VA ECMOは静脈に脱血用、動脈に送血用カニューラを挿入します。
VV ECMOのカニューラは脱血用も送血用も静脈に挿入します。
ここではカニューラの種類から実際のカニュレーション方法まで紹介したいと思います。
まずカニューラを知ろう!
ECMOのカニューレは「カニューラ」と呼ばれています。
カニューラはどんな種類があるのでしょうか。
そもそも脱血用と送血用のカニューラは違いがあるのでしょうか。
実物を持ってきました。
ECMOのカニューラ

下が脱血用、上が送血用のカニューラになります。
こんなにも「長さ」が違います。
血流が豊富な右房から脱血するために、先端が右房に届くよう脱血カニューラは長く作られています。

脱血用カニューラは長さだけでなく脱血できるようホール(穴)がたくさんあります。
カニューラサイズの選択
カニューラサイズ(太さ)はECMOを管理するうえでかなり重要になってきます。
次の式を黙って見てください。

上の式をハーゲンポアズイユと言います。
流体の「流量」は粘度や圧力などで決定されますが、ここで重要なのは「半径の4乗」が影響していることです。
もっとわかりやすく言うと、「半径が2倍」に太くなると「流量は16倍」多くなるということです。
流量を得るにはカニューラの径がいかに重要だということがわかります。
ひと昔前は細いカニューラが良く使われ、しばしば至適流量が得られないことが多かったです。
最近は太いカニューラを入れる方法が普及してきて、安定した流量、長期的なECMO管理が可能になってきました。
実際のカニューラサイズ選択に関してはガイドラインや会誌で目安となる太さが公表されています。下のほうに載せておきます↓↓
基本は目標とする至適流量が得られるようできるだけ太いカニューラを選択します。
個人的にはVV ECMO、VA ECMOともに少なくとも脱血は22Fr以上、送血は16Fr以上あれば安定して管理できる印象です。自分が知っている限りの各メーカーのカニューラサイズを載せておきます。
カニューラサイズ(各メーカー,2021年)

VA ECMOの場合は動脈に太いカニューラを入れるので出血に気をつけます。
TAVI術中の補助目的で細いカニューラを使用したことがあります。
補助人工心臓(VAD)では高流量が得られるようさらに太いカニューラを使用することがあります。ECMO用カニューラだけではなく、人工心肺用やニプロVAD用のカニューレを使用して5L/min以上の流量が確保できます。また、VV ECMO用のダブルルーメンカニューラ(AVALON)は最大で31Frになります。
回復の見込みがありスピードを重視するなら細くても有利な場面があるかもしれませんが、長期的な管理をするにはやはり太いカニューラが必要です。
VV ECMOのカニューラ選択

表はVV ECMOのカニューラ選択です。日本COVID-19対策ECMOnetで公表されたカニューラサイズの目安です。
エコーで血管径を測定し、血管直径の3分の2を超えないサイズを選択する方法もあります。
カニュレーション部位
カニューラ部位 | VA ECMO | VV ECMO |
動脈 | 大腿動脈、右総頚動脈、腕頭動脈、大動脈、 | |
静脈 | 大腿静脈、右内頸静脈、右房、 | 大腿静脈、右内頸静脈、伏在静脈、内頸静脈単独(AVALON) |
VA ECMOは緊急時が多く、静脈・動脈ともに血管が確保しやすい大腿がよく使われます。
VV ECMOなら右大腿静脈から脱血し、右内頚静脈へ送血するのが一般的です。脱血用のカニューラが長く作られているので、自然とこのような送脱血になります。
VA ECMOカニュレーション

VV ECMOのカニュレーション

後々ブラッドアクセスやCVを入れる時も考慮し、カニュレーション部位の選択時はアクセスとなる箇所を残しておく工夫も必要です。
カニュレーション方法
セルジンガー法
局所麻酔下で、ガイドワイヤーを挿入しダイレーターによって少しずつ穴を大きくしカニュレーションします。

ガイドワイヤーは送血用カニューラと脱血用カニューラで長さが違います。
ガイドワイヤー(送血用・脱血用)

短時間で行え出血も少ないため現在では主流な方法ですが、穿刺がうまくいかない場合は血管損傷による出血や血種ができたり迷入することもあります。穿刺回数はできるだけ少なくします。
X線透視化や超音波エコー下での留置が望ましいと言われており、全例で超音波エコー化穿刺する施設も多いです。
4~5Frのシースだとほとんどのガイドワイヤーは入るため、代用したり、あらかじめ入れて置いたりする工夫もあります。ショック患者では拍動があるうちに早めにシースを入れておきます。
模擬血管に市販の豆腐をのせ、その上からエコー化穿刺する練習方法もあります。
セルジンガー法については下記の記事を参考にしてください。
「ブラッドアクセス挿入」の記事はこちら
カットダウン法
局所麻酔下でカニューラ部位にしたい血管を皮膚切開、剥離で露出させ、鉗子で血行を遮断した後に血管を切開し、カニュレーションします。
ショックバイタルや肥満、小児でセルジンガー法がうまくいかない時に行われる印象です。
確実にカニュレーションができますが技術・外科の医師が必要なのと、カニュレーションまでに時間がかかります。導入よりかはカニューラ部位の変更時によく行われます。
半セルジンガー(セミカットダウン)
名前の通り「セルジンガー+カットダウン」みたいなものです。
カットダウンのように皮膚切開し血管を露出させたら血管を遮断せずにセルジンガーでカニューラを留置します。
他にも開胸で右房と大動脈に直接カニュレーションするセントラルECMOという方法があります。人工心肺の離脱困難やVAD管理で導入されます。この時はECMO用のカニューラではなく、人工心肺用のカニューレが使用されます。
最後に
カニュレーションがうまくいき、ECMOが開始できれば少しずつ周りの環境を整えていきます。
VAでの大腿送血の場合、カニューラ挿入したこの時点で送血方向とは逆向きに4、5FrのシースやAラインを枝回路にて送血し下肢虚血を予防・対策します。
ECMO管理時にカニューラの位置を正そうとカニューラを深く入れるのは感染リスクがあり衛生面でよくないですが、カニューラを引くことは問題ないのでこの時に深めに入れておきます。脱血不良対策です。
カニュレーションがうまくいき、目標の流量が得られれば驚くほど管理がしやすくなります。
ベント目的で左心室に脱血管を追加する施設もあります。 VA ECMO、VV ECMOの他にも二酸化炭素除去目的とした「AV ECMO」や高流量を目的とした右房脱血+大動脈送血の「Central ECMO」や脱血を追加した「VV-A ECMO」、VA ECMO中の心臓、脳虚血を改善目的とした「V-VA ECMO」などされている施設もあります。
カニュレーション練習風景
ECMOカニュレーション練習用模擬血管
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参考にした資料
[参考書]ECMO・PCPSバイブル(各学会,2021)
[参考書]呼吸ECMOマニュアル(2014)
[雑誌]ECMO(INTENSIVIST,2013)
[指針]ELSOガイドラインHP(各学会)
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