補助人工心臓(VAD)とは
「心不全患者に対して心機能を機械的に補助する装置」のこと。
中でも植込み型VADはつくりこそ単純ですが、様々な合併症がつきものです。
VADで頻度の高い、もしくは特徴的な合併症を紹介します。
ドライブライン・ポケット感染
感染を起こすと挿入部である皮膚の熱・変化がみられます。
ドライブライン感染は植込み型VADで最も頻度の高い合併症です。
定期的に培養をとって起因菌を同定し、いざ!というときに適切な抗生剤を選択できるようにします。
ポンプ内血栓
異物(血液ポンプ)による反応や心房細動、不十分な抗凝固療法などが原因としてあげられます。
心不全症状、聴診によるポンプ異音、血液検査でLDH↑、ポンプ出力(W)↑、ポンプ流量↓が見られます。
ポンプ内血栓は実際にポンプを取り出して確認しないと断定できないです。
心エコーや右心カテーテル検査を行い、抗凝固療法の強化(PT-INR↑)やポンプそのものを交換することがあります。
血液ポンプも低流量にならないよう回転数、水分管理を調整し日頃から予防します。
溶血
血栓形成に続発したり、ポンプの回転によってLDHや遊離Hb値が上昇することがあります。
脳卒中
発症すればCT撮影を行い、出血があれば抗凝固の中和を行います。
血液凝固第IX因子(ケイセントラ)、FFP、血小板投与でPT-INR↓
ビタミンK製剤は効果に時間がかかるため推奨されていないです。
出血が見られない場合は塞栓症による脳梗塞の可能性があるため造影CTを行うことがあります。
平均動脈圧90mmHg以下、ポンプの回転数もサッキング(吸いつき)や大動脈弁が開放するように調整し日頃から予防に努めます。
消化管出血
VAD患者では消化管出血が起こり、抗凝固療法や動静脈奇形形成や後天性フォンウィルブランド症候群などが原因として考えられています。
上部・下部消化管内視鏡やカプセル内視鏡で検査します。
発症すれば抗凝固療法の調整、絶食+中心静脈栄養、輸血で出血を一時的に乗り切る方法が行われます。
右心不全
左室の流量はLVADによって確保できますが、右室の流量は自己心機能や血管の状態によって左右されます。
LVADの流量が多すぎると静脈還流が増え、左室縮小・右室拡大(中隔のシフト)から右心不全を起こすことがあります。
他にも浮腫や胸水貯留が見られます。
LVADが安定していれば、心エコーや右心カテ、血液検査を行って右室の状態を把握します。
CVPの低下は利尿薬や血液濾過透析
肺動脈圧の低下はNO吸入療法やPDE5阻害薬
心収縮力の増加はβ遮断薬の減量や強心薬
などの薬剤を選択します。
強心薬は血管拡張作用のあるミルリノン(PDE3阻害薬)が推奨されています。
ペースメーカが植え込まれている患者はペーシングレートを調整することもあります。
血液ポンプの回転数は最小限にして日頃から予防します。
大動脈弁逆流(AR)
大動脈弁が血液ポンプの連続流で引っ張られ、大動脈弁が逆流し、ポンプと心臓の間でリサキュレーション(再循環)が起こります。
血液ポンプの回転数を下げたり、心筋保護薬(β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬)で予防しますが、ARが起こった場合は血液ポンプの回転数を調整し強心薬や利尿薬を使用することがあります。
不整脈
vfであれば除細動をします。
VADによって流量は保たれているため意識ははっきりしていることが多いです。
ICDの除細動機能は基本OFFにします。
オススメ関連記事
補助人工心臓(VAD) はこちら
PCPS・ECMO はこちら
インペラー はこちら
NO吸入療法 はこちら
心不全 はこちら
その他の記事 はこちら(HP)
参考にした資料
[参考書]必携! 在宅VAD管理 植込型補助人工心臓による治療の進歩とQOLの向上(日本人工臓器学会,2019)
[雑誌]補助人工心臓の進歩と課題(医学のあゆみ,2018)
[指針]重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドライン(各学会,2021)
[指針]急性・慢性心不全診療ガイドライン(各学会,2017)