経肺圧は先日簡単に説明しました。
今回は食道内圧を見れるようになって
経肺圧の世界をみなさんに理解していただこうと思います。
呼吸器管理でぐっと視野が広がりますよ!
PEEPを決める食道内圧
食道内圧はよく「PEEPを決定するもの」として浸透していますね。
自発のない患者ではそのように理解して問題はあまりないかと思います。
通常の呼吸器管理を行っていたこちらの患者はとても太っていて、酸素化不良が問題になっていました。
ARDSや肥満の患者では肺の外側の圧力が強く、肺の内側の圧力(PEEP)が弱く十分に換気ができていない可能性があります。
せめて肺の外側の圧力を知れれば・・・こんな時に測定するのが「食道内圧」です!
食道内圧は文字通り食道内をバルーンで測定した圧力です。この食道内圧を「肺の外側の圧力(胸腔内圧≒食道内圧)」と模擬して人工呼吸器管理に役立てるのです。
こちらのバルーンを入れて、さっそく食道内圧を測ってみましょう。(食道内圧バルーンの挿入方法は後で解説します↓↓↓)
食道内圧(Pes)を測定してみると14cmH20ということがわかりました。
設定しているPEEPは10cmH20に対し、食道内圧は14cmH20ということは
内側圧力10cmH20に対し、外側圧力14cmH20なので4cmH20肺は押されているということです。
経肺圧 = 気道内圧 - 胸腔内圧(≒食道内圧)
これは肥満による脂肪の重さや、ARDSなどで発生した肺水腫の水分が肺を押している圧力です。
このように肺が押されていると肺胞が虚脱してしまいます。換気が十分にできなかったり、換気血流不均衡が起こって酸素化も障害され、また、換気のたびに肺胞が虚脱と伸展を繰り返して肺損傷(VALIなど)を起こす危険があります。
外側の圧力は14cmH20なので、肺胞が虚脱しないよう内側の圧力も同じくらいにします。PEEPを14cmH20に設定してみましょう。
PEEPを14cmH20に設定、食道内圧も14cmH20なので、経肺圧(Ptranspulm)の基線も0になりましたね。肺胞が守られた食道内圧測定で理想的なPEEPになります。
PEEP設定後は酸素化すぐに改善、その他の治療もうまくいって1週間で人工呼吸器を離脱できました。
自発のない患者では上のようにPEEPを適切に設定できます。
自発のある患者でも「経肺圧」の考え方は同じなので、食道内圧測定が役立ちます。
自発のある患者の食道内圧測定
先ほどと同様に肥満患者、自発のある人工呼吸の症例です。
人工呼吸器の陽圧換気(気道内圧)に加えて、自発による陰圧換気(胸腔内圧≒食道内圧)も混じってちょっと複雑に見えますが、見るポイントは「経肺圧(Ptranspulm)」です。
呼気時(基線)はきれいな横線になりませんが、できるだけ0cmH20になるようにPEEPを調整します。この時は10cmH20程度でおおよそ0cmH20になるので、これで経過しました。
また経肺圧 = 気道内圧 - 胸腔内圧なので吸気時の経肺圧は「18-(-2)=20cmH20」程度になります。
食道内圧を測定していない時は最高気道内圧 18cmH20とPEEP 10cmH20しかわかりませんが、
食道内圧を測定していると、上に加えて吸気時経肺圧 20cmH20、呼気時経肺圧 約0cmH20、とここまで把握できます。
治療に役立てていただけれと思います。
食道内圧バルーンを挿入する方法
事前に挿入の長さを把握するために体表から長さを測ります。
まず、剣状突起→耳たぶ→鼻の先端までの長さを測ります。
この長さがカテーテルの挿入長の目安になります。
カテーテルを人工呼吸器に接続(ここでバルーンテストを行う)
カテーテルにガイドワイヤを入れて挿入していきます。
経鼻or経口で約50~60cm挿入していきます。
抵抗を感じる場合はいったん挿入を止めて、カテーテルを少しずつ回しながら挿入します。
50~60cm挿入したらバル―ンを膨らませます。
心臓の拍動が食道内圧波形に現れるまでゆっくりとカテーテルを引き抜きます。
心臓の拍動が見られれば、おおよその留置位置は合ってるので次に進みます。
ここで人工呼吸器で呼気ホールド(呼気で止める)ボタンを押し、呼気が止まっている間に 患者の胸部を手のひらで押して、圧迫します。
食道内圧と気道内圧が上がります。
ここで気道内圧の変化量(ΔPaw)と食道内圧の変化量(ΔPes)の比を見ます。
理想は1:1ですが、0.8~1.2まで許容です。(許容誤差20%)
画像は0.94なので、これで留置位置はOKです。
テープで固定、ガイドワイヤを引き抜きます。
胸部レントゲンで最終の位置確認して問題なければOK
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経肺圧について はこちら
人工呼吸器の波形解析 はこちら
その他の記事 はこちら(HP)
参考にした資料
[雑誌]人工呼吸器(INTENSIVIST,2018)