CHDFに慣れている施設では気になることは少ないですが、
不慣れな方はアラームがとても気になることと思います。
そんな方に向けてCHDFのアラームと対応についてご紹介しようと思います。
CHDFアラームの Point!
・よく鳴るアラームは「脱血不良」「圧上昇」「透析液・補充液アラーム」「シリンジ残量」の4つ!
・緊急度の高いアラームは「脱血不良」「圧上昇」「気泡検知」※アラーム中は血液ポンプが止まる
・血液ポンプが止まると血液凝固しやすいので、できるだけ早く対応する
・緊急度の低いアラームは「透析液・補充液」「シリンジ残量」
脱血不良アラーム
脱血圧は通常「陰圧(マイナス)」で低いほど脱血状態が悪いです。(脱血しにくい)
徐々に圧が低下するわけではなく、たいていの場合は圧が急速に低下し、アラームが動作します。(約-200mmHg)
アラームが鳴り、対処するとすぐ解除される場合がほとんどですが、対処してもアラームが解除されない場合もあります。原因別に記載していきます。
原因1 脱血側回路の屈曲、ねじれ(キンク)
脱血側回路に折れ曲がりやベッドで挟み込んでいたりすると、脱血圧センサー部で陰圧を感知し、アラームが発生します。目に見えるキンクがなくてもカテーテルが血管内で折れ曲がっていて、脱血不良が発生することがあります。挿入の仕方が悪かったり、ギャッチアップをしたり(ブラッドアクセスが大腿静脈時)すると起こるので、胸写での確認も重要です。
[対処]
脱血側回路の確認し、原因の解除をします。カテーテルが折れ曲がっていて復元が不可能と判断した場合はカテーテルの再挿入を行います。
原因2 カテーテル先端が血管壁にへばりつく
ブラッドアクセスは先端が血流の豊富な上大静脈(or下大静脈)につくよう留置します。
先端にある脱血孔が何らかの原因で血管壁にひっつき、吸引する入口が塞がれた状態になり、アラームが発生します。
先端がへばりつく原因としては「①体位交換や気管吸引」「②血管内脱水」「③カテーテルの位置不良」が挙げられます。
①体位交換や気管吸引
体位交換や気管吸引などの一時的な処置で先端がへばりつくことがあります。
[対処]
原因の解除をすると大抵の場合は元に戻ります。
②血管内脱水
血管内ボリュームが減少することによって血管径が細くなり、カテーテル先端が血管壁に当たることがあります。AKIでは溢水を避けるためにCHDFで除水をかけますが、除水しすぎると血管内脱水が現れます。他にも尿量や出血といったOUTバランス、浮腫、SVV(呼吸器の設定が一定でも血圧波形が揺らいでいないか、もしくは体位交換時で血圧波形が揺らいでいないか)、アルブミン値、乳酸値が血管内脱水の評価となり予防に繋がるかもしれません。
[対処]
除水の停止、輸液、回路が固まりやすくなりますが設定(血流量↓)変更が挙げられます。
③カテーテルの位置不良
カテーテルの先端そのものの位置が悪く、脱血できないことがあります。カテーテルが短くCVまで届いていなかったり、穿孔していたり、はたまた動脈に挿入していたという事例もあります。
[対処]
効率は落ちますが脱血と送血の逆接続、カテーテルの移動・回転、設定(血流量↓)変更、適正な長さのカテーテルの交換が挙げられます。回転させるにしても、カテーテル先端の形状が分かっていれば、90度回せばよいか180度回せばよいかわかってきます。
カテーテルの回転
脱血と送血の逆接続
原因3 血栓形成
カテーテル内部や先端部に血栓ができてしまい、脱血路を塞いでしまうことがあります。適正な抗凝固管理が予防に繋がります。
[対処]
シリンジで吸引・フラッシュ、脱血と送血の逆接続、設定(血流量↓)、カテーテルの交換が挙げられます。
それ以外の方法として、ウロキナーゼで溶解する方法がある。国外ではt-PAが使われることもあります。
原因
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対処
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脱血側回路の屈曲、ねじれ(キンク)
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原因の解除
カテーテルの交換
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カテーテル先端が血管壁にへばりつく
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体位交換
気管吸引
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原因の解除
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血管内脱水
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除水停止
輸液
設定(血流量↓)変更
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カテーテルの
位置不良
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AV逆接続
カテーテルの移動・回転
設定(血流量↓)変更
カテーテルの交換
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血栓形成
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シリンジで吸引・フラッシュ
AV逆接続
設定(血流量↓)変更
カテーテル交換
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静脈圧・入口圧上昇アラーム
血液濾過器・静脈チャンバー以降に問題があると圧センサー部で高圧を検知し、静脈圧・入口圧上昇アラームが発生します。
