その他機器 治療機器

やさしく「ペースメーカー設定」をまなぶ

投稿日:9月 28, 2020 更新日:

ペースメーカーの設定項目って多いうえにイマイチ理解できないですよね。

今回は細かい説明はせず、ペースメーカーの必要なところ。覚えておいたほうが良いところをピックアップし、イラスト多めに解説しました。

それでも難しく感じるかもしれませんが、そもそも理解しにくいものと思って構いません。

分類で分けると

ペースメーカーの設定値
モード
・設定レート
・不応期
・ペーシング
・センシング

の5つになります。

ペースメーカーのモードはこちら





設定レート

ペースメーカーが刺激を行う心拍数(レート)を設定します。

例)設定レート:60 bpm

であれば

1分間(60秒)で60回刺激するという意味なので

刺激と刺激の間隔は1秒になります。

固定レート(AOOVOO)では自己脈があっても感知しないため、設定レートのままひたすら刺激します。

AAIVVIでは設定レートで刺激しますが、自己脈があった時は刺激(ペーシング)をやめて自己脈を優先します。

患者の自己心拍数が50 bpmの場合、

1 AAI設定レート60 bpmだと患者の心拍数60 bpm(ペースメーカー
2 AAI設定レート40 bpmだと患者の心拍数50 bpm(自己脈)

ペーシング設定がしっかりされていれば上のようになります。

ペースメーカー導入時は「1」の方法で「ペーシング」ができているか確認します。「2」の方法で「センシング」ができているか確認します。

設定レートはすべてのモードで設定します。





設定レート(DDDの場合)

AAIVVIの設定レートは上記のように単純ですが、DDDの設定レートは心房(心室)単体というわけにはいかず、心房と心室の組み合わせもあるので少し複雑になります。

項目は

DDDの設定レート
・最低レート
・最高レート
・AVディレイ

の3つになります。



最低レート

ひとことで言うと「P波の最低回数」です。

「lower rate」や「lower rate limit」と呼ばれます。

lower rateを60bpmに設定すると心拍数が60 bpm以上になるよう心房を刺激し、P波を発生させます。

この時、

自己脈が50 bpmだとペースメーカーで心房を刺激するためP波は60 bpmになります。
自己脈が100 bpmだとペースメーカーは感知してP波は100 bpmになります。

この60 bpmのP波と100 bpmのP波をすべて同期して心室を刺激するかどうかは次の「最高レート」で決まります。



最高レート

ひとことで言うと「QRS波の最大回数」です。

「max tracking rate」や「upper rate」と呼ばれます。

upper rateを90回に設定すると心拍数が90回以下になるよう心室を刺激し、QRS波を発生させます。

この時、

P波が60 bpmだとペースメーカーで心室を同じ回数同期するためQRS波は60 bpmになります。
P波が100 bpmだとペースメーカーは90回同期するためQRS波は90 bpmになります。(房室ブロックがなければ100bpmになります)



AVディレイ(PQ時間)

ひとことで言うと「P波とQRS波の間の時間」です。

PQ時間とも言います。

AVディレイを200 msec(0.2秒)に設定すると、P波の0.2秒後に心室を刺激してQRS波を発生させます。

この0.2秒の間に自己のQRS波があれば優先するため、PQ時間は短くなります。

←0.2秒後心室ペーシング

自己QRS波→

※A-V delay





たまに起こる「フュージョン」現象

現場ではたまにフュージョンという言葉を聞くことがあります。

これは自己脈とペーシングが「同時」に出る現象です。すなわち、フュージョン(融合)です。

このように自己脈と設定レートが同じ時に起こります。また、突然のAPCやVPCが出た時にフュージョンが起こります。

この時は設定レートを変更することがありますので、医師や臨床工学技士に相談します。





要するに設定レートは・・・

このように設定レートによって最低のレートを確保できたり、レートを増やすこともできます。

最低のレートを確保すれば基本は自己脈になるので、電池消耗を最小限にすることができます。

設定レートで刺激すればするほど、レートは一定の値で落ち着きますが、電池の消耗が早くなります。よく考えて話し合って設定レートを決定します。

植込み型ペースメーカーでは電池が少なくなったときに本体ごと交換になるため、患者の皮膚を切ったり大がかりで侵襲も大きくなります。なので、このように電池消耗に気を配ります。

