ECMO使用中の生理学については以前にご紹介しました。
今回は患者の体内の話は置いといて、機械側のECMO回路についてご紹介します。
ECMO装置の Point!
・ECMOの基本回路は「遠心ポンプ」「人工肺」の2つ
・オプションとして圧力計や血ガスモニターなどがある(詳しくはこちら)
・遠心ポンプは高い圧力が発生するので注意する(揚程)
・人工肺では水や血漿が出てくることがあるので注意する(ウェットラング・セーラムリーク)
下の図は基本的なECMO回路です。
施設によって冷温水槽やモニターなどの機器を追加したり、医療機器メーカーと連携してオリジナルの回路をつくったり、さまざまなカスタマイズがされています。
遠心ポンプ
磁力によってポンプヘッド内にある羽を回転させることで遠心力が生じ、流入した血液を遠心力によって送血します。
現在では羽根型が主流ですが、他にもコーン型や流路型などの遠心ポンプがあります。
遠心ポンプはポンプ前後(前負荷・後負荷)の影響で流量が変化します。
前負荷で代表的なのは血管内脱水です。他にも細いカニューラを使用している、カニューラの位置がおかしい、脱血側回路の折れ曲がり、などなどです。いわゆる脱血不良です。
後負荷で代表的なのは人工肺目詰まりや回路状態(カニューラ位置・折れ曲がり)です。
細いカニューラ、カニューラの位置、送血側カニューラ内に血栓、人工肺や回路内凝固、血圧上昇、送血側回路の折れ曲がり、などなどです。
これら前負荷・後負荷の影響で流量は低下します。
遠心ポンプではなく小児領域でローラーポンプを使用する施設もあります。 前負荷・後負荷の影響で流量が変動せず、低流量も維持できるからです。
遠心ポンプ前の陰圧と後の陽圧の差を「揚程」と言います。遠心ポンプは揚程圧を作り、回路を循環させています。
逆に圧が下がる(圧損失)部分は人工肺とカニューラ、回路チューブになります。
カニューラは各カタログと添付文書に圧損失が記載されています。あと成人のECMO回路でチューブ径は3/8インチが多く、流量5L/minで1mあたり100mmHgほど圧力損失します。
図を見てわかるように、ポンプ前は陰圧、ポンプ後は陽圧となっている。脱血側では空気混入、送血側では大量出血の危険性があるため、三方活栓の操作には十分注意が必要です。
遠心ポンプコントローラ
遠心ポンプの回転数を調整します。
流量やアラーム内容、バッテリー情報などをモニターしています。
回転数を上げれば基本的に流量は上がりますが、前負荷・後負荷の影響で流量は変化するため、経時的な観察が必要です。
バッテリーは搬送時で使用するため常に充電しておきます。最低でも1時間は作動しなければなりません。
停電時はバッテリーを使用することになります。遠心ポンプ以外の必要性の低いものはできるだけ使わないようにします。冷温水槽は特に電力を使います。
バッテリーもなくなれば手回しハンドルを使うことになります。後述↓
流量計
超音波を用いたトランジットタイム型血流計が主流です。
遠心ポンプでは回転数と流量が比例しないため、流量計をつけないと流量がわかりません。必ずつけます。
手回しハンドル
人力駆動の遠心ポンプコントローラです。
停電時や搬送時は内部バッテリーを使用しますが、内部バッテリーがなくなったとしても手回しで駆動可能です。
バッテリーは最低1時間は駆動させるようにしなければならないとガイドラインでも記載されています。
人工肺
流入した血液にガス交換(二酸化炭素の除去、酸素化)を行います。
多孔質膜・非対称膜・複合膜などの種類があります。
人工肺の中には中空糸と呼ばれる細い管が無数に入ってます。
中空糸の
内側にガス
外側に血液
を灌流させて、その間でガス交換を行います。
ガスは酸素と空気が混ざったものでガスブレンダーによって調整します。
ガスの配管をつなぎ酸素と空気の総ガス流量とFIO2を調整して人工肺に混合ガスを送ります。
ガスブレンダー
基本は血液流量と総ガス流量は1:1にします。
送血側PaO2 100~300mmHg
送血側PaCO2 35~45mmHg
になるように総ガス流量、FIO2を調整します。
理論上ではありますが、
酸素供給は乳児で6ml/kg/min、小児で4~5ml/kg/min、成人で3ml/kg/min 必要になります(=酸素消費量)
二酸化炭素除去は血液流量0.5L/m2/min以上あれば体内で産生された二酸化炭素はすべて除去できる(25%)と言われている。(健常人血液1LのうちCO2 500ml、CO2産生量200~250ml/min)
通常、送血側PaO2 100~300mmHgだと送血側酸素飽和度は100%になりますが、95%を下回ると人工肺の劣化しています。ガスフラッシュを行っても改善されなければ人工肺を交換します。
移動中など配管が使えない状況では酸素ボンベを使用して人工肺にガス(酸素)の供給を行います。
酸素ボンベ
ウェットラング
治療中は人工肺が結露することが多く、ガスの出口側に水滴が発生します。これを
「ウェットラング」
と言います。
結露している間はガス交換能が落ちますが総ガス流量を10L/min、30秒~1分間ぐらい高流量で流す(ガスフラッシュ)と水滴が排除でき、ほとんどの場合ガス交換能は元に戻ります。
経時的に行う施設が多く、最近では自動でガスフラッシュを行うECMO装置やベアハッガーを用いてガス出口側を温めて結露発生を防止する対策をされています。
セーラムリーク
ウェットラングでは水滴が出るのに対し黄色い泡が出ることがあります。
これを
セーラムリーク(血漿リーク)
と言います。
長期使用によって血漿成分がガス相に移動してガス出口側に漏れ出る現象です。
一度起こるとガス交換能は戻らない他、血液成分が失われていくので人工肺の交換を迅速に行います。
近年は人工肺性能の向上でセーラムリークの頻度が少なったようです。
オススメ関連記事
PCPS・ECMO はこちら
酸素ボンベ はこちら
抗凝固療法 はこちら
その他の記事 はこちら(HP)
参考にした資料
[参考書]ECMO・PCPSバイブル(各学会,2021)
[参考書]呼吸ECMOマニュアル(2014)
[雑誌]ECMO(INTENSIVIST,2013)
[指針]ELSOガイドラインHP(各学会)
↑無料で見れます。