換が増加し、低K血症になることがあります。

炭酸脱水酵素阻害薬の副作用

・低Na血症
・低K血症
・高Cl血症
・低P血症
・重炭酸(HCO3-)↓
→アシドーシス





ループ利尿薬

代表的に薬剤
・フロセミド(ラシックスなど)
・アゾセミド(ダイアートなど)
・トラセミド(ルプラックなど)

ループ利尿薬の作用

ヘンレループに作用して、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)これらを尿で排泄させます。

ヘンレループでNaとK、Clの再吸収を阻害させることで利尿するのがループ利尿薬です。「ナトリウム利尿」と呼ばれています。

尿中のNa濃度が高くなるため遠位尿細管でNa濃度上がります。尿―血液間でNaとKの交換が増加し、低K血症になることがあります。

また、CaとMgの再吸収も阻害するので、低Ca血症、低Mg血症が起こることがあります。

ループ利尿薬は持続時間が短いですが、利尿薬の中では「最も強い利尿作用」があります。

近位尿細管の有機アニオントランスポーターによる尿酸の分泌を阻害するので、高尿酸血症になることがあります。

ループ利尿薬の副作用

・高Na血症/低Na血症
・低K血症
→アルカローシス
・低Cl血症
・低Ca血症
・低Mg血症
・高尿酸血症





サイアザイド系利尿薬

代表的な薬剤 
・ヒドロクロロチアジド
・トリクロルメチアジド(フルイトランなど)

サイアザイド系利尿薬の作用

サイアザイド系はチアジド系とも呼ばれます。

遠位尿細管に作用してNaとClを尿で排泄させます。「ナトリウム利尿」と呼ばれています。

尿中のNa濃度が高くなるため遠位尿細管でNa濃度上がります。尿―血液間でNaとKの交換が増加し、低K血症になることがあります。

また、Caの再吸収増加とMgの再吸収阻害をするので、高Ca血症、低Mg血症が起こることがあります。

近位尿細管の有機アニオントランスポーターによる尿酸の分泌を阻害するので、高尿酸血症になることがあります。

サイアザイド系利尿薬の副作用

・低Na血症(頻度多い)
・低Cl血症
・低K血症
→アルカローシス
・高Ca血症
・低Mg血症
・低P血症
・高尿酸血症





K保持性利尿薬

代表的な薬剤
・スピロノラクトン(アルダクトンなど)
・エプレレノン(セララなど)
・トリアムテレン(トリテレンなど)

K保持性利尿薬の作用

集合管でのNa再吸収阻害、K(および H)の分泌阻害、尿細管でのMgの分泌阻害をします。「ナトリウム利尿」と呼ばれています。

他の利尿薬に比べて利尿作用は弱いです。

K保持性利尿薬は抗アルドステロン薬とNaチャネル阻害薬があります。

抗アルドステロン薬はスピロノラクトン、エプレレノン。Naチャネル阻害薬はトリアムテレンになります。

K保持性利尿薬の副作用

・高K血症
・高Cl血症
→アシドーシス





バゾプレシン受容体遮断薬

代表的な薬剤
・トルバプタン(サムスカ)

バゾプレシン受容体遮断薬の作用

集合管に作用して水の再吸収を阻害します。尿中にNaが排泄されず水のみ利尿効果があります。「水利尿」と呼ばれています。

バゾプレシン受容体遮断薬の副作用

・高Na血症





キサンチン誘導体

代表的な薬剤
・テオフィリン

キサンチン誘導体の作用

キサンチン誘導体は、ホスホジエステラーゼを阻害することによって強心作用や腎血管拡張作用によって利尿させます。

心疾患や気管支喘息で使用されます。

キサンチン誘導体の副作用

・低K血症
・頻脈





心房性Na利尿ペプチド

代表的な薬剤
・カルペリチド(ハンプ)

心房性Na利尿ペプチドの作用

急性心不全に適応のある利尿薬です。血管拡張作用もあるため低血圧に注意します。

心房性Na利尿ペプチドの副作用

・高カリウム血症/低カリウム血症
・血圧低下・徐脈





利尿薬投与の実際

最も強力なループ利尿薬(フロセミドなど)がよく使われます。

利尿薬の使い分けはもちろん症例によりますが、ICUでは第1選択としてフロセミドを使い、症状に応じて使い分けます。

低Na血症があればバゾプレシン受容体遮断薬(トルバプタンなど)を併用したり、すでに使っている利尿薬が効いていなければ別の利尿薬に変えたりして対処します。

長く説明しましたが、なんだかんだ使い慣れている専門の医師に聞くのが一番です。

利尿が得られず、体液バランスを調整するために血液浄化による除水が行われることがあります。





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参考にした資料

[参考書]腎・泌尿器(病気が見える,2014)

[参考書]循環器医のための知っておくべき電解質異常(2011)

[特集]水電解質異常をきたす薬剤性腎障害(日腎会誌,2012)

[特集]利尿薬(日大医誌,2013)

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