体外式ペースメーカーでは本体は体外にあるので、9Vアルカリ電池を交換すればよいので、電池消耗を気にすることはあまりありません。





不応期

不応期(refractory period)とは

心臓が収縮すると心臓の血液が体中に送られます。

この心臓の収縮は短い間隔で二回連続行われると、一回目の拍出は全身へちゃんと送られますが、二回目の拍出は心臓に血液が充満せずに心臓が収縮されるため、全身へ送られる血液量が少なくなります。

この場合、一回目の収縮には意味がありますが、二回目の収縮にはあまり効果がありません。

ペースメーカーでは、この二回目の収縮を考えず(無視して)設定レートで刺激を行います。

この無視する時間帯を「不応期」と言います。

上の画像では

設定レート 60 bpm(1秒)
不応期 400 msec(0.4秒)

で設定されています。

刺激、感知したときは不応期が発生します。

4拍目の自己脈は、3拍目の自己脈の不応期にかかっているので、ペースメーカーは感知しません。

5拍目のペーシング波形からさかのぼると、3拍目の間隔が1秒なので感知されていることが分かり、4拍目が無視されていることが分かります。

AAIではP波、VVIではQRS波で不応期が発生します。

不応期はAAI、VVI、DDDで設定します。





不応期(DDDの場合)

DDDでは心房と心室のリードがあり、より生理的な心臓電気活動が実現されています。

生理的な不応期の設定は心房(心室)単体ではなく、組み合わせによるため複雑になります。

わかりやすく分けると

DDDの不応期
・心房の不応期
・心室の不応期

の2種類になります。



心房の不応期

PVARP(post ventricular atrial refractory period)と言われ、

ひとことで表すなら「心室興奮後の心房不応期」です。

心室にペーシング(刺激)したときに、心室に送った電気を間違って心房の興奮として感知しないように、心房の不応期は心室興奮後に設定します。

PVARPは「自動」に設定すると患者の活動に合わせて変化します。

理論上はAVディレイ+PVARP以下にUpper rateを設定しても意味がありません。



心室の不応期

ventricular refractoryと言われ、

VVIの不応期と同じ考え方です。

設定例
PVARP : 300 msec
ventricular refractory : 350 msec



不応期のイメージ





ペーシング出力

ペーシングは「ペースメーカーの刺激の強さ」になります。

ペーシング出力は二つの要素で決まります。

パルス振幅(pulse amplitude)[単位:V]
パルス幅(pulse width)[単位:msec]

パルス振幅が高いほど、パルス幅が長いほど、ペーシング出力は大きくなり、ペーシングが成功しやすいです。

しかし、出力が大きいほど電力を消費するため、電池の消耗が早いです。

ペーシング出力が小さすぎると自己脈が現れないです(ペーシング不全)

現在ではペースメーカー出力の単位が「V(ボルト)」表記になっているのが主流だと思います。

これは定電流型(電流が一定で電圧が可変)なので、ペーシング出力(電圧)を変更して設定します。

昔は定電流型も定電圧型もありましたが、現在は最適な電流値がわかってきたため電流値が固定(定電流型)になっています。

通常はペーシングが成功する出力と成功しない出力の境目(刺激閾値)を測定し、刺激閾値の2倍あたりでペーシング出力を決定します。

ペーシング閾値を設定する場面では、通常はペーシングを高めに設定し(この時、自己脈はある)、徐々に下げていって自己脈が現れなくなります。この現れなくなった出力を現場では「乗り落ち」と呼びます。この乗り落ちする前の出力値が「閾値」になります。

例えば、出力1.1V(自己脈あり)→1.0V(自己脈あり)→0.9V(自己脈なし)

