Impella 補助循環

やさしく「インペラーの管理とトラブル対応」をまなぶ

投稿日:5月 4, 2020 更新日:

インペラー(Impella)とは

流入部の左心室から脱血し、吐出部の大動脈基部へ送血することで心機能の補助を行う装置です。

今回はインペラーのICUでの管理方法をご紹介します。

インペラー管理のPoint!
・大動脈圧(圧波形)・パルス状(モータ波形)が正しい位置波形
・パージ液がしっかり流れていることを確認する(パージ流量・圧)
・出血予防でシースは「挿入時の角度」を維持する
・「溶血」は代表的な合併症





おもな観察項目

挿入後やICUでの観察項目をご紹介します。

インペラーの位置・パージシステム・制御装置・穿刺部やその他のカテーテル管理・血行動態を観察します。





インペラーの位置確認

インペラーの位置は毎日確認します。

ベッドも患者も動かしてないから大丈夫、と思っても血行動態が変わったり(左心室のボリュームや収縮力)、装置の設定変更(補助レベル)をするとインペラーの位置が変わることがあります。

他にも体位交換とか考えると要因はたくさんありそうですね。

日々の確認は大事なのです。

すぐ確認できること
・固定リングが閉まっている状態で深度マーカーを確認
・装置画面を確認します。赤の圧画面が大動脈圧波形、緑のモータ波形がパルス状になっていることを確認

これらの方法であればベッドサイドですぐ確認できます。

位置がずれているような所見があれば次にエコー装置を持ってきて確認します。

心エコーでインペラーの吸入部が左心室内にあり、吐出部が大動脈内にあることを確認します。

心室内で位置が少しずれている場合はエコーと装置画面(圧波形とモータ波形)を見ながら位置調整を行います。

ちなみに胸写はこんな感じです。

インペラーが左心室から完全に抜けて大動脈内にある場合は、カテ室に行き透視化で左心室内に留置します。





パージシステムの確認

パージシステムとは?

インペラーは挿入時にこのようなカセットを装置に装着します。



パージカセット

これがパージシステムです。

パージシステムとはインペラーのモータ内に血液が入らないようにブドウ糖液(ヘパリン入り)を流すシステムのことです。



パージシステム(イメージ)

使われるブドウ糖液はもっとも主流なもので5%ブドウ糖液バッグ(500ml)にヘパリンを入れ20単位/ml程度(ヘパリン原液10ml)にします。もちろん施設で異なります。

メジャーな管理方法ではないですが、出血や凝固異常の対策として、米国ではヘパリンの代わりに重炭酸ナトリウムを使う方法があります。

パージシステムは自動制御なので、モニタリングしているパージ圧からパージ流量を決めているので流量は増減します。

正確な消費量はわかりませんが、500mlのブドウ糖液だとだいたい1日(24時間)くらいでなくなります。

ブドウ糖液を交換する時はヘパリン入りブドウ糖液を準備して、装置画面から「パージメニュー」→「パージ液の交換」をタッチしてあとはガイダンス通りに交換します。

パージ圧は300mmHg(パージ流量30ml/h)~1100mmHg(パージ流量2ml/h)の範囲になるように自動で調節されています。パージ圧がこの範囲外になるときはアラームが発生します。

パージ圧低下アラーム(パージ圧300mmHg以下)

一気にパージ圧が下がり、パージ流量が上がるときは「回路漏れ」が考えられます。パージ液が漏れていたり、接続不良があると起こります。他にも使用しているブドウ糖液の濃度が低い時に発生する可能性があります。※「パージシステム液漏れアラーム」となることもあります(100mmHg以下)。20分以上経過してもアラームが解除されない場合はパージカセットの原因が考えられるので、装置画面から「パージメニュー」→「パージシステムの交換」をタッチし、ガイダンス通り従います。

パージ圧上昇アラーム(パージ圧1100mmHg以上)

一気にパージ圧が上がり、パージ流量が下がるときは「血栓」が疑われます。他にも回路に折れ曲がりがあったり、ブドウ糖液の濃度が高い時に発生する可能性があります。※「パージシステム閉塞アラーム」となることもあります(パージ流量1ml/h以下)。アラームが解除されない場合はパージカセットの原因が考えられるので、装置画面から「パージメニュー」→「パージシステムの交換」をタッチし、ガイダンス通り従います。





制御装置

上で説明したようにポンプの位置画面(圧波形・モータ波形)そしてパージシステム(パージ圧・パージ流量)を定期的に確認します。



インペラー装置画面

モータ消費電流は極端な上昇がないか確認し、消費電流増加によるポンプ停止を未然に防ぎます。「ポンプ停止閾値[mA]」

必要に応じて補助レベルを変更します。例えば自己心が回復してきてImpellaの補助レベルを下げたいときはP-7→P-6と下げていったり、循環動態に必要な流量が足りず、補助レベルを上げたいときはP-7→P-8とったように変更します。

評価方法の1つとして自己の心拍出量(Cardiac Output)をモニタリングすることもあります。このとき、インペラーとは別にスワンガンツカテーテルというカテーテルを挿入します。スワンガンツカテーテルを入れると全体の心拍出量がわかります。



