消化器の病気には臨床工学技士も携わることがあって、血液浄化療法を行うことが多いです。
エンドトキシン吸着療法や血漿交換(PE)、持続的血液濾過透析(CHDF)など適切にデバイスを選択することで有意義な治療ができます。
実は消化器疾患こそ、技士の腕の見せ場なのです!!
臨床工学技士がICUに臨むうえで関わることが多い消化器疾患をリストアップしてみました。
・腹腔内感染
・非閉塞性腸管虚血(NOMI)
・急性肝不全
・重症急性膵炎
順に解説していきます。
腹腔内感染
急性腹症とは「発症1週間以内の急性発症で、手術などの迅速な対応が必要な腹部(胸部等も含む)疾患」と定義されています。
急性腹症診療ガイドライン2015
ざっくりまとめると
急激な腹痛で手術や緊急処置が求められる腹部の疾患を急性腹症と言います。
実際には腹部以外の急性腹症も存在します。(心筋梗塞、肺炎など)
急性腹症が疑われたら、まずバイタルの安定化をはかり、血液検査や胸腹部X線、腹部エコー、腹部CT、心電図、MRIなどの検査を行います。その後は必要であれば手術や内視鏡、IVRなどが行われます。
血管破裂、腹腔内出血、腸管虚血/壊死、汎発性腹膜線、炎症性急性腹症は緊急手術になることが多いです。なかでも急性虫垂炎、急性胆嚢炎、ヘルニア嵌頓、腸閉塞、消化管穿孔、は特に緊急手術になることが多いです。
これら急性腹症の中でも、消化管穿孔(消化管に穴が開く)や細菌感染(肝臓・胆のう・膵臓などの炎症)によって腹膜炎が起きると「腹腔内感染」が疑われます。
腹腔内感染が疑われたときは血液培養を採取し、抗菌薬を投与します。
上部より下部の消化管穿孔の方が予後不良になりやすいです。その原因の一部は「エンドトキシン」の存在にあります。
下部消化管穿孔は大腸菌を中心とした敗血症(エンドトキシン血症)になることがあります。
病変部の腸管切除や人工肛門増設などの外科的処置を行いますが、ICUではここでエンドトキシン吸着療法(PMX)やサイトカイン吸着のCHDFが良い適応になります。
エンドトキシン吸着療法
人の消化管内にある大腸菌などのグラム陰性桿菌の細胞壁にはLPS(リポポリサッカライド)と呼ばれる毒性部分があり、これがいわゆる「エンドトキシン」になります。
この悪さをするエンドトキシンを除去するために誕生した吸着膜が「トレミキシン」になります。
トレミキシン(PMX)は商品名でポリミキシンを充填した血液吸着器です。

このポリミキシンがエンドトキシンを特異的に吸着除去します。
エンドトキシンの他にアナンダマイド(内因性大麻)や活性化好中球などを吸着し昇圧や急速な治療効果が得られます。生体に必要な血小板も吸着してしまうので、注意が必要です。
トレミキシンは直接血液潅流法(DHP : direct hemoperfusion)によって血液をトレミキシンの中に流し血中のエンドトキシンを吸着させます。
非閉塞性腸管虚血(NOMI)
非閉塞性腸管虚血(NOMI : non-occlusive mesenteric ischemia)は
腸間膜血管に閉塞がないのに腸間膜虚血が起こることです。腸管壊死を起こせば手術が必要です。
心拍出量低下や循環血液量減少などで腸間膜血管が攣縮して起こると言われています。予後不良です。
低心拍出量時に脳は血流維持が優先されるため、腸管が攣縮しやすいです。
心外の術後や出血性ショックなどが原因で上げられますが、透析(HD)で合併することもあります!
腹痛や下痢などが症状で、造影CTで確認します。
急性肝不全
急性肝不全(ALF : acute liver failure)は急性に肝機能が障害され黄疸や出血傾向、意識障害(肝性脳症)が起こる病気です。
急性肝不全の診断基準
・プロトロンビン時間40%以下
・PT-INRが1.5以上
これらの急性発症で「急性肝不全」とされています。
他にも血液検査で
総ビリルビン(T-Bil)増加
トランスアミナーゼ(ALT、AST、γ-GTP)増加
アルブミン値(Alb)低下
アンモニア(NH3)増加
などがみられます。
急性肝不全は非昏睡型、昏睡型に分類されます。重症例では肝性脳症で意識障害が起き、昏睡になることがあります。
劇症肝炎
劇症肝炎は急性肝不全と似ていますが、少し意味が違います。
劇症肝炎は
肝炎のうち急性発症の肝機能異常で昏睡II度以上の肝性脳症、プロトロンビン時間40%以下
つまりウイルスや薬物などが原因による肝炎(慢性肝不全を除く)が背景にあって、昏睡型の急性肝不全が劇症肝炎になります。
急性肝不全より劇症肝炎の方が重症になります。
急性肝不全の治療
原因に関係なく血漿交換(PE : plasma exchange)をすることが多いです。
血漿分離器や遠心分離器によって、患者血漿と新鮮凍結血漿(FFP)を交換します。

他にも「slow PE」や「PE + HFCHDF」、「on-line HDF」が望ましいと言われています。
肝疾患に対するアフェレシスはこちら
PEに効果がない場合は肝移植も考慮します。
肝不全中のCHDF
肝不全の状態でCHDFやHDを行う時には薬物の減量を行うことがあります。肝不全時は代謝能が低下しているため、薬物中毒になるリスクがあります。CHDFの設定や腎機能に応じて減量を試みます。
重症急性膵炎
重症急性膵炎(SAP)はアルコールや膵管閉塞などによる膵臓の急性炎症です。重症ではサイトカインが過剰に産生され、膵臓以外の臓器不全や播種性血管内症候群(DIC : disseminated intravascular coagulation)が起きます。
重症急性膵炎の診断
上腹部に急性腹痛発作と圧痛
血中or尿中に膵酵素(膵アミラーゼ・リパーゼなど)の上昇
超音波、CT or MRI で異常所見
重症急性膵炎の治療
重症急性膵炎では「急速輸液」が治療の中心になります。
もちろん過剰輸液には気をつけます。
急性膵炎が重症化するとバイタルが崩れることが多いので、まずは循環動態を安定させます。
疼痛治療で鎮痛薬、重症例での抗真菌薬予防投与を行うことがあります。
急性腎障害(AKI)を合併して尿が出ない場合やサイトカインやトリグリセリドを除去ターゲットに重症例では持続的血液濾過透析(CHDF)を推奨し、サイトカイン除去・体液管理を行います。
治療初期に大量輸液を行うので、CHDF治療では除水を中心にすることが多いです。
重症急性膵炎では過剰のサイトカインが病原物質なので、CHDFの血液濾過膜はサイトカイン吸着膜(PMMA膜、AN69ST膜)が望ましいです。

血漿交換(PE)は高脂血症に対し血清トリグリセリドを下げる報告がありますが、推奨度は低いです。ちなみに、保険適応はありません。
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参考にした資料
[参考書]臨床工学技士集中治療テキスト(日本集中治療医学会,2019)