rSO2、StO2とは
頭や腕、足などの酸素飽和度のことです。プローブを貼るだけで導入もかんたん、非侵襲、連続モニタリングできる装置です。
よく見るサチュレーション(SpO2:動脈血酸素飽和度)は指で測定するのに対して、rSO2とStO2は頭や足バージョンと考えるとわかりやすいです
rSO2とStO2の Point!
・組織の「酸素化」を見ている
・正常値はなく変化値(トレンド)を見るのがコツ
・ニルス(NIRS)と呼ぶ人もいる
・低侵襲で連続的にモニタリングできる
・測定に影響のある因子はたくさんある
rSO2、StO2は組織の「酸素化」を見ています。
組織にちゃんと血流があるか。
血流があるうえでちゃんと酸素化されているか。
このようなことを考えながら見るモニタリング項目です。
循環動態を把握するうえでも重要になってきます。
rSO2、StO2はどちらも測定部位の微小血管から酸素飽和度を測定し、数値化したものです。
言葉は違いますが、臨床的には同じようなものです。
rSO2(regional saturation of oxygen)(局所混合血酸素飽和度)
StO2(Tissue oxygen saturation)(組織酸素飽和度)
測定できる装置がそれぞれ違います。
商品として開発する歴史が違うので、呼び方も測定原理も違います。なので、名前が違います。
適応:どんな患者に使うの?
脳外の手術(CEAなど)や心外の手術(大血管など)の周術期管理として、術中に使用したrSO2やStO2をそのままICUで使うことがあります。
術中の操作でrSO2やStO2が低下していないか確認し、脳障害などの合併症を防ぐ目的で使用します。
他にもイベントとして、ECMO導入したときにrSO2やStO2を同時に導入することがあります。
考え方は同じでECMO管理中にrSO2やStO2が低下していないか確認し、脳障害などの合併症を防ぐ目的で使用します。
rSO2とStO2の管理のコツ(正常値)
rSO2とStO2の正常値と呼べるものはありません。
文献では目標値や目安値と書かれているものもあります。
だいたい60~80%で管理することが多いですが、大事なのはどれぐらい変化しているか(トレンド)を見るものです。
(管理の例)
プローブを頭部、足に装着
rSO2とStO2の目標値:60~80%
低下していないか観察!
rSO2とStO2を測定できる装置は非侵襲的で連続的にモニタリングできるので、測定を開始した基準値からどれぐらい変化したか(トレンド)確認することができます。
rSO2とStO2の測定を開始した基準値から 20~30%低下すると虚血の可能性が示唆されるという程度です。
実際に私がICUで経験した例をご紹介します。
StO2の低下例(1)
ECMO管理中の下肢虚血
VA ECMO導入直後にStO2モニタリング開始!
導入直後から右足と左足の数値に差があります。
差はどんどん大きくなり左足のStO2は40%まで低下しました。
同時に左足の拍動消失、皮膚温低下、皮色悪化を認めました。
ECMOの送血管によって左足の動脈が閉塞され、虚血が疑われました。
ECMOの送血管は中枢向きに挿入されているので、左足にも血流が行くように末梢向きの送血枝を追加しました。
するとStO2はみるみる上昇し、症状も改善されました。
StO2の低下例(2)
ECMO管理中の脳の酸素化不良
VA ECMO導入直後にStO2モニタリング開始!
