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やさしく呼吸器モード「ASV」をまなぶ

投稿日:3月 7, 2021 更新日:

ASV(adaptive support ventilation)は「分時換気量」をサポートするモードです。

設定した(目標)分時換気量に向けて送気圧を調整するモードです。

1回換気量をサポートするPRVCモードと似てるな~と感じる方もいると思いますが、ASVでサポートするのは「分時換気量」つまり「1回換気量」と「呼吸回数」も自動で調節し、サポートします。

ASVのPoint!
・時定数から呼吸回数、理想体重から一回換気量を算出する
・波形解析で理想的な呼吸回数・一回換気量を決定する
・分時換気量が極端にならないよう上限と下限がある

細かく見ると少し複雑な動作をするので、一つずつ順を追って解説していきます。

ASVモードはハミルトンG5、C6などに搭載されています。





ASVによる呼吸回数の決定

ASVの動作を知るにはまず気道抵抗(R)とコンプライアンス(C)について理解する必要があります。

コンプライアンスは「肺の柔らかさ」のことで拘束性障害ARDSとか)の指標になります。

気道抵抗はレジスタンスとも呼ばれ、閉塞性障害COPDとか)の指標になります。

気道抵抗[cmH2O・秒/L]
コンプライアンス[mL/cmH2O]

気道抵抗(R)とコンプライアンス(C)をかけ合わせたものを「時定数(RC)」と言います。

時定数(RC)=気道抵抗(R)×コンプライアンス(C)

時定数は吸気量を100%として63%呼出(吐く)するまでの時間になります。

正常RCは0.6~0.9秒で、0.6以下で拘束性、0.9以上で閉塞性の換気障害が疑われます。

通常RCは5倍の時間で約100%呼出されます。

この時定数から目標となる換気回数(RR)を決定しています。

気道抵抗(R)とコンプライアンス(C)から時定数(RC)を算出していることはわかりましたね。

しかし、実際のASVは気道抵抗(R)とコンプライアンス(C)から時定数を出しているわけではなく、流量-容量(フロー-ボリューム)ループ曲線の「傾き」から時定数を測定しています。



フロー-ボリューム曲線

では、気道抵抗(R)とコンプライアンス(C)は測定していないの?

実は呼吸の運動方程式をもとに気道抵抗(R)とコンプライアンス(C)を測定しています。

呼吸の運動方程式
Pvent+Pmus=R×Flow+1/C×V+PEEP

Pventは人工呼吸器によって作り出される圧のことです。

Pmusは患者の呼吸筋によって作り出される圧のことです。

自発呼吸がない(Pmus=0)状態では気道内圧や流量(Flow)、1回換気量(V)、PEEPは測定可能なので最小フィッシング法(LSF)という技術で気道抵抗(R)とコンプライアンス(C)を測定しています。

本来、時定数もこの呼吸の運動方程式から算出できます。

しかし、この方法での気道抵抗(R)とコンプライアンス(C)は近似値であって正確な値ではありません。

また、自発のある患者ではPmus=0ではないため、不正確になります。

呼吸回数を決定する時定数は測定されるので、そこまでして気道抵抗(R)とコンプライアンス(C)を測定しなくてもいいのでは?

と思いますが、

気道抵抗(R)とコンプライアンス(C)から呼吸仕事量(WOB)を測定し、呼吸仕事量が最小となる換気回数(RRWOB)を決定しているのです。

時定数(RC)
 →換気回数(RR)
気道抵抗(R)・コンプライアンス(C)
 →最小呼吸仕事量の換気回数(RRWOB)

OtisやMeadと呼ばれる式を応用し、算出しています。





ASVによる1回換気量の決定

1回換気量にはIBW(理想体重)が使用されています。

男 (0.9079×身長[cm]-88.022) kg
女 (0.9049×身長[cm]-92.066) kg

以前はPBW(予測体重)について説明しましたが、理想体重と同じくらいの値になります。

通常1回換気量設定は予測体重、理想体重どちらを使用しても構いません。

予測体重から1回換気量を決定するわけではなく、分時換気量を算出しています。

そして上で計算した呼吸回数で分時換気量が得られるよう一回換気量が増減します。





ASVによる分時換気量の決定

つらつらと書いてきましたが、ASVモードは分時換気量、要するに理想的な換気回数と理想的な1回換気量を人工呼吸器で自動で調節しています。

分時換気量=呼吸回数×(1回換気量-死腔量)

理想的な換気回数と1回換気量を自動で調節しますが、過大な換気回数や過大な1回換気量にならないよう上限値と下限値があります。

換気回数(RR)の上限/下限
下限値:5回/分(無呼吸予防)
上限値:60/RC/3 or 目標MV/最低Vt 少なくともRCの2倍以上(auto PEEP予防)

1回換気量(VT)の上限/下限
下限値:2×(IBW×2.2)(死腔換気予防)
上限値:ドライビングプレッシャー×コンプライアンス(C) or 22×IBW or 最高気道内圧(Pmax)の上限値(圧損傷予防)

