小児科のある病院では先生も僕らCEも一度は頭を悩ませる、話題ではないでしょうか。
CHDFの回路に血液充填を用いることにより、今では1kgの新生児にもCHDFが安定して開始できる時代になってます。
そんな血液充填によるCHDFプライミングについて、お話しようと思います
血液充填プライミングの Point!
・体格が小さいほど希釈の影響を受けやすいので回路に血液充填が必要
・血液充填には赤血球濃厚液(RCC)やアルブミン製剤を使う
・充填した血液回路は洗浄(透析)するとなお良し!
血液充填なんで必要なの?
循環血液量は人間の体重の約8%(1/13)といわれています。
体重60kgの一般男性の血液量は
60(kg)×0.08=4.8(L)=4800(ml)
体重3kgの赤ちゃんの血液量は
3(kg)×0.08=0.24(L)=240(ml)
となります。(厳密には小児では体重当たりの血液量は多いです)
CHDFの回路内のプライミングボリューム(PV)を生食100mlだとすると、希釈の面では一般男性はそこまで気になりませんが、赤ちゃんだと体重あたりのPVが多いため、このまま治療を開始すると血液がかなり薄くなってしまいます。
プライミングで使用する生食は組成がNaCl(塩化ナトリウム)だけなので、この状態で開始すると、電解質異常からくる痙攣、不整脈や過度の希釈による血圧低下(イニシャルドロップ)が起きてしまい、安全に行えないです。
この希釈のよるリスクを改善したのが、合成血の充填・洗浄による血液プライミングです!!(勝手にそう呼んでます)
当院でも基本的にPV(プライミングボリューム)が血液量の「10%以上」の患者に血液充填を行います。
なかにはぴったり10%くらいな患者もいるため、その場合はHb値やバイタルを確認し、必要であれば血液充填を行うようにしています。
血液プライミングの方法(充填)
膜と回路はできるだけPVの少ないものを選びます。回路内のプライミング(エア抜き・洗浄)は通常通り行います。
一般的に各施設で行われている方法は
赤血球濃厚液(RCC)とアルブミン製剤(or新鮮凍結血漿(FFP))
を混ぜて合成血を作成する方法です。
通常通りプライミングを行った後、別ルートから気泡が入らないように合成血を回路内に充填します。
その合成血の割合についてですが
ガイドラインで公表されている合成血は
RCC : FFP(or 5%Alb) = 1~3 : 1
となっています。
ちょっとざっくりしてるなー。
と思ったので、他施設で働いている知人に聞いてみると
某大学病院で実際に使用されている合成血は
RCC : 20%Alb = 3 : 2 ~ 4 : 3
違う某大学病院で実際に使用されている合成血は
RCC : 5%Alb = 2 : 1
となっています。
RCCを多めにし、アルブミンを使用する施設が多い印象です。
当院での合成血のレシピをご紹介すると
で作ることが多いです。
この割合で約70mlのPVだと回路内のHct値が約30%、アルブミン値が5.7g/dlくらいになります。
自分は予想される回路内や患者との接続後(希釈後)のHb・Hct・Alb値を計算しておき、治療開始時におおきく値が変動しないかを確認しておきます。医師にも値を見せてできるだけ安心してもらえるよう努めてます。
血液プライミング(洗浄)
血液製剤はカリウム値が高く、凝固防止にクエン酸が含まれており、そのためカルシウム値も低いです。これらを患者接続前に除去する目的で、回路内血液に透析を行います。
方法としては
サブラッドBSGを用いて血液流量20~40ml/min、透析液流量500~1000ml/h、5~15分間透析し、血液ガス検査を行い、カリウムや重炭酸などの電解質の確認を行います。
この時、クエン酸は除去され、カルシウムは追加されるので、凝固防止目的にヘパリンを少量追加する場合もあります。
いろんな方法ありますが、自分は脱血側回路(A側)と送血側回路(V側)をバイパスし、間に合成血の入ったシリンジを挟み、充填と洗浄を同時に行う方法をとっています。
血液充填
上図の状態で血液ポンプを回し、回路内のプライミング液をグルグルさせながら除水をかけることで、回路内の水分は排液され、シリンジ内の血液は回路内に満たされていきます。自分は除水400ml/hでかけ、60mlの合成血なら約10分で回路内に血液を充填できます。
血液洗浄
血液充填中に透析液を流すことで、カリウムやクエン酸の除去、カルシウムや重炭酸の補充などを目的に血液を洗浄します。QDは2000ml/h、QBは80ml/minで約10分間行います。透析液は通常サブラッドを使用しますが、自分は凝固防止目的で生理食塩水で洗浄します。サブラッドによる洗浄に比べて、回路内の電解質の値がおおきくばらつくため、治療前にあらかじめカルシウムなどを患者に投与してもらうこともあります。
透析を行わない場合は、
K吸着フィルターでRCCを充填(K除去)
100mlあたりメイロン5~10ml(pH調節)
カルチコール5~10ml(Ca補正)
ヘパリン2単位/ml(凝固防止)
で補正し、同様に電解質の確認を行います。
CHDF開始!
血液プライミング(充填・洗浄)終了後は回路内の血液ガス検査を行い、電解質やHb・Ht値を確認します。患者接続直前までできるだけ血液ポンプは回しておき、洗浄で使用した生理食塩水は忘れないようしっかりサブラッドに交換しておきます。
準備が整ったら血液ポンプを止め、患者に接続し、低流量からスタートします。バイタルが特に問題がなければ目標の流量に設定し、必要であれば検査を行います。体格の小さい患者は少量の採決でも血液量に影響するため必要以上のリスクになる検査は控えています。
洗浄後は患者接続までに回路内を循環させて固まらないようにし、血液ポンプを止めてから患者接続は速やかに行い、接続後は血液ポンプを低流量から開始し、血圧・脈拍を見ながら徐々に目標の血液流量に合わせていくのが、基本的なやり方です。
慣れない操作が多いため、個人的には小さなミスが普段より多く見られる印象です。できるだけ複数人で行いましょう。周りに助けられることが結構ありました。
血液充填の必要な患者とは
PVが循環血液量の10%以上の場合に血液プライミングが必要といわれています。
例えば
体重3kgの患者の血液量は
3(kg)×0.08=0.24(L)=240(ml)
使用する回路・モジュールのPVは
血液浄化装置:ACH-Σ
回路:CHDF-PSG(PV=A側20ml、V側23ml)
膜:UT-01Seco(PV=10ml)
ブラッドアクセス:ベビーフロー(PV=1ml)
Total PV=54ml
循環血液量240×0.1(10%)=24に対して、PVは54なので、血液充填は必要。と判断します。必要ではない場合でも、Hbが低い患者では安全のため血液充填を行うことがあります。
その他の方法
CHDF治療の終了時や定期交換などの際に、回路内に残った血液をプライミングラインから生食で押し出して返血するのが一般的な回収操作ですが、小児だとボリュームが多く、溢水の原因になるので基本的には返血は行わないです。残った回路内の血液はそのまま破棄することになります。
しかし、中には残血をあえて取っておき、回路交換の時に充填する「自己血プライミング」と呼ばれる方法や、別の血液浄化装置で新しい回路と膜を生食プライミングしておき、残血が入っている装置と直列につなぎ、新しい回路に残血を置換する「ドミノ式充填」と呼ばれる方法があります。
オススメ関連記事
血液浄化 はこちら
抗凝固剤 はこちら
輸血 はこちら
輸液 はこちら
電解質 はこちら
その他の記事 はこちら(HP)
参考にした資料
[参考書]小児急性血液浄化ハンドブック(2013)