頭と足にプローブをつけてStO2は60%となりました。
とりあえず、これらの値を基準値としました。
導入から2日目に頭のStO2は45%まで低下しました。
血圧上昇、VA ECMO流量低下がみられ、心エコーで心臓をのぞいてみたところ、自己心の収縮力増加が確認されました。
VA ECMO導入時に自己肺を休ませる設定(レストラング)でFIO2を0.4(40%)にしていたので、
脳保護を目的にFIO2を1.0(100%)に設定し、一時的に対処しました。
今回はStO2のご紹介なので、その後の対応は割愛しますが、酸素化が改善しない場合はVV ECMOなどの酸素化を改善する治療を余儀なく行うことがあります。
rSO2とStO2が低下したときの対処
rSO2とStO2が低下した時に考えられること。その時にどう対応すればいいか。対応例をご紹介します。
・PaCO2低下→脳血管収縮
[対応]PaCO2を正常値にする(人工呼吸器設定など)
・SpO2、PaO2低下
[対応] SpO2、PaO2を正常値にする(人工呼吸器設定など)
・体温上昇→代謝亢進
[対応]鎮静薬、クーリング
・カニューレや圧迫で血管の血流減少
[対応]原因の解除
rSO2とStO2は「上昇」することもありますが、問題であれば上記の低下例を逆に考えて対応します。
測定中に念頭に置いておくことは「頭はとにかく虚血によわい!」ということです。脳の血流がなくなれば3分で脳死になるといわれています。
脳は常に気にしながら治療を行いましょう。
rSO2とStO2の測定原理
近赤外線を使ってヘモグロビンをとらえ、酸素飽和度を数値化する「NIRS(near infrared spectroscopy)」と呼ばれる技術が測定原理となっています。
現場ではrSO2とStO2のことを「ニルス」と呼ぶ医療従事者もいます。
SpO2と違い、数値のばらつきが大きく感じるrSO2とStO2ですが、正確には動脈だけでなく静脈も測定しています。
また、近赤外線と脳組織の関係で障害物が多く、ばらつきが大きくなってしまいます。
NIRSを用いた装置はINVOS、FORE-SIGHT、HemoSphere、NIRO、Root(O3)、TOS、SenSmartなどたくさんあります。
※rSO2とStO2以外に組織酸素化指標(TOI:tissue oxygenation index)などがありますが、臨床では似たような意味です。
ほとんどの装置は2~4波長の近赤外線を使ってますが、FORE-SIGHT(StO2)は5波長使っていて、ビリルビンやメラニン、人種の影響(皮膚色)も識別してるので絶対値に近い値と言われています。
適切な測定方法
プローブはTOSを除いてほとんどの装置でディスポーザブル(単回使用)なので、1回きりで使用します。長い時間使ったり、何回も使うともちろん劣化して、正確でなくなってきます。
プローブが剥がれないようにテープや圧迫帯で固定するも考えられますが、カフなどで巻いて加圧しちゃうと測定部分で血流が悪くなってrSO2、StO2は低下します。また、皮膚に貼るだけの非侵襲なプローブですが、まれに発赤が起こることがあるので、強い固定は好ましくないです。
近赤外線を使っているので、測定中は部屋の光が当たらないようにすると値が正確になって良いです。
基本的には心外の手術で使用することが多いrSO2とStO2ですが、合併症(脳障害)は術後に多いので、ICUに来ても継続して使用することがあります。
使用上の注意点
上記の適切な測定を心がけていても注意する面はいくつかあります。
NIRS測定値に影響を受ける因子をご紹介します。
・測定部位
だいたい同じ部位でも少し違います
・測定装置
それぞれ測定のアルゴリズムが違うから
・貧血
装置はヘモグロビンを見ている
・頭蓋骨の厚み
患者で違うから
・脳脊髄液層,頭蓋外血流の影響
血管収縮薬などでrSO2↓
・体位
座位でrSO2↓頭低位でrSO2↓
などなど…
パルスオキシメータで測るSpO2(サチュレーション)は絶対的な信頼があり、低下時には迅速な対応をしますが、rSO2、StO2の値は比較的アバウトに見ている印象です。今後の進化に期待ですね。
オススメ関連記事
循環動態モニタリング はこちら
ヘモスフィア はこちら
SpO2 はこちら
VA ECMOの生理学 はこちら
ECMO周辺のモニター はこちら
その他の記事 はこちら(HP)
参考にした資料