この範囲内でASVは換気し、Otisの式から呼吸仕事量(WOB)が最小となる換気回数を決定します。





ASVの設定

ASVで主に設定するのは「%分時換気量」「PEEP」「FIO2」になります。

PEEPとFIO2に関してはこちら(人工呼吸器の設定)で説明しますね。

ASVは呼吸回数と1回換気量は自動で計算されるため、設定するのは分時換気量になります。

分時換気量の絶対値を入力するわけではなく、予測体重から計算した分時換気量を100%としたとき、何%の分時換気量で換気させるか。という意味が「%分時換気量」になります。

例えば
%分時換気量を120%に設定した時、人工呼吸器で(予測体重で)計算した分時換気量が5L/minであれば、実際の換気は6L/minになるよう人工呼吸器でサポートします。

%分時換気量を80%に設定した時、人工呼吸器で(予測体重で)計算した分時換気量が5L/minであれば、実際の換気は4L/minになるよう人工呼吸器でサポートします。



※注意※

ASVは設定した最高気道内圧とアラームの最高気道内圧が連動しています。

(設定した最高気道内圧)+10=(アラームの最高気道内圧)

設定した最高気道内圧を変更するとアラームの最高気道内圧も変更されてしまいます。

逆のパターンもあるので設定変更した際は注意してみましょう。





ASV中に自発呼吸が現れたら

ASVモード使用中に自発が現れれば換気回数が制限以内か計算し、換気回数に合わせてサポート圧が変化します。

例えば、自発呼吸が多い時
人工呼吸器から換気は行われず、自発に対するサポート圧を送気します。この時のサポート圧は(目標)分時換気量が得られるよう調整されます。通常は自発による呼吸回数が多いほど、過換気にならないよう自発に対するサポート圧は低くなります。

これは目標となる分時換気量を確保するためにこのような動作になります。

逆に、自発呼吸が少ない時
人工呼吸器から足りない分を換気し、呼吸回数を補正します。サポート圧は(目標)分時換気量が得られるよう調整されます。

こちらも目標となる分時換気量を確保するためにこのような動作になります。

名付けるなら「ボリュームサポート(VSV)」といった換気方法になります。

ASVは「分時換気量」を基準に考えると状況が理解しやすいです。

ASVは従量式換気であるVCVPRVCに似ていますが別物です。

VCVPRVCは1回換気量を設定するのに対し、ASVは分時換気量を設定し、1回換気量と呼吸回数は自動で調節されます。

自発が現れても、%分時換気量の設定が高いと自発より人工呼吸器による強制換気が先行して行われるため、患者が呼吸努力をせずサポート圧が低下しないことがあります。

自発が現れたら%分時換気量を下げ、自発呼吸を優先させるのも離脱する際のコツです。





INTELLiVENT-ASV

ASVは分時換気量・FIO2・PEEPを設定します。

INTELLiVENT-ASVはETCO2SpO2を設定し、設定したETCO2とSpO2になるよう分時換気量、FIO2、PEEPは自動で調節されます。

ETCO2とSpO2の測定には人工呼吸器にあるセンサーを使います。

VCVはこちら

ETCO2とPaCO2は差が生じるので、血液ガス検査を見て補正したETCO2を設定します。その他、病態に合わせたETCO2・SpO2を設定します。

換気は設定したETCO2より患者のETCO2が低下すれば分時換気量(MV)が増加するよう1回換気量と換気回数が増加します。

分時換気量はASVと同様の増減をします。

酸素化は設定したSpO2より患者のSpO2が低下すればFIO2とPEEPが増加します。

FIO2とPEEPは肺保護を目的にARDS Networkが示したopen lung approachの組み合わせで調節しています。

SpO2が低値で酸素化を上げるときは低PEEP/高FIO2設定、
SpO2が高値で酸素化を下げるときは高PEEP/低FIO2設定で調整します。



INTELLiVENT-ASVが活躍する場面は「早期離脱(ウイニング)」です。

離脱に向けて鎮静・鎮痛薬を減量する場面では、減量するたびに呼吸器の設定を調整しなければなりません。

この時INTELLiVENT-ASVでは強制換気から自発換気まで自動調節されるため、時間のロスが生じにくいです。

自発が現れ、気が付けばもう「ウイニングできるじゃん」という設定になっていることも実現できます。

呼吸不全など病態に追従した細かな設定はINTELLiVENT-ASVでは難しいですが、術後の呼吸器管理などの早期離脱に向けた場面では強い呼吸器モードです。

しかし、ASVが不慣れであって、設定やトラブル対応に難渋するようでは本末転倒になります。

当院でも最近ASVモード搭載の人工呼吸器を導入し、使いこなせるよう習熟している最中であります。



INTELLiVENT-ASVモード

画像の設定は分時換気量とFIO2は自動、PEEP値は手動で設定しています。





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その他の記事  はこちら(HP)





参考にした資料

[特集]人工呼吸器(INTENSIVIST,2018)


ASV(YouTube)


INTELLiVENT-ASV(YouTbe)


[講座]INTELLiVENT-ASVを用いた心臓大血管手術後の人工呼吸ウィーニング(日臨麻会誌,2015)

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