人工呼吸器の設定に難渋することはよくありますが、モードを適切に選択することで問題が改善される場面がよくあります。
今回はそんな人工呼吸器の「モード」についてご紹介したいと思います。
人工呼吸器モードのPoint!
・代表的なモードは「A/C」「PSV」「SIMV」の3つ!
・自発のある患者はPSV!自発がない(弱い)患者はA/C!SIMVはその中間
・APRVモード、HFOVモード、PRVCモード、PAVモード、NAVAモード、ASVモード、INTELLiVENT ASVモードの特殊なモードもある
人工呼吸器のモードはA/C、SIMV、PSVの三つが主流です。
A/Cは機械任せのモード
PSVは患者寄りのモード
SIMVはその中間
というざっくりした認識があると理解しやすいと思います。
A/C
A/C(Assist/Control)は強制換気だけ行うモードです。
主に自発がない(弱い)患者に使用します。
換気回数は「設定した換気回数+自発呼吸」になります。すべて強制換気です。
一回換気量を決める項目はVCVとPCVの2種類あります。
VCV
従量式換気(volume control ventilation)といい、設定した換気量をしっかり送気します。
一回換気量と換気回数で換気量を調整します。
吸気圧は調整していないため、過大な圧がかかった場合は気胸や気腫などの圧損傷の危険があります。圧波形が上昇します。
PCV
従圧式換気(pressure control ventilation)といい、設定した吸気圧で送気します。
吸気圧を調整することで間接的に一回換気量を調整しているしくみです。
VCVのように圧を無視しているわけではないので、圧損傷の危険は低いですが換気量が変化するため低換気の危険があります。換気量波形が減少します。
VCVとPCVの吸気時間
強制換気ではI:E比によって吸気時間を決定します。
I:E比とは吸気(I)と呼気(E)の時間比です。
吸気時間はオートPEEP予防に流量―時間曲線の呼気が基線に戻るように設定します。
例)換気回数15回/min、I:E比=1:3
1分間に15回換気するので1回の換気時間は4秒
I:E比は1:3なので
吸気1秒、呼気3秒となります
同調性を改善する目的で設定します。
強制換気は「IE比」や「吸気時間」で設定し、吸気時間を固定しますが、自発換気やその他の換気では「サイクルOFF」や「呼気トリガ」で設定するため、固定できず患者の呼吸次第で吸気時間が変化します。
SIMV
SIMV(synchronized intermittent mandatory ventilation)はA/CとPSVの中間くらいのモードです。
SIMVにはトリガーウインドウと呼ばれるものがあり、
1 トリガーウインドウ内に自発があれば強制換気
2 トリガーウインドウ内に自発がなければ強制換気
3 それ以外は自発呼吸もしくはPSを行います。
トリガーウインドウは設定した換気回数で把握することができます。
SIMVは自発がなければA/Cと同じです。設定した換気回数以上の自発呼吸があるとA/Cでは強制換気、SIMVでは自発 or PSで換気します。
PSV
PSV(Pressure support ventilation)は自発呼吸に対して吸気圧(PS)をかけてサポートするモードです。
主に自発のある患者に使用します。
自発呼吸とPSで換気量を調整します。
PSを調整することで間接的に一回換気量を調整しているしくみです。
自発が消失してもバックアップ換気する機能が搭載されています。
呼吸器波形はPCVと似ていますが実際には吸気時間の関係もあってちょっと違います。
PSVの吸気時間
PSVの吸気時間は「termination」と呼ばれています。
terminationの設定項目は「サイクルOFF」や「ESENS」、「吸気終末」、「呼気トリガ」と呼んだりもします。
吸気初期はガスの流量は多いですが吸気が終わるにつれてガスの流量は減っていきます。
サイクルOFFは設定した%まで減ったら呼気に切り替えます。
サイクルOFFが低いほど吸気時間が延長します。
基本的には同調性を改善する目的で設定します。
rise time
PSVやPCVに設定項目があります。
「立ち上がり時間」や「吸気ライズ」と呼んだりします。
吸気の立ち上がりの速さを設定します。
患者の吸いやすさに関わるので吸気努力の強い患者は立ち上がり時間を短くすると同調性が改善します。
速すぎたり(オーバーシュート)遅すぎ(二段呼吸)ないよう同調性を改善する目的で設定します。
トリガー
トリガーは「引き金」という意味で自発呼吸を検知してガスを送り同調性のある呼吸を生み出します。
トリガーは主流なもので「フロートリガー」と「圧トリガー」の2種類あります。
フロートリガー
ガスを10流し患者が呼吸しなければ
吸気10 → 呼気10
となりますが、患者が呼吸すると
吸気10 → 呼気8
呼気側のガスが2少なくなっています。
これを検知してトリガーするのがフロートリガーです。
圧トリガー
設定した陰圧を検知してトリガーするのが圧トリガーです。
図のように自発があっても設定した圧まで下がらないとガスが送気されません(ミストリガー)。
フロートリガーの方が検知しやすいためフロートリガーが使用されることが多いです。
トリガーの設定はファイティングや無呼吸にならないように低感度(ミストリガー)・高感度(オートトリガー)に気を付けます。
※ミストリガー
トリガーの感度が悪く(鈍感)自発を検知せずガスが送気されない
※オートトリガー
トリガーの感度が良すぎて(敏感)自発以外も自発と認識してガスの送気が行われる
FIO2
人工呼吸器では設定した酸素濃度がそのまま吸気の酸素濃度になります。酸素化を改善する目的で設定します。
PEEP
常に陽圧をかけることで虚脱した肺胞を再開通させます。
主に酸素化目的で設定しますが循環動態に影響(血圧低下など)があるため注意します。酸素化を改善する目的で設定します。
特殊な呼吸器モード
A/C、SIMV、PSモードについて紹介しましたが、実は他にも呼吸器モードはたくさんあります。
APRVモード
酸素化改善目的で高PEEPをかけるモードです。
HFOVモード
酸素化改善目的で高い平均気道内圧を維持しながら高振動によって換気を行うモードです。
PRVCモード
VCV + PCVの良いとこどりのモードです。
PAVモード
同調性改善目的で呼吸器波形から患者の必要としている換気量だけをサポートします。
NAVAモード
同調性改善目的で横隔膜活動電位から患者の必要としている換気量だけをサポートします。
ASVモード
1回換気量と換気回数は設定せず、「分時換気量」を設定し、呼吸サポートするモードです。
INTELLiVENT ASVモード
ETCO2とSpO2を設定し、分時換気量、FIO2、PEEPを自動で呼吸サポートするモードです。
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参考にした資料
[参考書]人工呼吸ケアのすべてがわかる本(2014)
[雑誌]人工呼吸器(INTENSIVIST,2018)