CHDFの場合は血流量が保たれている限り、静脈圧と入口圧が同時に上昇することが多く、経時的な観察が必要です。
原因1 送血回路の屈曲、ねじれ(キンク)
送血側回路に折れ曲がりやベッドで挟み込んでいたりすると、静脈圧・入口圧センサー部で陽圧を感知し、アラームが発生します。目に見えるキンクがなくてもカテーテルが血管内で折れ曲がっていて、静脈圧・入口圧上昇アラームが発生することがあります。挿入の仕方が悪かったり、ギャッチアップをしたり(ブラッドアクセスが大腿静脈時)すると起こるので、胸写での確認が重要です。
[対処]
送血側回路の確認し、原因の解除をします。カテーテルが折れ曲がっていて復元が不可能と判断した場合はカテーテルの再挿入を行います。
原因2 回路内凝固
回路内に発生した血栓によって目詰まりが起こり、アラームが発生します。膜の目詰まりであれば入口圧が、静脈チャンバーやカテーテル内であれば静脈圧・入口圧がともに上昇します。日本では後希釈タイプが主流であるため、膜の出口部から静脈チャンバーにかけてが特に凝固しやすいです。また抗凝固が不十分だと起こります。
[対処]
シリンジで吸引・フラッシュ、回路・カテーテル交換、設定変更(血流量↓濾過量↓)をが挙げられます。ACH-Σの回路は血流量を下げると凝固しやすいため、血流量を下げるのはあくまでアラームをならないようにする「一時的」対処になります。
静脈圧・入口圧上昇アラーム対応
原因 | 対処 |
送血回路の屈曲、ねじれ | 原因の解除 カテーテル交換 |
回路内凝固 (膜出口部、静脈チャンバーなど) | シリンジで吸引・フラッシュ 回路・カテーテル交換 設定変更(血流量↓濾過量↓) |
TMP上昇アラーム
TMP(Trans-Membrane Pressure)とは「膜間圧力差」のことで血液側の圧力と透析液側の圧力差を指します。血液側の圧力が高い、もしくは透析側圧力低い、もしくは両方の場合はTMPが上昇します。
原因1 側孔(膜)の目詰まり
濾過流量の高い設定や敗血症などの病態で、蛋白やサイトカインを膜が吸着・トラップしきって中空糸の側孔が目詰まりを起こし、TMPが上昇することがあります。また、膜内凝血でもTMPが上昇することがあります。その場合、入口圧も上昇することが多いです。
[対処]
設定(濾過量↓)変更で速やかに対処できます。濾過を引き続き行いたい場合は膜の交換を行います。
TMP上昇アラーム対応
原因 | 対処 |
側孔(膜)の目詰まり | 設定(濾過量↓)変更 膜の交換 |
側孔(膜)の目詰まり
気泡混入アラーム
患者側に気泡を送らないよう送血側回路に気泡検知器があります。超音波で検知するタイプと赤外線で検知するタイプがあります。年々精密さを増し、目に見えないマイクロバブルも検知できるほど進化しているそうです。実際にアラームが鳴って見てみると気泡が見当たらない時もありました。(マイクロバブル?誤作動?)
原因1 気泡検知器の装着不足
回路が気泡検知器から外れている場合にアラームが発生します。取付けられている状況でも隙間を検知することがあります。
[対処]
正しく装着します。
原因2 プライミングライン・脱血側回路からの大量気泡混入
プライミングラインのクランプし忘れや脱血側回路からの気泡混入により送血側回路にある気泡検知器にエアが送られ、アラームが発生することがあります。他にもブラッドアクセスに穴が開いていたり、開始時のシリンジ操作を誤ったりしてエアを引き込んだ経験があります。
[対処]
アラームが鳴ってる頃には気泡が大量で対処しきれないので回路の交換を行います。少量なら静脈チャンバーでトラップ・液面調整によって、気泡を除去します。
原因3 原因1でも2でもない!過度の陰圧?プライミング不足?
目に見える気泡もあれば見えない場合があります。原因不明ですが気泡が発生することがあります。
[対処]
通常の気泡除去と同じ作業をします。装置によっては対処方法が表示される物があります。血液ポンプの停止を確認したら送血側回路をクランプし、静脈チャンバーに気泡を戻します。気泡が取れたのを確認できたらポンプを回します。アラームが解除できない場合は回路の交換を行います。
その他のアラーム
圧下限系
血液ポンプ流量が遅かったり、回路のどこかに血液が漏れていると圧が上昇せず圧下限アラームが鳴ります。明らかに理解できる原因が多いですが、たまに原因が分からず、落ち着いて施行している時にも関わらず突然圧下限アラームが鳴ることがあります。圧測定部を大気開放したり、回路内をフラッシングしたりすると解除されることがありました。
シリンジポンプ
抗凝固剤を注入するポンプで通常のシリンジポンプと機能は同じです。対処法も同様ですが、薬剤ラインの先は患者ではなくCHDFの血液回路であるため、機械のよっては逆流しやすかったり、回路側に引き込みやすい構造です。交換時はクランプの閉鎖を忘れず行いましょう。
透析液・補液系
機器によって容量で見るタイプ、重量で見るタイプがありますが、機能は同じです。使用中はほとんどの場合、液切れアラームが発生し、透析液・補液を交換します。プライミング中にアラームが発生した場合は回路が正しくセットされていない場合が多いため、確認が必要です。
ICUでの臨床工学技士の常駐可等で、どこの施設でも臨床工学技士が当たり前にいる環境になってきました。技士が当直・夜勤ではなくオンコール体制で看護師がCHDFのトラブル対応を積極的に行う施設もあります。当院も自分が新人の頃はマニュアルと呼べるものがなく、右も左もわからず一人でトラブル対応を行うことが多々ありました。トラブル時の「その場の対応」も大事ですが、各施設のトラブル時の仕組みづくり、事前に「体制」をつくることが一番かなと思います。
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参考にした資料
[参考書]CRRTポケットマニュアル(2015)
[参考書]臨床工学技士のための血液浄化療法フルスペック(2014)