スワンガンツカテーテル

インペラー流量 + 自己心拍出量 = 全体の心拍出量(スワンガンツカテーテル)

心拍出量をインペラーの制御装置に入力すると連続的にモニタリングできます。

制御装置で忘れてはならないのが電源です。プラグをしっかりコンセントにさしてください。インペラーにはバッテリーが搭載されていますが、1時間程度しかもちません。フル充電は5時間程度かかります。





穿刺部やカテーテル管理

抗凝固療法:インペラーは異物なので、体内に入れると血液が凝固してしまいます。凝固が起こらないように抗凝固療法を行います。ICUではACT「160~180秒」程度で管理します。

出血予防:留置用シースが適切に固定されているか確認します。ポイントはシースの「角度」です。出血予防のためインペラーを挿入した角度を維持できるようにガーゼ等をあてて、固定します。インペラーは動脈に留置しているため角度が適切でないと穿刺部から出血が起こる可能性があります。他にも気をつけるのは角度・位置が変わらないようにヘッドアップは30°以内(大腿動脈アクセスの場合)にし、体位交換はできるだけしないようにします。

下肢虚血:インペラーの挿入部から末梢にかけて動脈の灌流を確認します。インペラーを挿入すると挿入部の動脈が狭くなって虚血する可能性があるからです。左足からインペラーが挿入されていれば左足背・左後脛骨動脈の拍動を確認します。下肢虚血が見られたら、他の動脈やECMOの枝回路などを使って順行性に送血するなどの対応を考慮する必要があります。





血行動態

血圧や心拍出量、乳酸値などの臓器灌流指標を用いて血行動態が正常に保たれているか確認します。

尿量や尿色を確認し、減少していないことを確認します。循環動態の把握だけでなく、溶血が起こる可能性も考慮して日々観察しておきます。

他にも使用している強心薬・昇圧剤の投与量を確認します。





その他のトラブル対応

溶血

溶血はインペラーの代表的な合併症になります。インペラーは血液に機械的なストレス(せん断応力)がかかるため、溶血を起こすことがあります。

暗赤色や赤褐色の尿、ヘモグロビン値低下、急性腎不全などの兆候が見られます。

鑑別としては血尿(赤色尿)を除外するために簡易尿検査、血漿遊離ヘモグロビン、遠心分離した血漿の色を目視などの方法があります。

他にもミオグロビン尿、輸血や薬剤による赤色尿を鑑別する必要があります。

溶血の原因はインペラーの留置位置かボリューム不足が多いです。

心エコーや透視化で位置調整したり、輸液することを検討します。

ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)

ヘパリンを入れずそのままのブドウ糖液を使う方法が考えられますが、メーカー推奨ではありません。

インペラーは「ヘパリン入りブドウ糖液」を入れる想定で設計されているので、そのままのブドウ糖液を使ったり、他の抗凝固薬(直接トロンビン阻害剤など)を入れたブドウ糖液での稼働は安全性が確認されていません。

臨床上のリスクを考えたうえで判断します。

心臓マッサージ

インペラー挿入下でも「心マOK」です。

CPR(心肺蘇生)で胸骨圧迫が必要な場合は、まずはじめにインペラーの補助レベルをP-2に下げます。

その後に心臓マッサージを行います。

胸骨圧迫をしてもインペラーが折れ曲がったり、心臓が傷ついたりといった物理的なダメージはないので心マしてOKと言われています。

心マ後は少しカテが抜けるくらいの影響はあるので、蘇生後はインペラーの留置位置を装置画面やエコー、透視で確認し、補助レベルをもとに戻します。

除細動

インペラー挿入下でも「除細動OK」です。

インペラーの制御装置は耐除細動形CF形装着部なので、緊急時は補助レベルはそのままで除細動を行います。

除細動後はインペラーの留置位置を装置画面やエコー、透視で確認します。

インペラーの停止

再始動を試します。

改善されなければインペラーを左心室は早めに引き抜きます。

ポンプが回っていないインペラーはただの空洞の筒なので、モータが回っていない状態では大動脈→左心室へと血液が逆流してしまいます。

こういった逆流をいち早く阻止するためにもインペラーを早めに引き抜きます。

その後は必要に応じて再留置したり離脱を検討します。

インペラーはCPタイプ8日、5.5タイプ30日の使用日数が想定された設計になっています。

ポンプ停止を未然に予防するためにモータ消費電流の観察が参考になると言われています。

ポンプが停止する平均モータ消費電流[mA]の閾値は図のようになっています。(「制御装置の確認」参照)

モータ消費電流は数時間で上昇することもあれば、数日かけて上昇することもあります。

補助レベルによっても違うため、極端な上昇がないか確認しておきます。





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参考にした資料

[参考書]臨床工学技士集中治療テキスト(日本集中治療医学会,2019)

[指針]急性・慢性心不全診療ガイドライン(各学会,2017)


[HP]Impella CP 動画(日本アビオメッド)

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