この経過であれば0.9Vが「乗り落ち」です。1.0Vが「閾値」になります。閾値が少々変わってもいいように余裕をもって閾値の2倍の2.0Vにします。

ペーシング不全

AAIではスパイク波形(ペーシング)の後にP波が現れます。

画像の1、2、4拍目はスパイクの後にP波が出現していますが、3拍目はスパイクの後にP波が見られないため、ペースメーカーの出力不足によるペーシング不全です。

ペーシング閾値すれすれの出力設定なので、ペーシングできたり、できなかったりしているのです。

通常は出力(パルス振幅)を上げて対処します。

リードの先端が抜けて別の場所(心室→心房など)に留置されると、出力を上げても刺激されないことがあります。その場合はリードの再留置を行います。

ペーシングの安定性を確認するために患者に深呼吸や咳払いを行ってもらい、ペーシング不全が起きないか確認します。

ペーシング出力を最大にして横隔膜の刺激による腹部痙攣(twitching)が起きないか確認します。twitchingが起きるとQOLがかなり悪くなってしまいます。

閾値の経時的変化

ペースメーカーを植え込んだ後でも、時間がたってれば閾値が変わってることがあります。

これはリード先端の接着具合、ペーシングによる心筋のダメージが原因です。

このように数日たった後でも閾値が変わることがあるため、ペーシング出力を再設定することもあります。

この時に「このまえ閾値の設定したじゃん・・・」などと思わないように、経時的な閾値変化は知っておきましょう。





センシング感度

センシングを決める前に「心内波高値」を測定します。

波高値は自己心拍の電位の大きさになります。

波高値は高いほど良く、心房で1mV、心室で10mV以上が望ましいです。

センシングは「ペースメーカーが心臓興奮を感知する感度」になります。

AAIの場合、

感度が低すぎる(感知電圧が高すぎる)とP波(波高値)が感知電圧にかからないため、P波を感知できません。(アンダーセンシング)

感度が高すぎる(感知電圧が低すぎる)とP波(波高値)が感知電圧にかかり、P波を感知できますが、筋電図やノイズも感知してしまい「抑制」されてしまいます。(オーバーセンシング)

通常はセンシングが成功する感度と成功しない感度の境目(閾値)を測定し、閾値の1/2倍あたりでセンシング感度を決定します。

厳密にはP波やQRS波の区別に「周波数」も用いています。



オーバーセンシング

センシング感度の値が低すぎて(敏感)筋電図などの小さな電位も「P波」と誤認してセンシングしてしまうことをオーバーセンシングと言います。

画像では筋電図=P波とペースメーカーがオーバーセンシングしてしまい、しばらくの間ペーシングが抑制されています。

センシング感度を調整します。

改善されなければリードの断線や機器の故障を疑います。



アンダーセンシング

センシング感度の値が高すぎて(鈍感)自己のP波をセンシング(感知)しないことをアンダーセンシングと言います。

画像では3拍目の自己P波(黒線)が不応期を脱しているのにセンシングせず無視している状態になっています。

このようにセンシングが鈍感であるとAAIAOOVVIだとVOOみたいになるので注意が必要です。

センシング感度を調整します。

改善されなければリードの断線や機器の故障を疑います。





リード抵抗

リード抵抗はリードインピーダンスとも言います。

挿入したリードがちゃんと接触しているかリード抵抗で確認します。

リード抵抗は一般的に500~1500Ωが正常です。

リード抵抗が高すぎると(1500Ω以上)リードと心臓の接触不良かリードの断線が疑われます。

リード抵抗が低すぎる(500Ω以下)と電流がリークしている危険性があります。





オススメ関連記事

ペースメーカー  はこちら

ペースメーカーのモード はこちら

植込み型除細動器(ICD)  はこちら

心臓再同期療法(CRT)  はこちら

不整脈  はこちら

心電図・12誘導心電計  はこちら

その他の記事  はこちら(HP)





参考にした資料

[参考書]ペースメーカー心電図が好きになる(2014)

[参考書]レジデントのためのこれだけ心電図(2018)
↑めちゃくちゃわかりやすいです。書いた人を胴上げしたいです。

-その他機器, 治療機器

Copyright© 臨床工学技士の ななめ読み ななめ書き , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.