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やさしく呼吸器モード「PAV」をまなぶ

投稿日:3月 6, 2021 更新日:

PAV(proportional assist ventilation)とは

PSV(pressure support ventilation)に似たモードでPSVより同調性が高いモードと言われています。

PSVと似ているためよく比較されますが、換気の仕方は違います。

そのメカニズムについてお話しようと思います。





PAVってどんなモード?

臨床で使われているPAVのモードとしては「PAV+」があります。
(人工呼吸器:ベネットPB840/980)

PAV+は気道抵抗とコンプライアンスを呼吸器波形から計算することで「呼吸に必要な圧」を算出します。

その呼吸に必要な圧に対して「人工呼吸器が何%サポートするか」を設定し、換気させるモードです。

PSVでは「吸気圧」を設定するのに対し、PAV+ではサポート率「%Supp」を設定します。

サポート率を70%に設定すると人工呼吸器は70%サポートし、残りの30%は患者が呼吸を頑張る。というイメージを持てば分かりやすいかと思います。

サポート率を決定するには全体の圧(呼吸に必要な圧)がわからなければなりません。

呼吸に必要な圧は次のように表します。

エラスタンス(E)は「肺の硬さ」を示すもので1/Cで表します。

Cはコンプライアンスという意味で「肺の柔らかさ」を表します。

気道内圧は通常の人工呼吸器でも測定できますが、胸腔内圧は特殊な人工呼吸器でないと測定できません(食道内圧など)

PAV+では吸気時に吸気ポーズをすることでコンプライアンスを測定しています。

4~10呼吸ごとに短い吸気ポーズ(0.3秒)をかけます。

その時にプラトー圧が出現するため、プラトー圧からコンプライアンス(C)を求めます。

C=一回換気量/(プラトー圧-PEEP)

求めたコンプライアンス(C)からさらにエラスタンス(E)を求めます。

E=1/C

吸気ポーズはかなり短いため、呼気筋の収縮は起こりません。

次に呼気時から気道抵抗を求めます。

呼気の流量が最大となる点から5msec後の点と10msec後の点、計3点の容量(V)変化と吸気時で求めたプラトー圧、エラスタンスから肺胞内圧を求めます。

肺胞内圧=プラトー圧-容量(V)×エラスタンス(1/C)

3点の肺胞内圧(瞬時 肺胞内圧)とそれと同じ時間層の気道内圧(瞬時 気道内圧)から計算し、平均の気道抵抗を求めます。

気道抵抗=(肺胞内圧-気道内圧)/流量(Flow)

実際に人工呼吸器で表示される気道抵抗(Rrs)はココからさらに挿管(気管切開)チューブの抵抗を引き、補正した値になります。

流量(Flow)と容量(V)は各瞬間(吸気・呼気)から計算されます。



つらつらと書いてきましたが、要するに人工呼吸器で流量、気道抵抗、容量、エラスタンスを計算し、呼吸に必要な圧力を算出しています。

波形や数値から算出するので、特殊なセンサや道具は使用しないのがPAV+の特徴です。

サポート率(%Supp)は70%に設定すると呼吸に必要な圧の70%を人工呼吸器で患者に送気します。残りの30%は患者の自発呼吸によって換気します。

※注意※

気道抵抗は「呼気」から計算しています。呼気の気道抵抗から吸気のサポート圧を計算しているため、吸気と呼気で気道抵抗が異なる閉塞性肺疾患は注意が必要です。





PSVとPAV+の違い



PSVイメージ

PSVは設定した吸気圧で自発に対して送気します。

患者の吸気努力が強くても、弱くても設定した吸気圧でサポートするのがPSVです。



PAVイメージ

対してPAV+は吸気努力に応じて吸気圧が変化します。

必要な吸気圧に対して設定したサポート率分だけでサポートします。

患者の吸気圧が強い場合、人工呼吸器からサポートは大きくなり、患者の吸気圧が弱い場合、人工呼吸器からのサポートは小さくなります。

吸気努力によってサポート圧が増減するため、吸気努力が強い時はサポート圧が高くなり(サポート率は変わらない)過大な一回換気量や人工呼吸器関連肺障害(VALI)になるリスクがあります。

神経筋疾患やVIDD鎮静薬による呼吸抑制などで吸気努力が小さい時はサポート圧も低くなるため、十分な換気ができなくなることがあります。

吸気努力が極端に強い、もしくは弱い時にPAVは適していません。



PAVのデメリットについて話しましたが、同調性に関してはPSVよりPAVの方が良いと言われています。解説していきます。

オートトリガーが発生した場合、PAVではほとんど人工呼吸器から送気されることはありませんが、PSVでは設定した吸気圧で人工呼吸器から送気され、過剰な換気量になることがあります。

さらにPSVで過剰な一回換気量が入ると内因性PEEP(auto PEEP)が起こるリスクもあります。PAVではこれらのリスクが低く同調性が良いと言われています。

気道抵抗の上昇やコンプライアンス低下で吸気努力を上げて必要な換気量を吸おうとしますが、PAVでは気道抵抗とコンプライアンスに応じてサポート圧が変化するため、VIDDなどの呼吸筋疲労軽減につながると考えられています。





PAVはどんな人に使うの?

これらのことを踏まえると、超急性期を過ぎ、呼吸努力が落ち着いていて、酸素化と換気が自発である程度できる患者にPAVモードを使うのが最適と考えられます。

基本はPSVができる患者になります。

ウイニングにも適していると言われています。





実際の設定

FIO2/PEEPはPAV前のモード時の設定
サポート率(%Supp)は70%

で開始します。

頻呼吸(RR35以上)や低1回換気量(Vt4~5ml/kg以下)ではPEEPを上げます。

PEEPを上げる?と不思議に思うかもしれませんがPAVでは一般的な管理方法です。

PEEPを上げることで肺胞虚脱を改善し、吸気で測定するコンプライアンス(C)の計算が改善されます。

また、内因性PEEP(auto PEEP)を改善し、呼気で測定する気道抵抗(R)の計算が改善されます。

呼吸が落ち着いていればサポート率を10~20%ずつ下げていき、患者の呼吸の割合を増やしていきます。

その時に参考になるのが、呼吸仕事量(WOB)です。

健常人の安静時呼吸仕事量は0.2~0.9J/Lです。

PAV+では呼吸仕事量がリアルタイムで表示されています。快適性の向上目的でこれらもモニタリングしながら設定を決定します。



PAVモード





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参考にした資料

[特集]人工呼吸器(INTENSIVIST,2018)


人工呼吸器の基礎3:モード(Medtronic)
↑無料で見れます。

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